ニュースレター

2014年02月04日

 

「緑の贈与」のしくみをつくろう!

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JFS ニュースレター No.137 (2014年1月号)

Solar installationイメージ画像: Photo by CoCreatr. Some Rights Reserved.

日本では、電車の窓から見ていても歩いていても、太陽光パネルを載せた家が増えてきていることを実感します。ソーラーパネルの量産効果で価格が下がってきていることで、以前よりは初期投資がラクになり、2012年夏から導入された固定価格買い取り制度で、着実に投資が回収できる状況になったためでしょう。

それでも、「屋根の向きもいいし、太陽光発電を採り入れたいのだけど、入れられない!」という方もたくさんいます。「どうしてですか?」とその理由を聞いてみると、「気持ちはあっても実現していない」人々には、特徴的な2つのグループがあることがわかります。

1つのグループは、若い世帯です。まだ給料も多くなく、子どもの教育費もかかるので、「投資回収ができることはわかっていても、初期費用が出せない」と言います。パネルが安くなったとはいえ、平均的な家庭用パネルでも、まだ150~200万というお金が最初に必要になります。

もう1つのグループは、高齢者です。「初期費用は問題ないが、10年、15年で元が取れると言われても、この年ではねぇ」と言うのです。

この2つの「気持ちはあるけど、それぞれのハードルがある人々」をじょうずにつなぐことで、両方の問題を解決し、再生可能エネルギー導入をどんどん進められる、革新的な仕組みが提案されています。

それは「緑の贈与」という仕組みです。

たとえば、ある祖父母が孫の誕生を機に、息子の家族にまとまった額をプレゼントしたいと思ったとしましょう。そのときに、直接現金を譲るのではなく、息子家族の家の屋根に太陽光パネルを設置してあげるのです。

その日から、日本の再生可能エネルギーは少し増えます。そして、息子家族は、毎年約10数万円の売電収入を受け取ることができます。まとまった額を一度もらうのだったら、しばらくたつとありがたみも薄れてしまうかもしれませんが、屋根の上の太陽光パネルはずっと発電を続けてくれます。「おじいちゃんたちのおかげ」が毎日発電パネルをのぞくたび、売電実績を見るたびに感じられます。

「そりゃそうだが、息子家族はマンション住まいでパネルはつけられない」という場合も多いでしょう。

そういうときは、息子家族に譲ろうと思ったお金を、再生エネルギー発電事業に出資することができます。そして、そこから得られる売電収入は、息子夫婦、または孫の口座に振り込まれるようにするのです。

再生可能エネルギー普及に貢献できるのと同時に、売電収入が毎年約十数万円ずつ10年以上にわたって振り込まれるため、孫が成人する頃には、資産が引き継がれるという仕組みです。売電収入を孫の学資保険に積み立てれば、祖父母が贈った再生エネルギーの配当で、孫が進学する際の資金を贈与できるという方法もあります。

このように「贈与のグリーン化」(同じお金を贈与するなら、再生可能エネルギーを促進するやり方で!)の仕組み、「緑の贈与」は地球環境戦略研究機関(IGES)主任研究員の松尾雄介さんが考案されたものですが、IGESではその効果を試算しています。

まず、現在日本では贈与の規模を調べたところ、年間約4兆円規模と推定されるそうです。加えて、相続(死後の資産移転)は年間27兆円と推定され、贈与と相続全体では年間30兆円規模とのこと。

贈与や支出に関する意識調査では、全体の約7割が贈与(相続)をしたいと答えているほか、今後お金を使いたい使途として「孫への支出」が第3位(33%)に入っているそうです。また、高齢者は社会や環境への貢献意欲が非常に高いこともよく知られています。

この4兆円(または30兆円)の贈与(相続)を、その一部であっても、再生可能エネルギーの推進につながる形でできるようになったら、とても大きな推進力となるでしょう。

また、意識調査の結果から「緑の贈与をやってみたい」という高齢者は約2割だったとのこと(もっとも約半分の回答者が「イメージがわかない」などの理由で「わからない」と答えています。まわりがはじめたらやってみたい人はもっと増えそうです)。

「緑の贈与をするとしたらいくらぐらい?」という質問への回答を見ると、その平均単価は約400万円でした。日本に約2,000万世帯ある高齢者世帯の2割が400万円ずつ緑の贈与をするとしたら、総投資額は約16兆円にのぼります。

緑の贈与によって再エネに導かれる個人資産が約16兆円あるとしたら、この巨額の投資により、中期的には4000~5000万kWの再生可能エネルギーを作り出すことができるようになります。それによって、約7.8兆円の化石燃料輸入代金を削減し、約5億トンのCO2を削減し、100万人規模の雇用が創出されるという試算です。

世代を超えてニーズをマッチするじょうずな仕組みができたら、大きな変化が生まれそうです!

緑の贈与が実現すれば、日本人の支払う電気代は、海外の化石燃料代として国外に流出するのではなく(日本のエネルギー自給率は4%しかなく、96%は海外からの輸入に頼っています)、国民に還元され、国内のグリーン経済の好循環が生まれるでしょう。

さて、この緑の贈与を実現するためには、「再生可能エネルギーを通じた贈与は非課税とすること」が肝要です。それが高齢者にとって大きなインセンティブとなりますから。

平成26年度環境省からの税制改正要望において、この緑の贈与(正式名称;低炭素化設備の普及のための世代間資産移転促進に関する非課税措置)が提案されました。

参考:H26年度 環境省税制改正要望(抜粋)低炭素化設備の普及のための世代間資産移転促進に関する非課税措置(贈与税)【新規】

祖父母等が孫等に対して、太陽光発電設備や高効率給湯機器等の低炭素化設備の普及のために贈与を行う場合について、贈与税を非課税にする措置を創設する。

(本文はこちら)
http://www.env.go.jp/guide/budget/h26/h26juten-1.pdf (p. 23)

緑の贈与を非課税として推進することにより、贈与税が減ってしまうことを心配する向きもありますが、消費税が増えることによって相殺または税収増につながるという試算もあり、何よりも、海外の値上がりを続ける化石燃料への依存を減らせることを考えれば、政府全体にとっても、日本社会にとっても、大きな前進ではないでしょうか。

IGESの松尾研究員によると、「緑の贈与という仕組みは、日本が実現すれば世界初になりそうです」とのこと。緑の贈与を創設しようという上記の提案は現在、与党の税制改正大綱で検討事項として明記されており、来年度の実現にむけて、継続審議することとなっています。早期の実現を願っています。

日本でぜひ実現して、日本での再エネへの投資の大きな流れを生み出すと同時に、世界にとってもよい事例として、他の国々にも広がって、それぞれの国での再生可能エネルギーを促進する原動力となることを願っています。

(枝廣淳子)

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