ニュースレター

2009年09月08日

 

ブータンより ~ GNP(国民総生産)より、GNH(国民総幸福)を

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JFS ニュースレター No.81 (2009年5月号)

JFS/Bhutan01

JFSからAFS(Asia for Sustainability)への展開として、2008年11~12月号での中国のレポートに続き、今回はブータンの会合からレポートします。2008年11月24~26日の3日間、ブータンの首都ティンプーで開催された第4回GNH国際会議に参加してきました。

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GNHとはGross National Happiness(国民総幸福)です。GNP(国民総生産)やGDP(国内総生産)といった「生産」ではなく、「幸福」で国の力や進歩を測ろうという考え方です。この考え方は、1976年にブータンの第4代ワンチュク国王が「GNHはGNPよりも大切である」と述べられ、ブータンの開発哲学・開発の最終目標に据えられたものです。

参考:幸せを測る指標は? - GPI、GNH、そしてGCHの取り組み
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027399.html

GNHについての考え方や指標化、実践を進めるGNH国際会議は、2004年にブータンで第1回が開かれた後、2005年にカナダで第2回が、そして2007年にタイで第3回が開催されました。

第4回となる今回のテーマは「実践と測定」。理念や哲学としてのGNHから一歩出て、実際にどのように政策に反映し、実践していくか、現状や進ちょくを測るためにどのように測定していくかに焦点が移りつつあることがわかります。

今回の会議には25カ国から90人が参加しました(ブータンの次に日本からの参加者が多く、総勢10人ほどでした)。初日の午前中、僧侶らによる儀式のあと、主催者の歓迎の挨拶があり、議会民主制に移行して初めての首相を務めているジグミ・ティンレイ氏が基調講演を行いました。

首相は、その前の週の戴冠式で第5代国王が「GNHを進めていくことは自分の責任であり優先課題である」と明言されたことを挙げ、またご自分の言葉でも国政の基礎にGNHがあることを繰り返し語っていました。「貧困緩和のために経済成長が必要だと言うが、それはまるで症状を治すために患者を殺すようなものではないか。再配分を考えない限り、経済が成長しても貧困緩和にはならない」。

JFS/Bhutan02

開会式のあと、全体会議が始まりました。今回の大きな目玉のひとつは、ブータン研究所からのGNH指標の発表です。GNHという考え方はわかっても、それをどのように測るのか? 世界の注目が集まっていることを感じます。

ブータンは、「公正な社会経済発展」「環境保全」「文化保存」「良い統治」をGNHの4つの柱として、国家運営の大原則としています。そして、この4つの柱を支える9つの分野を定めています。「生活水準」「健康」「心理的・主観的幸福」「教育」「生態系と環境」「コミュニティの活力」「バランスのよい生活時間活用」「文化の活力と多様性」「良い統治」です。

そして今回、GNHの4つの柱について測るために、9つの領域に沿って72の変数が選定され、国民調査が行われたのでした。9つの分野について、どのような変数を取り上げ、測定した結果がどうであったかという発表がブータン研究所の研究者から行われ、他国からの参加者からも、それぞれの幸せの測定に関する研究や実践の発表などがあり、活発な議論が交わされました。

※指標や調査結果については、ブータン研究所GNHウェブサイトを参照。
http://www.grossnationalhappiness.com/(English)

政府がGNHを推進するといっても、国民に対して幸せを約束するわけではありません。国家・政府として「個人がそれぞれGNHを追求できる条件を整える」ことを約束している、ということです。

ブータン側の出席者からは、「ブータンに、GNH経済、GNH政治、GNH文化をつくっていかなくてはならない。GNHを考えれば民主主義ですら目的ではないことがわかる。民主主義はGNHのために必要な良き統治のための手段なのだ」という発言もあり、多くの人々が概念や指標としてとらえているGNHを、国づくりの土台として考えようという姿勢が伝わってきました。

いうまでもありませんが、GNHを提唱しているからといって、ブータンが理想郷であるわけではありません。水道などインフラも未整備のところも多いですし、近代化にまつわるさまざまな問題を抱えている国です。特にテレビが入ってきてから、若年犯罪の増加などが心配されています。

加えて、GNHという言葉自体、現在の第10次開発計画には直接は入っていません。総括セッションでも「GNHは世界の問題を解決するためではなく、まずブータンの中でブータンの問題を解決するために使われなければならない」というブータン人からの発言もありました。

3日間の会議の最後は、「GNHをブータンの政治の主流に位置づけることで、ブータン社会をよりホリスティック(全体調和型・包括型)社会へと変えていく力とする」と、力強い言葉で締めくくられました。ちなみに、次回の開催地はブラジルに決まりました。

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今回の会議では、首相が開会演説をしたほか、多くの大臣や閣僚も出席するなど、政府の力の入れ具合が伝わってきました。3日目には、海外からの参加者全員が国王主催の昼食会に招かれたのですが、そのときに「ああ、そうか、GNHの真髄とはこういうことなのか」という思いを抱く出来事がありました。

昼食会に先立ち、戴冠式を終えたばかりの28歳の国王は、王宮の入り口に立って、一人ひとりと握手し、言葉を交わし、丁重に迎え入れてくれました。私も握手し、少しお話をさせていただきました。数十人もの相手をしなくてはならないというせわしさは一切なく、まるで澄み切った湖のように「いま・ここ」に100%の注意を集中し、私と一緒にいるこの時間を大事にしてくれていることが、ひしひしと感じられ、とても感銘を受けました。

ブータンに詳しい参加者によると、「先週の戴冠式では、新しい国王を一目見ようと、国中の村々から泊まりがけで人々がやってきて、何万人もが列をつくりました。待ちきれない人々が殺到しそうになったとき、国王は自らマイクを取って、『最後の一人までちゃんと握手をしますから、待っていてください』と言葉をかけられました。最後の最後に時間が足りなくなると、一人ひとりを迎え入れるのではなく、国王自らが動くことで、最後の一人まで握手をし、言葉を交わされたのです」。

GNHの基礎をつくった先代の国王は、何もない質素な家で暮らしながら国政を執っていたそうです。日本で阪神淡路大震災が起きたときには、3日間、食を断ってお祈りをしてくださったそうなのです。

ブータンの人たちと話していると、第4代国王を心から敬愛し大事にしていることが、会話の端々から感じられます。そして第5代国王も、父の先代国王と同じように、国民を心から大事にしようとしていることが伝わってくるのです。

お迎えのあいさつが終わった国王は、昼食会場にふらりとひとりで入ってこられると、私たちと同じようにバイキングの列に並びました。お皿に食事を盛ると、テーブルの一つに腰掛けて、周りの人と気さくに話しながら食事を始められた国王の様子に「GNHの真髄は、本当に国民の一人ひとりを大切にする国王と、その国王を心から敬愛する国民の心なのだ」ということが、すとんと腑に落ちた思いがしたのでした。

GNHの指標化自体は、まだ初歩的な段階です。指標化・数値化することと、「測れないものにも大事なものがある」というホリスティックな考え方を、どのように折り合いをつけ、ブータンにも世界にも役立つものにしていくのか─。

この大事な作業を世界の各地で「GNPやGDPより大事なものがある」と取り組んでいるグループや個人とともに、見守り、進めていければ、と思っています。もしみなさんのところでも、「GNPやGDPより大事なものを見える化し、人々に伝えることで、社会を変えていこう」という取り組みをなさっていたら、ぜひ教えてください。

JFS/Bhutan03


(枝廣淳子)

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