ニュースレター

2015年01月24日

 

自然エネルギーの固定価格買取制度の成果と電力システム改革の課題

Keywords:  ニュースレター  エネルギー政策  再生可能エネルギー 

 

JFS ニュースレター No.148 (2014年12月号)

写真:太陽光発電
イメージ画像:Photo by gridsurfer Some Rights Reserved.

2014年11月3日付の記事「電力会社、ぞくぞくと再エネ接続申し込みへの回答保留へ」でもお伝えしたように、電力会社が再生可能エネルギー発電設備に対する接続申込みの回答を保留する事態が、相次いで発生しています。
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035079.html

この事態を受け2014年10月2日、認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所は『一部電力会社の系統連系「回答保留」に対する意見と提言』を発表し、分析に基づく意見とあるべき方向性を提言しました。同研究所の松原弘直氏に、固定価格買取制度のこれまでの成果と今後の課題についてまとめていただいたので、ご紹介します。

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自然エネルギーの本格的な普及に向け2012年7月に施行された固定価格買取制度は、運用開始から2年以上が経過し、その大きな成果が様々な統計上の数字に表れてきています。特に急速に導入が進む太陽光発電は、2013年度末までに前年度比でほぼ倍増し、累積導入量は約1400万kWに達しました。その結果、大規模な水力発電を除く自然エネルギーによる発電量は、日本国内の全発電量の約4.7%となっています(出力1万kWを超える大規模な水力発電を含めると約11%)。

一方で、太陽光発電以外の風力、地熱、小水力やバイオマス発電などの導入量はあまり増えておらず、様々な課題を解決するため、ある程度の準備期間が必要な状況です。発電量の内訳は、太陽光1.3%、風力0.5%、地熱0.2%、小水力1.6%、バイオマス1.1%となっています。

本制度により導入された発電設備の設備容量や件数が、2014年度からは市町村別に公表されるようになり、発電量については国内全体の数字が電力調査統計(資源エネルギー庁)などで公表されています。

本制度開始から2014年8月末までの自然エネルギー発電設備の新規の設備認定は、設備容量で7200万kWを超えましたが、その約96%は太陽光発電となっています(52%が出力1MW以上のメガソーラー)。風力発電やバイオマス発電の設備認定はそれぞれ約130万kWになりますが、中小水力発電は約30万kW、地熱発電は1.4万kWに留まっています。

これらの本格的な普及には、環境アセスメント手続きの短縮、土地利用のゾーニング、社会的合意形成、電力系統の整備などの課題を着実に解決していく必要があります。新規に設備認定された設備のうち約17%にあたる約1200万kWが実際に運転を開始していますが、この制度開始前から運転していて本制度に移行した発電設備を含めると2100万kWを超えます。運転を開始している発電設備(移行分を含む)の約80%が太陽光であり、残りは12%が風力、6%がバイオマスとなっています。

この設備認定の状況を電力会社の管内毎に整理してみると、電力会社の中で、九州電力では移行認定を含めてすでに約2000万kWが設備認定されています。これは九州電力が保有する全発電設備(2012年度末時点)の容量に匹敵し、年間の最大電力(2013年度実績)の約120%に相当します。

この様に最大電力の100%を超える高い比率で設備認定が行われている電力会社は他にはありませんが、東北電力でも全発電設備の約73%に達しています(最大電力の93%)。一方で、電力需要が集中している関東や中部、関西では最大電力の20~40%程度に留まっており、会社間連系線で接続され従来から電力融通を行っている東日本および中西日本という広域でみると、自然エネルギーの設備認定の割合は最大電力の50%程度となっています。

本制度の中でも重要な前提条件となっている電力系統への「接続義務」について、大手の電力会社が所有・運用する送配電網の電力系統への接続が困難になる状況が、全国各地で出始めています。特に太陽光発電の系統接続が集中した地域においては、ローカルな送電線の熱容量の問題だけではなく、地域によっては上位の特別高圧系統において容量不足となるケースが発生しています。現在の接続ルール(発電事業者負担)においては、最初に系統接続を行う発電事業者が工事費の全額を負担することが求められるため、接続負担金が非常に高額になる事例が出ています。

送電網を公共的なインフラと考える欧州では、発電事業者への系統接続の費用負担を最小限に抑え、公共性のある送電網の整備費用は送電事業者(TSO)や配電事業者(DSO)が負担して、総括原価方式で託送料金から広く薄く長期的に回収する仕組みが一般的で、自然エネルギーは「優先接続」となっています。それに対して日本では、送電系統への接続費用は全て発電事業者が負担するため、上記の様な事例が発生し、例外規定を持つ「接続義務」のルールはありますが、事実上の「接続拒否」となるケースが生まれています。

欧州では、すでにEU指令により各国で発送電分離が法制化されており、広域の電力市場の整備や電力自由化が達成されています。日本においても、現在進められている電力システム改革を実効的なものとして、発送電分離を前倒しで進め、送配電事業者が計画的に各地域の送配電網を整備できる仕組みを早急に作る必要があります。

2014年9月24日には九州電力から、9月30日には東北電力、北海道電力、四国電力から、相次いで自然エネルギー発電設備に対する系統接続申込みについて回答を保留するとの発表が行われました。経産省は新たに審議会(新エネルギー小委員会 系統ワーキンググループ)を設け、12月18日には太陽光発電の接続可能量の算定結果に基づき、系統接続ルールの見直し案を発表しました。

これらの電力会社が回答を保留した理由は、FIT制度により設備認定された主に太陽光発電の接続申込みの容量が、各電力会社が従来の電力系統の運用で想定していた接続可能量を大幅に超えているためとされており、今回の見直しでは太陽光発電の接続可能量の算定が公の場で初めて行われました。

しかし、自然エネルギーの「接続可能量」を算定するという手法では自然エネルギーの本格的普及には結びつかず、従来からの系統運用ルールを前提としているため需要側の調整や広域的な会社間連系線の活用等はほとんど考慮されていません。欧州各国の例からわかるように、系統運用のルールを見直すことにより、自然エネルギーの導入量をさらに増やすことが可能です。

これまでの電力系統の運用や、既存の電力システムに関する制度の改革が迫られています。この問題については、当事者の電力会社だけではなく、発電事業者やその地域の関係者など多くのステーホルダーが関与しており、自然エネルギーの本格的な普及に向けて公平かつ透明性を持った検討の場が必要です。

本来、自然エネルギーの「優先給電」のルールに基づき、既存の「ベースロード電源」(石炭火力や稼働を停止している原子力発電など)の扱いについても、必要な情報を開示した上で系統運用ルールを見直す必要があります。原子力発電所を福島第一原発事故前の様な水準でベースロード電源として運転することを前提にするべきではありません。

さらに、単に検討で明らかにされる問題点を解決する短期的な対策だけではなく、中長期的なエネルギー政策の展望や、自然エネルギーや省エネルギーに対する明確な高い目標を設定し、電力システムの改革やエネルギー政策の見直しを進めることが重要です。

固定価格買取制度に関して審議する正式な第三者機関としては、調達価格等算定委員会がすでにありますが、総合資源エネルギー調査会の新エネルギー小委員会で本制度の見直し案が検討され、12月18日に公表されました。その中で、来年度に向けて本制度の見直しが具体的に進められていますが、本来の自然エネルギーの最大限の普及という目的に沿って、調達価格の見直し等との密接な連携が求められます。

一方で、電力システム改革の制度設計について、電力システム改革小委員会の制度設計ワーキンググループで具体的に検討が進んでいます。本格的な電力市場の設計や発送電分離への道筋の具体化を、多くの国民に開かれた場で行い、持続可能なエネルギーとしての自然エネルギーについて、中長期的に本格的な導入を実現する制度や政策を実現していく必要があります。

〈参考〉
日本の再生可能エネルギーの現状
環境エネルギー政策研究所(ISEP)プレスリリース「一部電力会社の系統連系「回答保留」に対する意見と提言」(2014年10月2日)

(認定NPO法人 環境エネルギー政策研究所 松原弘直)

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