2012年04月10日
Keywords: ニュースレター
JFS ニュースレター No.115 (2012年3月号)
JFSの理事のおひとりである山本良一東京大学名誉教授らが、「リオ+20」に向けて「エコ文明のための政府間倫理パネル」の設置を提案しています。とても大事な考え方・動きだと思い、山本先生からの資料をもとに、その概略をご紹介します。
1992年に地球サミット(国連環境開発会議)がブラジルのリオデジャネイロで開かれてから今年で20周年を迎えるのを機に、同会議の成果をフォローアップする「リオ+20」が今年6月、同じくリオデジャネイロで開催されることになっています。テーマは、持続可能な開発及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済、持続可能な開発のための制度的枠組み、の2つです。
「リオ+20」に向けて世界の650のNGO等から多数の提案がなされていますが、山本先生らは、持続可能な開発のための制度的枠組みを強化するための国連の専門機関として「エコ文明のための政府間倫理パネル」の設置を提案しています。
下図に示すように世界には気候変動、資源、生物多様性とエコシステム・サービスについては国際政治のリーダーたちへ科学的知見の評価を提供する正式な機関があり、定期的に優れた報告書が公表され国際政治や国際経済等に大きな影響を与えています。例えば2007年ノーベル賞委員会は「人間活動と地球温暖化の関連に関して科学的データの収集、分析により国際的な世論づくり」の努力を行ってきたとしてIPCCに元米国副大統領アル・ゴア氏と共にノーベル平和賞を授与しています。
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【3つの科学パネルと新たに提案する倫理パネル案】
○既に設置されている科学パネル
IPCC:気候変動に関する政府間パネル第一ワーキンググループ 科学的基礎
第二ワーキンググループ 影響、適応、脆弱性
第三ワーキンググループ 気候変動の緩和策
IRP:国際資源パネル製品サービスのライフ・サイクル全体における環境影響、自然資源の有効利用、脱結合
IPBES:生物多様性とエコシステム・サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム
○新たに提案する倫理パネル案
IEPEC:エコ文明のための政府間倫理パネル第一ワーキンググループ エコ文明の哲学的、宗教的、文化的、倫理的基礎
第二ワーキンググループ 資源利用と気候安全に関する環境倫理
第三ワーキンググループ 持続性と平等性に基づく金融経済システムの倫理
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今回提案する倫理パネルは「科学的知見の評価」では成し得ない、自然と共生するエコ文明の観点からの政策、制度等の倫理的側面の評価を哲学的、宗教的、文化的、倫理的に行うことを目的とするものです。
"倫理パネル"に結集する数千人の世界の専門家が毎年「地球倫理白書」を公表するなどをすることによって、3つの科学パネルと連携して世界の持続可能発展をより正しい方向へ導くことが期待されます。
地球温暖化の影響は既に世界的に顕著に現れており、100年に1度の異常事象は普通となりつつあります。世界の平均気温の上昇を産業化前と比較して2℃以下に抑制する(気候ターゲット2℃)ためには世界の温室効果ガスの排出量を2050年までに1990年比で50%程までに削減する必要があるとされていますが、排出量は増加の一途をたどっています。
抜本的対策を取らなかった場合、世界の平均気温は2060年頃には4℃上昇することもあり得ると考えられ、この「4℃世界」では10億人以下しか生存できないと著名な気候科学者 Kevin Anderson や Hans Schellnhuber が警告しています。2100年の世界人口を100億人と予想すると、21世紀後半の40年間で90億人が死亡するという未曾有の事態が生ずることになります。その前に食糧不足等により大量の環境難民が発生して、国境を越えることにより気候戦争が起こることも強く懸念されています。
一方で世界人口は今も増加し続けており、途上国における社会的インフラの建設を促進しつつ、貧困問題やその他の社会的問題の根本的解決を図らなければなりません。人類全体が現在の環境破壊的な文明を地球の限界内で持続可能なエコ文明へ半世紀以内に転換させるという"コペルニクス的転換"をしない限り、直面する難局を突破することはほとんど不可能でしょう。文明のコペルニクス的転換のためには私たちの価値観や倫理も根本的転換が求められます。正にエコロジカルな回心が求められるのです。
このような問題意識から、2011年9月上智大学創立100周年記念国際会議の田中裕上智大学教授と Herman Greene 教授の両共同議長で開かれたパネル討論で、山本先生は倫理パネル設立を提案したのでした。
米国の著名な哲学者である Herman Greene 教授は"エコ文明のための政府間倫理パネル(以下倫理パネル)"はきわめて時宜にかなった提案であると高く評価され、最終的に、国連環境計画(UNEP)の国際環境ガバナンスグループからの提案の一つ、"持続可能性のための倫理的組織"と合わせて提案されることになりました。
「これまで科学と政策のみを強調してきたことは不十分であって、持続可能発展は経済的・技術的な挑戦であるばかりではなく、倫理/精神性の挑戦でもあるという認識を持つこと。私たちは持続可能発展の政策及び実施の設計及び評価について倫理/精神性の観点からの検討を加える必要がある」との認識のもと、トリプルボトムライン(経済、環境、平等)の3つの柱の統合、経済成長や公共財、平等、若者を元気付けることなどについて、考えや戦略を進めています。
これまでに提案されている主な倫理イニシアチブをいくつか挙げてみましょう。
2011年11月1日までに「Rio+20」に向けて650のNGOがそれぞれの提案を行ないましたが、その中の75の提案が倫理/精神性について論じているように、多くの人々が「本当の持続可能な発展を考え、進めていく上では、科学や政策のみならず、倫理的な側面が不可欠である」ことを認識しつつあります。
「リオ+20」へ向けての倫理パネルの提案が多くの人々の理解と賛同・支持を得られるよう、JFSも応援していきたいと考えています。
(枝廣淳子)