2010年04月20日
Keywords: ニュースレター
JFS ニュースレター No.88 (2009年12月号)
はじめに
私たちの地球の中心部は、太陽表面温度と同じ6,000℃あり、地球体積の99%は1,000℃以上なのだそうです。地球内部には莫大な地熱エネルギーが蓄えられています。これらは火山や温泉を通して垣間見ることができますが、地球温暖化問題やエネルギー問題を考えた時、地熱を自然エネルギー源として活用することが急務ではないでしょうか。
日本は環太平洋火山帯に属する火山国で、世界3位の地熱資源を持つ地熱大国です。しかし、再生可能エネルギー開発が叫ばれる今、この資源を十分に生かしているとは言えない現状にあります。九州大学大学院で地球熱システム学を研究され、日本地熱学会会長である江原幸雄教授にお聞きした話を中心に、日本の地熱開発の現状と課題についてまとめてみましょう。
http://wwwsoc.nii.ac.jp/grsj/index.html
地熱エネルギーの賦存量、エネルギー源としての可能性
産業技術総合研究所(産総研)の最新のデータによると、世界の地熱資源量は米国3000万キロワット(kW)、インドネシア2779万kW、日本2347万kW、ついでフィリピン、メキシコ各600万kWとなっており、日本は3大地熱資源保有国の一角を占めています。
地中深くのマグマ・高温岩体をエネルギー源として発電(EGS発電)する研究も始まっていますが、これらが実用化する将来には、さらに大きなエネルギーを得る可能性があります。
日本における主な地熱資源地域は、東北日本火山帯(北海道、東北、北陸、中部、伊豆諸島)、西南日本火山帯(九州、中国)に分布しており、火山帯と密接に関連しています。
地熱エネルギーは多様な顔を持っています。その温度により利用形態が違ってきます。
エネルギー源として地熱の持つ長所は、まず国産の自然エネルギーであることです。そしてCO2排出量が少ないことです。火力発電と違い、発電に伴うCO2排出量は原則ゼロです。発電所建設時の排出量を考慮しても、1kWh当たりのCO2は水力の11.3グラムに次ぐ15グラムで、太陽光、風力よりも少なくなっています。3番目に、天候などの自然条件による影響を受けないため設備の利用率(太陽光12%、風力20%、地熱70%)が高く、また1日24時間一定出力の発電が可能であるため、常時必要なベースロード電力とすることができます。
現状
地熱エネルギーによる発電は、1904年にイタリアで始まり、今では25カ国で行われており、世界の地熱発電設備容量は2008年には1000万kWに達しています。石油依存度を減らし、温室効果ガス削減を図る上で、各国ともに地熱発電能力の拡大を推進しており、2010年には46カ国で地熱発電が行われ、合計設備容量は1350万kWになるとの予測があります。
参考:日本での地熱発電の動き ~ アースポリシー研究所「世界の地熱発電、爆発的拡大の兆し」
http://www.es-inc.jp/lib/archives/090205_083714.html
日本では1925年、大分県で最初の地熱発電(出力1.12kW)に成功して以来、東北、九州地域を中心に開発が進められ、18地点20プラント、出力合計53万5250kWの設備があります。これは日本の発電設備容量の約0.2%ですが、設備利用率が高いので、発電電力量のシェアは約0.3%になります。2007年度の実績では太陽光や風力の発電電力量よりも大きくなっています。
産総研では、低い温度領域(53~120℃)での温泉発電の開発に有望な資源量を833万kWと試算しています。現在、2010年度の完成をめどに50kW級の温泉発電の開発が進められています。既存の高温温泉を利用して発電を行い、使用した冷却水を温泉施設の浴用・給湯や暖房のために供給できるので、発電側に開発リスクがなく、温泉側ではエネルギーコストの低減になるため、発電事業者と温泉事業者双方にメリットがあります。2020年には発電量約12万kWになるとの予測があります。
地中熱利用に関しては、ヒートポンプに使用した電力の3.5倍以上の熱量が利用できるため、米国、スウェーデンはじめ各国で広く利用されていますが、日本ではほとんど利用されていませんでした。しかし、2003年頃より住宅用の冷暖房において地中熱利用システムの採用数が増加しています。さらに、2012年完工予定の634メートルで高さ世界一のタワーを核とする「東京スカイツリー地区」(東京都墨田区)の地域冷暖房では国内で初の地中熱利用システムが導入されます。
JFS参考記事:東京スカイツリー地区の地域冷暖房、国内初の地中熱利用
http://www.japanfs.org/ja/pages/029502.html
課題
日本の地熱発電設備のほとんどは1996年までに完成したもので、それ以後は2000年に完成した九重発電所(2000kW)のみです。その結果、設備能力は2000年には国別で6位だったものが、現在は8位です。豊富な地熱資源を持ちながら、このように長期にわたり地熱利用が停滞している理由は何でしょうか。
地熱には、地下資源特有の開発リスク・初期開発コスト負担が大きいこと、それにより新たに開発する場合の発電コストが既存の電源よりやや高い水準になりますが、この時期に国家的な支援が大幅に低下したことが直接の要因と考えられます。
オイルショック後、国は自然エネルギーを含む新エネルギーの開発、実用化を実現するため「サンシャイン計画」を推進し、地熱についても力を入れた結果、地熱発電設備建設の成果が出ていました。しかし、1997年6月にエネルギー・セキュリティの確保と、地球温暖化問題への対応のため、「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」を施行した際に、地熱は新エネルギーから除外されました。この結果、地熱技術の研究費や開発補助金が減額されてしまいました。また「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法(RPS法)」が2002年6月に公布されましたが、ここでもバイナリー発電以外の通常の地熱発電は除外されたため、この傾向に一層拍車がかかってしまったのです。
根本的な要因としては、国内の有望な地熱資源の82%が国立、国定公園の特別保護地区・特別地域内にありますが、1972年に当時の経産省と環境庁との間で取り決めが行われ、これらの地域における地熱開発ができません。これら地域以外の開発可能な地域の地熱資源量は約425万kWと試算されていますが、開発するには、温泉法、環境影響評価法、電気事業法などの規制をクリアするために長いリードタイムが必要になっています。これはコストアップにつながり、発電単価を高くする要因にもなっています。
また、日本には約2万8000カ所の温泉泉源があり、温泉として地熱の直接利用が行われています。こうした地域での地熱発電のための坑井の掘削に対し、泉源への影響を危惧する温泉業界の反対があります。日本の地熱発電はすでに40年以上の実績があり、これまでの開発、運転を通じて、温泉に影響を与えない地熱発電に関する科学的な知見が得られています。これらのデータ、知見を生かして、温泉業界の懸念を払拭し、理解を得る努力が必要になります。
こうした状況に対して、2008年10月31日に日本地熱学会は「わが国の地熱エネルギー利用に関する提言 -日本を真の地熱大国に!-」という提言を行っています。同学会江原会長に、提言の要点をうかがいました。
資源エネルギー庁では、2009年6月9日に「地熱発電に関する研究会」の中間報告を発表しました。地熱発電について現状と課題を整理するとともに、今後の地熱発電の開発促進を図るための方策についてまとめがなされています。
http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004561/g90609a01j.pdf
おわりに
2009年11月1日から、「太陽光発電の新たな買取制度」がスタートし、一般住宅で発電した太陽光発電の余剰電力を電力会社に買い取って貰う際の価格が、ほぼ2倍のkWh当たり48円になりました。日本でも固定価格買取制度(FIT)が本格的に導入されたことになります。
本年9月に誕生した新政権は、2020年において、温室効果ガス排出を1990年比で25%削減することを表明しました。これを実現するには、再生可能エネルギーの利用に関してより一層積極的な政策が必要となり、FITは重要なインセンティブになるもので、太陽光発電に限らずに適用されることが期待されます。地熱発電による発電コストはkWh当たり9.2~21.7円(中間報告の試算)ですから、太陽光発電より少ない買取価格で効果が出ます。
長期的な視点から、米国やオーストラリアで研究が始められているEGS発電について、日本でも研究を推進することが重要であると考えます。前述の提言や中間報告に盛り込まれた課題を解決し、促進策を推進することで、クリーンな国産エネルギーである地熱エネルギーの開発が再び軌道に乗ることを大いに期待しています。
(スタッフライター 小柴 禧悦)