ニュースレター

2013年06月04日

 

被災地の子どもたちからの贈りもの ~思いやりの心を世界へ~

Keywords:  ニュースレター  市民社会・地域  震災復興 

 

JFS ニュースレター No.129 (2013年5月号)


「東日本大震災を体験したからこそ伝えられることがある」

震災を直接体験した東北の子どもたちと舞台で活躍するプロのキャストらが集い、3月30日に開催されたミュージカル。子どもたちが舞台で伝える、大切なメッセージとはどのようなものなのでしょうか。東北の復興と世界の社会問題の解決に向けてJFSが主催したミュージカルについてお伝えします。

舞台に立つ子どもたちの思い

『ミュージカルではどこかの誰かを演じるのではなく、自分自身であること。自分の体験、考えたこと、感じたことの中に、あなただからこそ伝えられるものがあるはずです』。稽古に入る前、演出家であり今回のミュージカルの特別協力団体CARE-WAVE代表の鎌田眞由美さんは、子どもたちにそう語りかけました。

今回のミュージカルのタイトルは「CARE WAVE AID - 被災地の子ども達による【未来宣言3.11】-」。東北からのキャストには、宮城県・気仙沼市の劇団「うを座」の子どもたち、福島県の郡山市と田村郡にある高校演劇部の生徒、総勢21名が参加しています。

子どもたちは東日本大震災により、これまでの「当たり前」の生活を一瞬にして失い、たくさんの恐怖、不安や悲しみを経験しました。「思い出したくない」「震災の話はもうしたくない」そうした気持ちがある一方で、震災から得た大切な学びを伝えていかなくてはいけないという使命感から、彼らは今回の舞台に立つことを決意してくれました。

「他の誰でもない、自分だからこそ伝えられることは何だろう?」「自分が本当に伝えたいメッセージとは何だろう?」子どもたちは、こうした問いを大切に、稽古を通じて自分自身と徹底的に向き合いました。実際に、今回のミュージカルの一部は、子どもたち自らが紡ぎ出した言葉で語られています。

そして、出演者は東北の子どもたちだけではありません。「うを座」の子どもたちと震災前より交流を続けてきた徳島県阿南市の市民劇団「夢創」、また過去のCARE WAVE AIDの公演を観て感動し「自分も参加したい」と手を挙げてくれた東京の子どもたちも出演しています。「直接被災していなくても、仲間が置かれた気持ちを想像し、寄り添うことはできる」。そして「東北という直接の被災地以外でも、同じ世代としての『使命』がある」。こうして気持ちを一つに、同じ未来の「大人」として、日本各地の子どもたちは共に同じ舞台に上がりました。


世界への思いやりの心

ミュージカルは、チェルノブイリ原発事故のシーンから始まります。1986年に起こった事故の被災者が当時どのような状況に置かれ、何を感じたのかが演じられ、また日本に住む人々に対するメッセージが強い感情と共に投げかけられます。続いてのシーンでは、子ども達が地球の未来のために声を上げます。具体的には、被災地の子ども達の体験、そして直接被災を体験していない徳島や東京の子ども達の気づき、そして彼らの決意や願いが「未来宣言」として伝えられます。その後は、オムニバス形式で、アジアの貧困、アフリカの難民キャンプ、少年兵の問題などを取り上げたシーンが続き、フィナーレを迎えていきます。

でも、なぜ一見東日本大震災とは関係のないテーマも扱うのでしょうか?

今、東北の被災地ではさまざまな心の対立が起きています。でも、それは被災地だけではなく、日本各地の職場でも学校の中でも、そして世界のあちこちでも起きている問題です。この心の対立が、いじめ、差別、そしてやがては戦争などの大きな悲劇を生むのです。実際に世界に目を向ければ、出演する子どもたちと同じ年代の子どもが飢えや差別、紛争で苦しんでいます。「豊かな国『日本』に生まれ育った私たちが、突然こうした子どもたちと似た状況を体験したのには大きな『意味』がある」と子どもたちは考えました。

震災を通じて成長した子どもたちは「世界中で厳しい立場に置かれている人々の本当の苦しみを理解できるようになった」「他人の苦しみの一部を自分のことのように感じるようになった」と言います。また、どんな複雑な問題でも様々な立場から考え、対立する両方の意見を理解しようとする人が増えれば増えるほど、解決に向けて歩みを進めることができると考え始めています。そして何よりも、震災の時に日本中、世界中の人々が温かい手を東北にさしのべてくれたように、私たち一人ひとりに、他人を思いやる心と愛を世界中で苦しむ人々に向けていって欲しいと願っています。

『僕たちはもう被災者ではありません』。そう語る子どもたちは、ミュージカルの中で力強く未来宣言を行います。

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1,000年に一度と言われる震災を体験した僕たちには大きな「使命」があります。それは「思いやりの心」を広げること!

世界の外交や紛争、そして飢餓や貧困などの問題を「思いやりの心」を持って理解しようとすることで、世界や被災地の問題だけでなく、みなさんの身近な問題の原因が見え、解決されていくと思うのです。

そして日本だけでなく、世界中の救いを求めている人たちを笑顔に変えることができると信じています。

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出演した子どもたちは、私たち大人が、そして世界が学ぶべき大切なメッセージを舞台から届けてくれました。また同時に、世界の国々の文化や慣習から日本が学び見習うべき点が沢山あることも伝えてくれました。


当日の様子

ミュージカル当日、会場となった世田谷パブリックシアターには、昼公演と夜公演合わせて約1,000名ものお客さんが足を運んでくださいました。客席では、多くの方が感動の涙を流され、今までで最高のミュージカルだと言ってくださる方もいらっしゃいました。アンケートから一部コメントをご紹介します。

  • 胸が痛くなるほど子どもたちの叫びが伝わってきました。今、自分ができることから始めたら、未来は必ず変わる!涙が止まらなかった。すばらしい舞台をありがとうございます。
  • 考えさせられること、たくさんありました。自分が幸せであることが本当に身にしみました。少しでも自分でものごとを考える力を身につけ、周りの人の幸 せを考えられるような、素敵な人間になりたいと思う、そういう公演でした。
  • 大きな衝撃を受けました。本当に素晴らしかったです。これからもメッセージを発信していってください。今回の観劇で視野が広がり、自分に何が出来るか、自分が生きているという幸せ、環境のこと、未来の事を考える機会をいただきました。自分も人間として、世界の役に立てるようになりたいです。本当に有 り難うございました!
  • 震災、原発事故の苦しみを乗り越え、多くを学び、力強いメッセージを放つ子どもたちのたくましさに心を強く打たれました。素晴らしい公演をありがとうございました。
  • 真っ直ぐな子どもたちの瞳に大変感激いたしました。始めから終わりまで涙が止まりませんでした。これからも頑張って活動を続けてください。私のまわりのお友だちや家族に、今日の感動を伝えたいと思います。
  • 東北だけでなく地球上全てつながっているテーマを一つの舞台ですばらしく表現していただいたと思います。感動しました。自らが大変な状況にある子ども たちの声は心にささりました。できるアクションをとりたい、いやとります。ありがとうございました。

当日は東日本大震災、環境や開発問題に取り組む非営利団体のブース展示も行われました。来場者の方に世界で今何が起こっているのか、またそのためにどんな活動をしているのかを伝え、NPOと来場者を直接つなごうという試みです。また、今回のチケット売り上げや会場でお預かりした募金は全て寄付金として、当日ブース展示を行った8つの非営利団体に贈られます。


終わりに

本公演は本当に多くの方の善意と思いやりに支えられて実現しました。今回の公演の原資は、共催社である日本興亜損害保険株式会社様が、被災地支援策の一環として実施した義援金の一部をいただきました。具体的には、日本興亜損害保険株式会社様のお客様が、Eco-Net約款というペーパーレスの約款を選択された場合などに、1件につき一定額を日本興亜損害保険株式会社様が負担して、義援金として寄付するというものです。この取組みには、2011年5月から2012年3月までの11カ月の間に、200万人を超える方が参加しました。つまり、本ミュージカルには、200万人を超える方々の気持ちが込められています。

また、プロの役者・ミュージシャンの方はボランティアで本公演に出演くださいました。そして、告知・集客から当日の運営においても、JFSのボランティアを始め、本当に多くの方に支えられて初めて実現した公演でした。また、ミュージカルの主旨にご賛同をいただいた方の中には、当日会場には足を運べないけれど、寄付をくださった方々もいらっしゃいます。

本公演を観てくださった方、また公演を一緒に創ってくださった皆様と、これからも将来世代の幸せを共に考え、共に持続可能な社会をつくっていきたいと思います。

最後に、今回のミュージカルの開催パートナーである特定非営利活動法人CARE-WAVEは、ノンフィクションミュージカル『CARE WAVE AID』を定期的に開催し、飢餓・貧困・紛争といった世界の惨状を伝え、ミュージカルの収益金をNPO等の援助団体に寄付することで、ミュージカルの出演者・観客と援助活動をつなぎ、思いやりの心の波を広げる活動を行っています。今後の活動にも是非ご注目ください。


(スタッフライター 後藤拓也)

〈参考〉
特定非営利活動法人 CARE-WAVE

English  

 


 

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