ニュースレター

2015年01月30日

 

「ESDの10年」の成果とこれから ~ 日本のESDにおける市民イニシアティブの視点から

Keywords:  ニュースレター  教育 

 

JFS ニュースレター No.149 (2015年1月号)

写真:ESDの10年の世界会議
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2015年が幕を開けました。昨年までの10年間、国連が定めた「国連持続可能な開発のための教育の10年(UN Decade of Education for Sustainable Development:ESDの10年)」に関連して、各国で様々な新しい教育の試みが進んでいたのをご存知でしょうか? その最終年をかざる世界会議が昨年末に日本で開催されました。そこで、日本でESDの推進役を担う「認定NPO法人持続可能な開発のための教育の10年推進会議(ESD-J)」の理事・事務局長 村上千里氏に、この10年の成果と課題、さらに今後の抱負を語っていただきました。

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「ESDの10年」は、2002年のヨハネスブルグサミットにおいて、日本のNGOの発案をもとに日本政府と共同提案し、国連決議を経て2005年よりスタートしました。この提案に関わったNGOが呼びかけ、2003年に発足したのがESD-Jです。ESD-JはNGO、教育機関、企業、自治体、教員、研究者など、多様な主体が参画するネットワークNGOで、約100団体、260個人から構成されています。

本レポートでは、市民社会側から日本のESDムーブメントを推進してきた立場から、この10年の成果と課題についてお伝えします。

市民イニシアティブを「ESDの10年」でメインストリームに

社会が抱える様々な課題を解決するためのオルタナティブな教育活動は、ESDの概念の登場以前から、NGOや一部の教員・市民によって行われていました。環境教育、開発教育、国際理解教育、人権教育などがそれであり、そこでは参加体験型の学び、学習者主体の学び、社会的弱者のエンパワメントなど、ESDが大切にしている価値観や学習方法が用いられており、ノウハウが蓄積されてきました。「ESDの10年」は、地球環境が危機的な状況にあることを踏まえた上で、このオルタナティブな学びを、教育の主流に入れていくチャンスでした。日本の教育制度は中央集権的であり、政府が動けば教育改革の波が全国に広がる可能性を持っているからです。

すでに行われていた先進事例の1つが、宮城県気仙沼市の面瀬小学校にあります。同校は2002年から、1年生から6年生まで、地域の環境を軸に暮らしや産業とのつながりをも学び、持続可能な未来を描くストーリーを持ったカリキュラムを作成。地域の博物館や漁師さんや商店主など多様な方の協力を得て、フィールドで実体験をしながら学ぶ取り組みを進めてきました。そのために、マルチステークホルダーによるESD協議会を立ち上げたのです。そしてこの取組を市の教育委員会が後押しして市全域に広げることとしました。

また、岡山市京山地区では、公民館を拠点に、学校や大学、地域コミュニティ、事業者、NPOなど多様な主体が参画して、環境点検活動をもとにした環境の保全と創出(「緑と水の道」づくりなど)、多文化共生、地域の文化や知恵を記憶・伝承する映画制作などに、子供から大人まで地域ぐるみで取り組んできました。岡山市では、全市的に公民館をESD拠点と位置づけ、職員にESDコーディネーター研修を実施したり、ESD条例を制定するなど、積極的にESDを推進しています。

これらの取り組みは、国連大学の推進する「ESD推進の地域拠点」(RCE =Regional Centres of Expertise)の認定で促進され、地域におけるマルチステークホルダーによる推進体制の成功モデルとして示されました(現在、RCEは世界130地域)。ESD-Jでは、地域の中でESDが発展していくプロセスを丁寧に書き起こし、テキストブック『希望への学びあい』にまとめています。

トップダウンで広がった、学校におけるESD

当初は市民のボトムアップで動き始めた日本のESDは、2008年頃から、文部科学省が「ユネスコスクール」をESD推進校として位置づけ、その認定を推奨し、支援施策を進めたことで、学校への認知度が高まりました。政府が掲げた「2014年までに500校」という数値目標は2013年には達成され、現在800校以上に達しています。

ユネスコスクールになるためには、学校として継続的にESDに取り組んでいく計画を提出しなくてはなりません。この枠組みに参加することによって、以前は一部の教員によって行われていたESD的な活動が、学校全体で取り組まれるようになったことが大きな成果といえます。熱心な先生だけが頑張り、その先生が異動すると、その学校のESDが途絶えてしまうことが大きな課題だったのです。

また教員への研修では、参加体験型の学び、学習者主体の学び、そして地域との連携による学びなどが重視され、広がりつつあります。学校と地域が連携して行うESDが広がることで、地域に大人と子供の学びあいが生まれ、よりよい地域づくりへの関心や参加が広がった地域が着実に増えつつあります。取り組むテーマも、食と農、エネルギー、防災、福祉、多文化共生、文化の継承など、様々に広がりを見せています。

「ESDに関するユネスコ世界会議」の開催

「ESDの10年」最終年の2014年11月、様々な「ESDに関するユネスコ世界会議」関連のイベントが岡山と名古屋で開催されました。国内外からの閣僚級を含む約1,000人超の参加者が、10年の活動を振り返り、2014年以降の方策について議論しました。

ESDに関するユネスコ世界会議|文部科学省
http://www.esd-jpnatcom.jp

ESD-Jでは世界会議に先駆け、「ESDの10年」終了後のESD推進に必要な政策形成に向けて、2014年1月より、全国10か所での地域ミーティングや政策提言フォーラムを開催し、13の提言をとりまとめました。提言には、地域コミュニティ単位で学校と地域が連携したESDを進めること、コーディネーターを育成し活躍できる場をつくること、学習指導要領にESDを明記すること、地域のESDを支援するためのマルチステークホルダーによる協議会とESDナショナルセンターを設置することなどを盛り込みました。

また、ESDに関心の高い企業約30社によびかけ、4月から10月にかけて「ESDと企業の集い」を開催し、企業向けのESD行動指針をとりまとめた「企業におけるESD宣言」を作成しました。これには、14の企業及び経済団体が賛同しています。

そして名古屋での世界会議では、参加者およびユネスコに対し、日本のESD推進における市民イニシアティブのアピールと、「地域と市民社会からのESD提言」「企業におけるESD宣言」を紹介しました。

ESDの重要性は2012年のRio+20の成果文書「The Future We Want」にも謳われ、2015年以降も世界でESDに取り組むことが明記されました。それにも関わらず、ESDの認知はいずこの国でもそう高くはないのが現状です。そのような状況を打開すべく、世界会議では、ESDの成果や到達点、ESD推進の課題、ESDを強化するために求められる行動などについて意見が交わされました。

そして最終日に、2015年以降のESD推進のフレームワークともいえる「グローバル・アクション・プログラム(GAP)」がスタートし、「ESDに関するあいち・なごや宣言」が採択されました。宣言には、ESDの価値を確認し、ユネスコ加盟国にESDを教育と開発の政策に位置づけること、ポスト2015開発目標にESDを明記するよう働きかけることなどが盛り込まれています。ぜひこの呼びかけに呼応し、各国でESDのムーブメントを起こしていただきたいと思います。

2015年以降のESD推進に向け、いっそうの連携強化を

日本では世界会議終了の翌日11月13日、国内における2015年以降のESD推進のあり方を議論する重要な場として「フォローアップ会合」(文部科学省主催、環境省・外務省共催)が開催されました。会合は約300名の参加者を得、学校や地域でのESD推進、ユースの参画、コーディネーターの育成、ESD推進のネットワーク形成などについて、政府を含む多様な主体が議論を行いました。

ESDの推進には持続可能な開発につながる様々な主体の連携・協働が欠かせないと考えるESD-Jでは、「ESDの10年」開始当初から日本政府に官民協働の体制づくりを働きかけていました。

その結果、2005年に「関係省庁連絡会議」が、2007年には研究者、NGO、教育関係者、企業などが参加する「ESDの10年円卓会議」が設置されました。

国連持続可能な開発のための教育の10年 ジャパンレポート
http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kokuren/pdf/report_h261009.pdf

しかしながら、この体制は十分に機能したとは言いがたく、ESD推進施策は各省バラバラに行われ、窓口も一元化されないままに「ESDの10年」は終了しました。GAPに盛り込まれた5つの優先行動分野にも、ステークホルダーとともに政策を議論していくことの有効性が示されています。2015年から始まるESDのセカンドステージでは、この「官民協働による政策形成」の実現に力を入れる必要があります。

写真:ESDの10年世界会議 サイドイベント
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認定NPO法人持続可能な開発のための教育の10年推進会議
理事・事務局長 村上千里

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