ニュースレター

2012年11月13日

 

日本のエネルギー政策のゆくえ

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JFS ニュースレター No.122 (2012年10月号)

2月号や5月号でもお伝えしてきたように、日本では、原発依存度を含む2030年までのエネルギー政策を決めるためのプロセスが進められてきました。

新しいエネルギー基本計画に向けて
エネルギー政策を考える土台としてのGDP成長率の見通しにチャレンジ!

8月号に書いたように、私も委員を務める資源エネルギー庁・基本問題委員会がエネルギーミックスの選択肢案を5月末に提出し、閣僚からなる「エネルギー・環境会議」が、内閣府原子力委員会と環境省中央環境審議会からの選択肢とあわせて最終的な選択肢を作成し、6月末に3つの選択肢を国民に提示し、さまざまなプロセスと場で国民的議論が行われました。

エネルギー・環境の選択肢をめぐる国民的議論

国民的議論では、「2030年までに原発依存率をゼロにする」ゼロシナリオが、討論型世論調査では47%、意見聴取会の参加者では68%、パブリックコメントでは87%といずれも他のシナリオよりも支持率が高いという結果でした。

この結果を受けて、エネルギー・環境会議は9月14 日に「革新的エネルギー・環境戦略」を決定しました。
http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/32th/32-1-1.pdf

本文の冒頭部分を引用します。
(引用開始)
1.原発に依存しない社会の一日も早い実現

東電福島原発事故を経験し、福島県民をはじめ多くの地域や人々の苦しみが続いている中で、国民の多くが「原発に依存しない社会をつくりたい」と望んでいることは、これまでの国民的議論の検証結果からも明らかである。一方で、その実現に向けたスピード感や実現可能性については意見が分かれていることも分かった。こうした中、まずは政府が原発に依存しない社会をどう実現していくかという大きな「道筋」を示すことが重要である。

同時に、原子力の安全性は確保できるのか、使用済核燃料の問題、すなわち原子力のバックエンドの問題は解決できるのかといった原子力に対する不安や懸念に対して、どう克服するかを示す必要がある。特に、今回の選択を契機に、改めて浮き彫りになった核燃料サイクル政策を含む原子力のバックエンドの問題に正面から取り組んでいく必要がある。長い間、私たちは使用済核燃料の処理や処分の方法に目途が立っていないことに、目を背けてきた。この問題には、過去の長い経緯とその間の青森県の協力があったという事実に、消費地も含めて国民全体で真摯に向き合うところから始めた上で、今回こそ先送りせずに解決の道を見出していく。

(1)原発に依存しない社会の実現に向けた3つの原則
 1)40 年運転制限制を厳格に適用する、
 2)原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ、再稼働とする、
 3)原発の新設・増設は行わない、ことを原則とする。

以上の3つの原則を適用する中で、2030 年代に原発稼働ゼロを可能とするよう、あらゆる政策資源を投入する。その第一歩として、政府が本年末までにまとめる「グリーン政策大綱」をグリーンエネルギー拡大のロードマップと位置付け、期限を区切った節電・省エネルギーの目標、再生可能エネルギーの導入量、技術開発・普及などの目標とそれを実現するための予算、規制改革などの具体的な手段を盛り込む。
(引用終了)

この「1.原発に依存しない社会の一日も早い実現」に続いて、「2.グリーンエネルギー革命の実現」として、節電・省エネルギーと再生可能エネルギーの推進について述べ、「3.エネルギー安定供給の確保のために」として、(1)火力発電の高度利用、(2)コジェネなど熱の高度利用、(3)次世代エネルギー関連技術、(4)安定的かつ安価な化石燃料等の確保及び供給について書かれています。

そして、こういった施策を強力に進めていくために、「4.電力システム改革の断行」として、(1)電力市場における競争促進、(2)送配電部門の中立化・広域化を進めるとして、最後に「5.地球温暖化対策の着実な実施」で締めくくられた戦略です。

この戦略に対して、「原発ゼロなどあり得ない!」と、経済界から強硬な反対意見が噴き出しました。経団連の米倉会長は野田首相に直接電話をかけて政府方針への反対を表明したほか、経団連、日本商工会議所、経済同友会という主要経済3団体のトップがそろって反対の共同記者会見を開きました。

また、原発立地地域も「国のエネルギー政策に協力してきた原発立地地域への影響がほとんど考慮されていない」と反発の声を上げました。再処理施設が立地する六ヶ所村の古川村長が「(原発政策を転換すれば)村の産業、村民の夢、国への信頼が壊される」と反発したように、核燃料サイクルのための再処理工場を抱える地域からも大きな反対の声が上がりました。

加えて、日米原子力協定を結ぶ米国からも強い懸念や要請が寄せられたと報道されています。クリントン米国務長官がロシア・ウラジオストクで野田首相と会談した際、原発ゼロ方針に「関心」を表明し、首相補佐官らが急きょ訪米して説明したが、米側は使用済み核燃料の再処理で出るプルトニウムの管理問題から懸念を示したとのこと。また、米戦略国際問題研究所(CSIS)のジョン・ハムレ所長は9月12日、日本経済新聞に寄稿し、原発ゼロ戦略は核拡散防止の観点で国際社会への責任放棄になるとも指摘し、再考を求めました。

私が委員を務める基本問題委員会の9月18日の会合でも、これまでは議事進行の役割に徹していた三村委員長(当時 新日鉄会長)をはじめ、産業界を代表する委員を中心に、ゼロシナリオへの反対意見が続出しました。

こういった反対勢力に対抗できず、9月19日の閣議ではこの「革新的エネルギー・環境戦略」は閣議決定されず、参考文書の扱いとなりました。閣議決定されたのは、「今後のエネルギー・環境政策については、『革新的エネルギー・環境戦略』を踏まえて、関係自治体や国際社会等と責任ある議論を行い、国民の理解を得つつ、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する」ということだけです。

このため、原発ゼロをめざした「革新的エネルギー・環境戦略」は骨抜きにされるおそれがあります。基本問題委員会もそれ以降開催されておらず、エネルギー基本計画の策定が進められない状況です。

一方、内閣府原子力委員会は、原子力政策の基本方針となる「原子力政策大綱」の策定作業の中止を決めました。その背景には、革新的エネルギー・環境戦略において「新たな原子力政策を、エネルギー・環境会議の場を中心として、確立する。なお、原子力委員会については、原子力の平和的利用の確認などの機能に留意しつつ、その在り方に関する検討の場を設け、組織の廃止・改編も含めて抜本的に見直す」とされたことがあります。

この大綱は1956年にできた「原子力研究・開発・利用長期計画」時代からほぼ5年ごとに改定されてきた日本の原子力政策の骨格で、現在の大綱は2005年に策定されたものです。同委員会が機能を停止することで、核燃料サイクルなど原子力政策をめぐる多くの懸案事項がさらに進まなくなると危惧されています。

また、環境省は先の通常国会で継続審議になっていた「地球温暖化対策基本法案」を廃案にする検討に入ったと報道されています。同法案には「2020年までに温室効果ガス排出量を1990年比25%減らす」と目標が明記されていますが、革新的エネルギー・環境戦略では「国内における2030 年時点の温室効果ガス排出量を概ね2割削減(1990 年比)することを目指す。国内における2020 年時点の温室効果ガス排出量は、原発の稼働が確実なものではないことからある程度の幅で検討せざるを得ないが、一定の前提をおいて計算すると、5~9%削減(1990 年比)となる」とあって、整合性がとれなくなったためです。

日本ではまもなく総選挙が行なわれ、政権交代もありうるのではないかといわれる状況もあって、国の基盤であり骨格であるべきエネルギー戦略の方向性も中身も詰められない事態となっています。海外のジャーナリストや知り合いから「日本のエネルギー政策はどうなっているの?」と聞かれるたび、きちんと説明できないもどかしさを感じるのですが、今はその答えを知っている人はいないのかもしれません。みなさんには国際世論調査などにご協力いただき、感謝しています。確定的なことがお伝えできない状況ではありますが、現状のご報告まで。


(枝廣淳子)

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