ニュースレター

2013年06月11日

 

粉体水素燃料SBHによる安定グリーン電力への挑戦 ~ アースプロジェクト株式会社

Keywords:  ニュースレター  再生可能エネルギー  環境技術 

 

JFS ニュースレター No.129 (2013年5月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第103回
http://earthproject21.com/index.html

「再生可能エネルギーを安定供給できるようにすることで、化石燃料や原子力発電からのエネルギー構造転換のスピードを加速したい」。そんな思いで、白岩隆志さんは2012年4月、環境ソリューションの企画・販売会社、アースプロジェクト株式会社の代表に就任しました。

アースプロジェクトの役割

「大量生産・廃棄の時代は終わり、持続性とつながりを大切にするビジネスモデルが求められる時代に変わりつつある。時代の潮流が、エネルギーも含め中央集権的構造から地域分散型的構造への転換期の様相を見せている」。白岩さんは、現在の状況を創造的転換期と捉え、社会貢献できるプロジェクト・製品を提供することをアースプロジェクトの役割と定義しました。

その役割を果たすために、マーケティングの3つの考え方を定めています。

1)技術の優位性をわかり安い言葉で伝える
2)成功事例を積み重ねて「見える化」を進めていく
3)海外展開を視野に入れて実用化を目指す


「水素発電」に着目

アースプロジェクトは、下記に示す考え方に基づいて「水素発電」に着目しました。

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日本では、東日本大震災による福島第一原発の事故をきっかけにして、化石燃料や原子力発電のような中央集権的エネルギーから、地域分散型エネルギーへの転換が活発に議論されるようになった。

地域分散型エネルギーは、太陽光、風力といった再生可能エネルギーが中心だが、いずれもエネルギー供給が天候に左右され、不安定という弱点を抱えている。「水素発電」はこの弱点をカバーするもので、少なくとも全電力の20~30%のエネルギーを、再生可能エネルギーに転換してゆくことを後押しする技術であると考えられる。

地球規模の環境問題の観点からは、どの国も基本的には、CO2の排出をおさえていかねばならないと言える。つまり、低炭素社会の実現に向けて、具体的なアクションを取るべき時期が近付いている。CO2の影響は、地球温暖化現象を加速させ、各国の異常気象や生態系の破壊にまでおよんでいるのだから、もはや待ったなしの状況である。

水素発電は、基本的にCO2が排出されないので、まさに今の時代に最も合致した地域分散型エネルギー供給システムと言っても良い。そして、地域分散型エネルギーは、これからのエネルギー政策の柱になる可能性がある。

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SBHシステムへの取り組み

「水素発電」への具体的なアプローチとして、アースプロジェクトは、東京理科大及び、白岩さんが取締役を勤めるハイドリックパワーシステムズ社と連携して「SBH(Sodium Borohydride)水素燃料システム」の開発・事業化に取り組んでいます。

「水素発電」を実現させるにあたっては、これまでのように水素を気体として扱う方法だとコストが割高になります。なぜなら、気体水素はエネルギーが希薄なため、圧縮をしたり、液体水素に変換したりしてエネルギーの高密度化を図る必要があるからです。さらにその輸送、貯蔵に特殊なインフラが必要なので、流通のために高価な水素ステーションを配置することが必要になります。

これらを実現するには莫大な投資が必要なため「水素発電」は太陽光や風力、バイオマスに比べて、一歩出遅れている感がありました。また大掛かりな投資が必要だとすると、原子力・火力発電など現在の電力供給体制と同様、中央集権的になってしまいます。

こうした問題を解決する手段が、水素を気体ではなく固体である「粉体」にする技術です。硼砂という砂の一種に水素を化合させ、水素化合物燃料SBHとして水素エネルギーを約2500倍に高密度化します。この「粉体」水素は安全に取扱うことが可能で、かつカートリッジに詰め込むことにより、運搬・貯蔵・発電が手軽に行えるようになります。

SBHシステムを利用した発電機は「粉体」水素を加水分解することにより、その反応時の発熱を利用することで、ガソリンエンジン発電機の約2倍の発電量を実現することができます。しかも、水素発生とともに生じる使用済み燃料は、回収しリサイクルすることができるため、循環エネルギーとしての側面も併せ持っています。発電すると二酸化ホウ素ナトリウム(NaBO2)という使用済み燃料が残りますが、これは回収しSBH水素燃料である水素化ホウ素ナトリウム (NaBH4) に再生することが可能です。

またSBHシステムは、完全CO2フリーです。現在の市場にある燃料電池は、そのほとんどが「天燃ガスの改質」により得られる水素を使って発電しており、そのプロセスでCO2が排出されます。これに対しSBHシステムのプロセスには、まったく炭素が含まれません。

水素燃料を革新的なエネルギーキャリアである「粉体」の水素化合物(SBH)に加工し、運搬・貯蔵を可能にすることで、特殊なインフラを必要としない、低コストでかつ地域分散型のエネルギーを実現可能にするのが、SBHシステムです。


燃料電池車の試験走行に成功

東京理科大学理工学部の星伸一准教授らの研究チームが2013年1月22日、粉体のNaBH4を燃料として走行する燃料電池電気自動車(FCV)の試験走行に成功したことを発表しました。SBHシステム実用化への大きな一歩です。
http://www.youtube.com/watch?v=-u1JX-uTUSM(動画)

SBHシステムに用いるNaBH4は、先に述べたように常温で固体の物質であり、加水分解時の発熱を利用して発電しますが、加水分解では水素以外にNaBO2が副生成物として発生し、触媒に付着して反応が進まなくなるという問題がありました。

今回、遠心分離の機構を導入することによりこの問題を解決し、燃料電池電気自動車の試験走行に成功することができました。

FCVをめぐっては、各自動車メーカーが開発を進めています。現在は、燃料を貯蔵する部品として高圧水素タンクを自動車に搭載する方法が主流ですが、タンクの大きさを考えると軽自動車への適用は困難とされています。NaBH4を燃料にするSBHシステムを用いれば、軽自動車にも適用でき、また大きなインフラ投資も必要としません。

SBHシステムの実用化に向けては、副生成物の回収のほか、副生成物を水素化して燃料に戻すためのエネルギー効率の改善が、課題として残っています。それらをどうやって克服していくのか、アースプロジェクトの挑戦にこれからも注目していきたいと思います。

(スタッフライター 田辺伸広)

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