ニュースレター

2013年11月19日

 

ペーパーリユースシステム(eSTUDIO306LP / RD30)~ 東芝テック株式会社

Keywords:  ニュースレター  3R・廃棄物  企業(製造業) 

 

JFS ニュースレター No.134 (2013年10月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第105回
http://www.toshibatec.co.jp/

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オフィスでは用紙が頻繁に利用されています。環境への負荷を考えると用紙の使用量を減らしたいけれども、用紙に印刷して確認したほうがより確実で効率的だからなどの理由でなかなか減らせない、という状況は決して少なくないと思います。

東芝テックではこの問題を解決するために発想を転換し、印刷を減らして「ペーパーレス」にするのではなく、印刷した内容を消色し、同じ用紙を繰り返し印刷できる「ペーパーリユース」で用紙の使用量を減らすことを考えました。これを実現するために、複合機と消色機からなるペーパーリユースシステム(eSTUDIO306LP / RD30)を開発したのです。

東芝テックは、流通業向けのPOSシステムをはじめとするリテールソリューション事業、オフィス向けのデジタル複合機を中心とするオフィスソリューション事業、バーコードやRFIDによる自動認識システムなどを開発・製造するサプライチェーンソリューション事業、インクジェットヘッド事業を展開している企業です。


用紙と環境

「自分たちの持つ技術力を活用して環境負荷低減に貢献できる事業を展開するためには、何をすれば良いのか?」 その答えを模索する中で、用紙の製造工程において大量のエネルギーを使用するため、多くのCO2が排出されていることに気づきました。国内の製紙業のCO2排出量は産業別では5位*にあたり、電子部品業や電力・ガス事業より上位にあります。

*出典:環境省・経済産業省「地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度による平成22(2010)年度温室効果ガス排出量の集計結果」

また、用紙生産由来のCO2排出の視点では、新生紙も再生紙も大きな差がないとの指標もあり、用紙のリサイクルで抑制できるCO2排出量があまり多くないことにも気づきました。

一方で、オフィスでの用紙の利用状況を調査したところ、印刷された用紙の約90%が、一週間以内に廃棄されていることがわかりました。廃棄される用紙の多くは回収され、再生紙として生まれ変わるのですが、より環境負荷が少ないのは用紙の「リサイクル」ではなく「リユース」であり、そのサイクルを実現するシステムを構築したい、との思いからこのペーパーリユースシステムが生まれました。


ペーパーリユースシステムの特徴

ペーパーリユースシステムは、東芝テック独自の消せるトナーを用いてコピー・印刷する複合機(eSTUDIO306LP)と、印字を消色する消色機(eSTUDIO RD30)で構成されています。消せるトナーは、印刷時は青色ですが、所定の温度に加熱することで、無色透明になります。

消色機では、消せるトナーで印刷したものの他に、株式会社パイロットコーポレーション製の消える筆記具「フリクション」で書いたものも消色することができます。印刷した書類にチェックや書き込みをしても、リユースが可能です。

消色機は、分別機能も持っています。これは、消色後にリユースできる用紙とできない用紙を自動的に分別するもので、それぞれ別のカセットに排出されます。

1枚の用紙をリユースできる回数は、平均5回程度となっています。印刷内容や用紙の状態によってリユース回数は異なり、用紙のコンディションが良ければ5回以上のリユースも可能です。


ペーパーリユースシステムの効果

環境負荷低減に効果があっても、ユーザーにとってメリットが無いと、きちんと使用されず、結果として環境負荷の低減にもつながりません。そこでペーパーリユースシステムは、ユーザーに「環境性」だけでなく、「経済性」「効率性」も提供するコンセプトで開発されました。

環境性の面では、ペーパーリユースシステムで1枚の用紙を5回使用した場合、5年間で発生するCO2を、ライフサイクルアセスメント(LCA)の手法を用いて、一般的な複合機とeSTUDIO306LP / RD30とで比較すると、素材・製造・輸送・廃棄・リサイクル、使用時、消色時、用紙製造時のトータルで、複合機を使用する場合のおよそ50%にあたる約1トン*、体積に直すと500mlペットボトル約26万本分のCO2を削減できると試算されています。

*以下の算出条件を用いた東芝テックによる日本での試算

  • A4 PPC用紙 月間印刷枚数4,500枚×5年
  • 5回繰り返し利用(=4回消色)
  • 紙CO2原単位=1.52g (CO2/g)
  • 本体、消色装置LCA、リサイクルを加味
  • 2013年3月時点の算出値

また、用紙をリユースすることで、使用する水を削減する効果もあり、5年間で25メートルプール約2杯分にあたる800トン*を削減できると試算されています。

*以下の算出条件を用いた東京都市大学伊坪研究所による試算

  • A4 PPC用紙 月間印刷枚数4,500枚×5年
  • 5回繰り返し利用(=4回消色)
  • 本体、消色装置LCA、リサイクルを加味
  • 2012年10月時点での計測値

経済性の面では、1枚の用紙を5回使用することで、用紙の使用量が80%削減でき、用紙の購入費用だけでなく、保管や廃棄費用も削減することができます。

効率性の面では、用紙に印刷する今までのやり方を継続しながら環境負荷を減らせるので、ペーパーレス化の際に必要となる業務スタイルやルーチンの変更は不要です。消色機に用紙をセットしてスイッチを押すだけで、自動的にリユースできる用紙とそうでない用紙を分別できるので、リユースにかかる手間はほんのわずかです。

また、消色前に印字画像を電子化し、紙として情報を保管する必要がないので、保管スペース、保管や情報検索の為の時間が大幅に削減可能です。

これまで述べてきたペーパーリユースシステムの特長を生みだしているのが、東芝テックが独自に開発した消せるトナー(インキ)の技術です。十数ミクロンの小さなカプセルの中に更に小さなカプセルがあり、その中に発色剤、発色させる成分、変色温度調整剤の粒子を包みこむという構造で、加熱すると色が消える機能を実現しています。

そもそも、複合機ではトナーを加熱して押しつけることで文字や画像を紙に定着させており、トナーの色が消えてしまう温度よりも、低い温度でトナーを用紙に定着させる必要があります。そのための非常に低い温度で定着できる装置も新たに開発することで、ペーパーリユースシステムが実現されています。

ペーパーリユースシステムは開発中の2011年に、「地球温暖化防止活動環境大臣表彰」を受賞しました。この賞は、地球温暖化対策を推進するための一環として、地球温暖化防止に顕著な功績のあった個人または団体を表彰し、その功績をたたえるものです。印刷用紙の削減および用紙製造に起因するCO2排出量の削減に貢献する点が評価されました。

また、グリーンITアワード2013経済産業大臣賞を受賞したことが、2013年9月18日に発表されました。グリーンITアワードは、「ITの省エネ」及び「ITによる社会の省エネ」を両輪とする「グリーンIT」の取組みをより一層加速すべく、経済産業省が2008年度より、優れた省エネ機器・取組を評価する表彰を行っているものです。環境に優しく自由度の高い新たなワークスタイルを実現する点が評価されました。

2013年11月11~22日に開催される第19回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP19)で行われる、展示会への出展も決まっています。37のブースが設置され、その中の一つに、東芝テックが選ばれました。

用紙を使わないのではなくリユースすることで、利用する人への負担・ストレスをかけずにオフィスで大量に使用されている用紙の量を削減する、という東芝テックの発想と、それを実現する技術力がペーパーリユースシステム(eSTUDIO306LP / RD30)を生みだしました。広く社会に浸透し、持続可能な社会に寄与することを期待します。


(スタッフライター 田辺伸広)

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