ニュースレター

2012年02月14日

 

トンボが拓く新たな未来 ~ トンボに学んだマイクロエコ風車

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JFS ニュースレター No.113 (2012年1月号)
シリーズ:JFS「自然に学ぼう」プロジェクト 第4回

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Copyright 日本文理大学 マイクロ流体技術研究所


2011年11月、東京都内で開催されていたネイチャー・テクノロジーの展示会で、直径50センチほどの小さな風車を見つけました。本体部分はペットボトル、ごく薄いプラスチック板を凸凹に折り曲げてある羽が4枚ついていて、かすかに感じられる程度のそよ風を受けて回りながら、発電機にとりつけられたLEDランプを点灯させていました。

おもちゃのように、とても小さなこの風車には、トンボの翅の構造とトンボが飛ぶ仕組みから学んだ知恵と、私たちの社会が抱えているエネルギー問題への可能性が詰まっています。今回のニュースレターでは、この風車を開発した日本文理大学の小幡章教授にお話を伺い、トンボに学んだこと、この風車ならではの特徴や可能性を中心に紹介したいと思います。

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航空学が専門の小幡教授がトンボを研究することになったのは、2005年度からの5年間、「昆虫型超小型飛翔ロボットの研究開発」プロジェクトの助成が文部科学省に認められ、トンボが飛ぶ仕組みを生かしたロボットの開発に携わったことが直接のきっかけでした。

トンボが飛ぶメカニズムを学ぶ第一歩として、まず、小幡教授の研究室では、トンボと同程度の遅い速度の翅周りの空気の流れを、水を使うことによって拡大観察できるようにした世界初の大型可視化水槽を開発しました。これは、ある条件を満たせば水でも空気の流れを正確に模擬できるという理論を使った上で、水の流線や渦を見えるように工夫した特殊な回流水槽です。この水槽を使ってトンボの翅がどのような原理で揚力を発揮しているかが理解出来るようになりました。

トンボの翅は、ごく薄い紙を凸凹に折り曲げて作ったような構造をしています。可視化装置による観察で、トンボがこの凸凹によって翅の真上に小さな渦をいくつも作り、ベルトコンベアのように後ろに空気を流すことで揚力を生み出し、同時に、飛んでいる間に翅にまとわりつこうとする空気を後ろに流して空気抵抗を小さくして飛んでいるのだということがわかりました。

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Copyright 日本文理大学 マイクロ流体技術研究所


こうしたトンボの翅の構造と仕組みを活かして飛ぶ小型ロボットの開発に成功した小幡教授は、ある日、友人からこう言われたそうです。「それで、そのロボットがいったい何の役に立つの?」教授はその言葉に大きな衝撃を受け「トンボの知恵を利用して役にたちそうなものを作ってやろう」と一念発起したといいます。

トンボはかすかな風を生かして飛ぶことが得意です。これは高速化・高出力化を推し進めて発展してきた現代の工業社会とは逆をいくものです。この自然界のトンボの強みをうまく生かせないか。考えた末に思いついたのが、風力発電機のブレード(羽)への応用でした。3~4年間、試行錯誤を重ねた末、マイクロエコ風車ができあがりました。

日本の大型風車の多くは、欧州のように常に一定の速度で同じ方角から吹く風に対応した作りになっていますが、強弱も方向もさまざまな風が吹く日本では、風が弱い日には回転が止まってしまうなど、必ずしも日本の気候風土に合っているとはいえません。ところが、このマイクロエコ風車は発電機をつないでいても、秒速30センチ程度のかすかな風で回ることができます。

また、台風などの強風で壊れないように頑丈な風車を作るには多額の費用がかかりますが、マイクロ風車は強風を受けるとブレードが風になびくように折れ曲がり、風を受け流して出力を落とすという特徴を持っています。つまり、このマイクロエコ風車は、強風時には風を受け流して壊れることがなく、かすかな風をもとらえて回り続けることができるわけで、日本特有の気候を利用できる仕組みになっています。


他にも、現在使われている風車の多くは、風の力でブレードを高速回転させることによって速い回転を発電機に伝え、電気を起こしているものですが、マイクロ風車は低速で効率よく回転するため、今、大型風車で問題となっているような低周波の騒音が発生しないという特徴を持っています。薄いプラスチックのほか、厚紙でブレードを作ることも可能で、万一、回っているときに手で止めても安全です。

これらのマイクロ風車ならではの特性を生かせば、先進国では、マンションのベランダなどにとりつけることによって、携帯などの情報端末や乾電池の充電など、家庭で使う小さな需要をまかなうことができます。日常的に停電が起こるような国々でも、大規模な発電所の建設や送電網の整備などしなくても、夜に灯りをともすなどの地域に必要な電力を供給することもできます。小幡教授は、実用化に向けてさらに研究を進め、こうした地域に安全で安価な発電による電力を供給できたら、と考えています。

小幡教授の研究室では、このマイクロエコ風車の実用化と普及に向けて、2つの課題に取り組んでいます。まずひとつは、吹いている風のエネルギーの20%を電気として常時出力できるようにすることです。発電機から実際に得られる出力となると、現時点でも風速2.5m/sで15~20%なら可能だそうです。この日本の平均と言われる風速前後で良く回り、しかも発電機に繋がれる様々な電気負荷条件下で30%近い電気出力が得られるようになれば、誰でも日常的に気楽に使える夢の小型風車として普及させることができます。小幡教授は、「風車理論をゼロから見直し、最新の発電技術を組み合わせて、夢の30%をめざしたい」と語ります。

もうひとつの課題は、製造コストの問題です。今は数が少ないので、手間のかかる作り方をせざるを得ないのですが、そのまま大量生産しようとすると人件費がかさみ割高になってしまいます。今の製法では、コスト上、人件費の安い国で作らざるを得ないのですが、品質や性能の劣化保証が難しくなる等の問題が考えられます。そこで、いずれは日本のように人件費が高い国でも高性能を維持しながら安く作りたい、最終的には1万円程度でできるのではないか、と小幡教授は考えています。

最後に、小幡教授のこれまでのトンボの研究とロボット開発、マイクロエコ風車開発までの道のりを振り返って、「自然に学ぶ」をキーワードに、今感じていること、若い世代に伝えたいことを聞いてみました。

今感じていることとして、「自然のフィールドワーク的な研究も重要でしょうけれども、自然の仕組みを生かす工学的な再現研究はそれに匹敵するだけでなく、新しい意義を持っている気がします。こうした研究は、環境にやさしいだけでなく、老若男女、誰でもどこでも参加して研究に貢献することができます。参加すると幸せ感を得られるので、徐々に支援者の輪を広げることができます。幸せ感があると、発見という幸運の女神が訪れやすいのです。」

また、若い世代へのメッセージとして、「自然は素晴らしく、学ぶことも限りなく多いと思います。でも、自然は簡単にはその神秘の扉をあけてくれないし、その場所すら教えてくれません。では、私たちが自然から学ぶにはどうしたらよいのでしょうか。自然現象のささやかな不思議への疑問を持ち続け、観察を続ければ、扉が見つけられます。」

「でも、私の経験から言うと、成功の秘訣は可視化ツールの開発にあるのだと思います。独自の可視化ツールを作って、鍵になる扉を見つけてください。扉が見つかれば、新しい世界が開けます。自然から学ぶ、という立ち位置には、日本人はとても近いと思うし、しかも私たちがなすべきことのひとつだと思います。」

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私たちのまわりの自然を違う視点で見つめ直してみると、まだまだ新しい未来が拓けるのではないでしょうか。

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Image by Japan for Sustainability


参考資料:
流れに関わるネイチャー・テクノロジー
http://www.nbu.ac.jp/topics/archives/kouza_20100612_obata.pdf
マイクロエコ風車で世界を変える!
http://www.nbu.ac.jp/topics/archives/mfrl-201011.pdf
情報化社会のエネルギー問題を解決する マイクロ・エコ風車とは?
http://www.nbu.ac.jp/fac_sub/engineering/aerospace/project/index.php#eco
すごい自然トピックス:トンボの飛翔の秘密
http://www.nature-sugoi.net/topics/t3/page3.html


※JFS「自然に学ぼう」プロジェクトでは、国内外のこうした事例を幅広く紹介していきます。面白い事例があったら、ぜひ、お知らせください。 
http://www.japanfs.org/ja/pages/031297.html


(スタッフライター 坂本典子)


本プロジェクトは、財団法人 日立環境財団(2011年度環境NPO助成)の支援によって実現しました。

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