ニュースレター

2014年10月21日

 

「人口減少最先端 高知県の挑戦!」(後編)

Keywords:  ニュースレター  定常型社会 

 

JFS ニュースレター No.145 (2014年9月号)

写真:瓶ヶ森林道最高地点から西黒森
イメージ画像:Photo by As6022014 Some Rights Reserved.

前号では、高知県の尾﨑正直知事の「人口減少最先端 高知県のとりくみ事例に学ぶ」と題する講演から、日本の直面する問題を最先端で体験している高知県の包括的な取り組みから、産業振興を中心にお届けしました。今月号では、それ以外のさまざまな取り組みや考え方をお伝えします。

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高知県政では、人口減少問題を基軸にすべての政策を進めています。5つの基本政策として、「経済の活性化~産業振興計画の推進」「南海トラフ地震対策の抜本強化・加速化」「日本一の健康長寿県づくり」「教育の充実と子育て支援」「インフラの充実と有効活用」が、横断的政策として「中山間対策の充実・強化」「少子化対策の抜本強化と女性の活躍の場の拡大」があります。

具体的には、「経済規模の縮小、若者の県外流出」という課題に対しては、経済活性化のための「高知県産業振興計画」を推進し、「地産外商」「移住促進」に力を入れ、「全国一学びの機会が多い県づくり」を目指して、若者の学ぶ場の創設など教育の充実をはかっています。「過疎化・高齢化の同時進行による孤立化」という課題に対しては、「日本一の健康長寿県構想」を推進し、高知型福祉の実現をはかっています。

「中山間地域の衰退」には、中山間地域の生活を守り、産業をつくるための地域の拠点づくりなど、中山間対策を充実・強化しています。「少子化の加速」に対しては、少子化対策の抜本強化と女性の活躍の場の拡大をはかり、出会い・結婚・子育てのライフステージに応じた課題に対するワンストップでの総合的な支援を行っています。

地方の人口減少問題は、転出入数の差による社会減の問題もありますが、主として、出生数より死亡数が多い自然減の問題です。ですから問題解決は容易ではなく、いかに出生を中心的に担う若い世代が地元に残れるようにするのかが重要な課題です。

また、人口減少の痛みを和らげるために、「移住促進」も進めています。いろいろなキャンペーンを展開してHPに誘導し、移住関係の情報を見ていただくようにしています。移住・交流コンシェルジュを6人、市町村の専門相談員等を18市町村に22人配置しており、HPを見て関心を持っていただいた人に、寄り添っていく形で移住促進の取り組みを進めています。

移住実績は、平成24年は121組225人、平成25年には468人と、移住者が2倍以上に増えてきています。東京のNPOが出している「移住希望地ランキング」で、高知県は3年前までは20位までに入ってなかったのですが、平成24年は12位に、昨年は6位にと、少しずつ移住希望地ランキングも上がって来ています。

また、「人財誘致」にも力を入れています。人を呼んでくることは、企業誘致以上に重要なのです。それは、地域アクションプランとして新しい事業を地域で始めようとしても、「人が居ない」という問題があるからです。観光にしても、地元に受け入れ体制がないと、「もうこれ以上は来ないでください」ということになってしまいます。そこで、そういう担い手をこの移住促進によって連れてきたいと考えています。

林業振興にも力を入れています。高知県の最大の強みは、面積の84%を占める森林資源だと思っています。これを活かせるようになれば、資源大国になれるのですが、最大のネックはコスト高です。特に、高知の山は急峻な山なので、木を切り出すのにも大きなコストがかかります。その高いコストをどうやって補って利益が出るようにするのかが大きな課題です。

そのために大事なことは、木の根元からてっぺんまで、全部余すことなく使いきることです。良質材を建築用材に利用するだけではなく、中質材を集成材にし、昔なら捨てていたような低質材を、製紙用やバイオマス燃料用に使ってお金に換えていく。高知県の園芸農業は重油を使っているので、66億円が中東にわたっていることになりますが、それが高知の森に行くようになるとずいぶん違うのだろうと思います。

木質バイオマス発電所が2基、2015年4月から稼働することになっていて、低質材をお金に換える取り組みをします。あわせて中質材はCLTパネルにできればと思っています。CLTパネルとは、木を直交させて組み合わせるものです。木は繊維方向には強いのですが、繊維に対して直交する方向には弱いという性質があります。ですから、直交した板を貼り合わせることで、両方向に非常に強い材ができます。オーストリアやイタリアなどヨーロッパでは、CLTパネルを使って中高層の建物をどんどん作っています。

これが確立できれば、非常に大きな環境・経済効果が生まれます。例えば、日本にある中高層建築物の床面積の10%をCLTにすれば、それによって固定されるCO2の固定量は145万6000CO2トンになります。森林面積で換算すると、5,600ha相当です。さらに、建築時におけるCO2排出抑制を含めて計算すると、都市部に5,805haの森が生まれることになります。間伐材でまかなうとすれば、95,000haの森林の間伐ができることになり、木材産業で約4,000人、林業で12,000人という雇用効果が生まれます。東京オリンピックのための施設は木で作ろうということを、多くの皆さんに応援していただきたいと思います。

もうひとつ、人口の流出をとどめるためにも、過疎化が進んでいる中でも人びとが暮らせるようにするためにも、「中山間地域にお互いの支え合いのネットワークを意図的に作って行くこと」が大きな課題です。しかし、福祉政策上、非常に大きなネックとなっているのが「縦割り」です。例えば、高齢者向けの施設は高齢者のためだけです。障害者向けの施設は、障害者向けだけのサービスを提供する施設で、子ども向けは子ども向けだけの施設となります。

中山間では、それぞれの絶対数が少ないので、1カ所で全てのサービスを提供できることが大事になってきます。そこで、「あったかふれあいセンター」という、全てのサービスを提供できる施設を作っています。現在、県内で200カ所、そういう施設を作っており、いろいろなサービスを提供しています。複数集落間に「集落活動センター」という拠点を作っていくことで、外貨を稼ぐ活動もできるようになり、農業も林業も水産業も守られるようになり、食料を確保し続けられる日本で在り続けられるだろうと思っています。

最後に、少子化対策についてですが、若い世代が多い地域と少ない地域、子育て環境が充実している地域としていない地域と、日本を4つに分けることができるでしょう。それぞれの地域によって少子化対策の課題は全く違います。子育て環境が充実していて若い世代の人口が多い地域に必要なことは、経済的支援などの拡充を進めて、子どもを産める社会を作ることでしょう。東京23区のように、若い世代の人口は多いが子育て環境が整備されてないところは、待機児童解消が大きな課題でしょう。

一方、高知県や高知市には待機児童問題はほとんどありませんが、若い人の働くところがなくて若い人がどんどん減っていることが問題です。そこで、いかに若い人たちの結婚支援をするか、特に、減っている若い人の出会いの場を作ることが非常に重要なポイントです。

よく地域活性化というと、ある一つの取り組みだけ取り上げることがありますが、一つの取り組みだけで何かが成り立つわけでは決してありません。全体としての仕組みが必要であり、大きな体系がないと人口減少問題には対応できないと思っています。

企業がCSR活動を展開していくなかで、中山間地域を抱える田舎を応援してください。人口減少問題に立ち向かって行くことは、大変なことだと思いますが、チャレンジングなことでもあります。頑張っていきたいと思っています。

(話し手:高知県尾﨑正直知事、編集:枝廣淳子)

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