ニュースレター

2013年01月15日

 

世界の海から「混獲」をなくす!日本の漁業の挑戦(前編)

Keywords:  ニュースレター  生態系・生物多様性  食糧 

 

JFS ニュースレター No.124 (2012年12月号)


絶滅のおそれのある野生生物を救うことから活動をスタートさせた世界自然保護基金(WWF)。活動の一環として、海の生きものに配慮した漁具の工夫を競うコンテストを主催しています。2011年には、日本の漁業団体がこのコンテストで大賞を受賞しました。

今回のJFSニュースレターでは、WWFジャパンの快諾を得て、この団体の漁具開発と工夫についてのインタビューを前後編に分けてお届けします。

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WWFが主催している、海の生きものに配慮した漁具の工夫を競う「国際スマートギアコンテスト」。2011年11月、このコンテストで、日本かつお・まぐろ漁業協同組合が発案した「二重加重枝縄」が大賞を受賞しました。特に海鳥の「混獲(誤って漁具にからまる事故)」を減らす新たな漁具として注目されています。漁業者にとっても、海鳥にとっても「安全」を確保したこの漁具「二重加重枝縄」。同組合の方に、開発までの道のりをうかがいました。


インタビュー:「二重加重枝縄を、早く世界に普及させたい」

漁業において、目的以外の生物が網や釣り針などにかかってしまう「混獲」の問題は、世界のあちこちで、また、さまざまな漁法で起きています。

たとえば、遠洋で操業する「マグロ延縄(はえなわ)漁」では、長年、アホウドリやミズナギドリなどの海鳥の混獲が起きてきました。

しかし2011年11月、WWFが主催する「国際スマートギアコンテスト」で、この混獲を大幅に減らせる改良漁具「二重加重枝縄」が大賞を受賞。問題解決の糸口が見えてきました。

漁業者にとっても、海鳥にとっても「安全」を確保したこの漁具について、日本かつお・まぐろ漁業協同組合にお話をうかがいました。


延縄漁と海鳥の混獲

- まず、「延縄(はえなわ)」という漁法について教えてください。

「延縄漁とは、遠洋で行なわれる漁法の一つで、一本の長い縄(幹縄)に、釣り針の付いた縄(枝縄)を何本も垂らし、マグロやカツオを釣りあげます。幹縄の長さは約150キロメートル。そこに約3,000本の枝縄が下がります。」


- その枝縄に海鳥がかかるわけですね?

「はい、枝縄に餌として付けられる魚を狙って、ミズナギドリが海に飛び込み、釣り針にかかることがあります。

アホウドリは、魚をくわえて浮上してくるミズナギドリをアタックして魚を横取りする。そういう行動の中で、枝縄についた釣り針にひっかかると浮上できずに、溺死するものが出てきます。

でも、ミズナギドリが潜る深さは、せいぜい10メートルくらい。なので、枝縄につけられた餌が10メートルより深く沈んだあとは、海鳥がかかる心配はありません。

もともと、マグロを狙う延縄漁では、200~300メートルの深さまで釣り針と餌を沈めますから、枝縄に錘(おもり)をつけて、餌魚をすばやく、深くまで沈めれば、混獲を避けるのに有効だろうというのは、前から言われていたんです。」


- それが「加重」枝縄ということですね。その方法を実際に試すことになったのには、何かきっかけがあるのですか?

「5年前、南アフリカ共和国の200海里の中で操業することになったんです。ここは特に海鳥が多い場所なのですが、南ア政府から、海鳥の混獲数を「年間25羽以内にすること」が操業条件として提示されました。

トリライン(※)や夜間投縄(夜の間に延縄を海に入れる)を一部、導入してみたのですが、最初の年には100~200羽くらいの混獲が発生してしまった。

そうしたところ、ちょうどワシントン大学のエド・メルヴィン教授がコンタクトしてきて、2008、2009、2010年の3年間、加重枝縄の導入に向けて協力することになったんです。」

※トリライン:漁船の船尾に取り付けた長い棒の先から吹き流しやテープを付けたロープを曳航し、鳥が餌に近づけないようにする仕掛け。トリポールともいう。これも日本で発明された。世界的に「tori line」「tori pole」の名前で知られている。


誕生した「二重加重枝縄」の工夫

- 今回、受賞されたのは「二重加重枝縄」とのことですが、「二重」というのは、どういう意味なのでしょう?

「加重枝縄は、60グラムの鉛の錘(おもり)を一つ、枝縄の先のほうに付けた構造になっています。

ところが、これを実際に海で使用すると、時化やうねりがあるときに延縄を引き上げると、この錘が銃弾のような形で船員に向かって飛んでくることがわかりました。

それも、ちょうど頭や顔のあたりに飛んでくるので、実際に失明や、頭蓋骨骨折のような重大な事故が起きてしまいました。

メルヴィン教授からは、錘の周りにゴムを巻くという案も出てきたのですが、そんなことでは、とうてい事故は軽減できません。そんな折、第5福積丸の山崎漁労長が、錘を二つに分けて付ける「二重加重枝縄」を発案したのです。」


- 錘を二つに分けると、事故は起きないのですか?

「60グラムの錘を二つに分けてつけると、錘がまっすぐ飛ばなくなるので、顔にあたる心配がなくなりました。

また、錘が一つだけだと、沈んでいくときに、針と餌が枝縄に絡んでしまい、マグロがうまくかからなくなって、漁業そのものに影響が出ていました。錘を二つに分けて、その間をワイヤーでつなぐようにすると、枝縄に絡むことも少なくなります。」



被害がわずか6羽に!「二重加重枝縄」の効果

- 混獲防止への効果は?

「現在、9艘が操業していますが、4月から5月にかけて始まった2012年の漁期については、混獲数はまだ6羽にとどまっています。

一艘につき、一日に3,000本くらい針を入れますから、9艘で3万本近くになります。それで1カ月ほどで6羽なので、効果は実証されていると思います。まだ一羽も混獲していない船もあるわけですから。漁業効率を下げることなく、混獲の被害も大幅に減らすことができるのが、二重加重枝縄だといえます。」


- その6羽は、どのような状況で針にかかったのでしょう?

「枝縄を引き上げたときに、餌の魚が付いたまま上がってくる場合があるんです。それをめがけて飛び込んで針にかかるものがいます。

これについては残念ながら対策のしようがないのですが、でも、この場合は、生きた状態で船に引き上げられる場合がほとんどなので、その場で針をはずして放しています。

そういう意味では、ほぼ100%、混獲によって死なせることは防げているといってよいと思います。

昔から、特に日本の漁師は、無益な殺生を嫌う傾向があるので、鳥にしろカメにしろ、生きていればはずして逃がすのが基本ですね。」


WWFジャパン 世界の海から「混獲」をなくす!日本の漁業の挑戦 より転載
http://www.wwf.or.jp/activities/2012/06/1071528.html


後編に続く)

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