ニュースレター

2011年06月14日

 

衣料循環の仕組み作りをめざして

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JFS ニュースレター No.105 (2011年5月号)


経済成長とともに、多くのものを所有してきた私たちの暮らし。今は、ものを手に入れることはたやすく、過剰にあふれたものの行き場について考えなければならないという課題をかかえている時代です。

たとえば、タンスの中に眠る衣料品。現在、日本では定まったリサイクルシステムができていないため、個人でリサイクルショップへ持っていく、バザーに出すなどの方法があるものの、繊維製品の9割は可燃ゴミとして処分されているのが現状です。捨てて、エネルギーを使って燃やされ、埋め立てられるその量は年間197万トン。東京ドーム3個分にもなるのです。

国では、2000年に循環型社会形成推進基本法が制定され、容器包装、家電、食品、建設、自動車に関して、順次リサイクル法が制定されました。そのため、ダンボールのリサイクル率は95%、飲料缶は88%がリサイクルされています。

ところが、繊維製品については、現在日本にはリサイクル法はありません。衣料などの繊維製品もスムーズにリサイクルできる方法はないのでしょうか?

その問題を解決すべく、綿をバイオエタノールにする技術を開発した日本環境設計株式会社と、2010年から衣料回収実験を行ったNPO法人シブヤ大学の試みを通して、これからの循環型社会について考えてみたいと思います。


綿製品をバイオエタノールに再生

日本環境設計は、リサイクルに関する技術と仕組みを提案するベンチャー企業として、2007年に設立されました。繊維製品だけが、リサイクル法の制定ができずに遅れている要因について、同社の吉村知恵さんは、「これまで繊維のリサイクル技術がなかったうえに、衣料品は捨てることが比較的簡単。それと繊維業界は小規模事業所が多く、業界としてまとまって主導力を持つことが難しいということなどが挙げられます」と、話しています。

しかし、同社では、綿に含まれているセルロースを分解して酵素にし、エタノールにするという画期的な技術の開発に成功しました。不要となった衣料品がこのように再生されるなら、焼却で排出されるCO2の削減になるばかりか、トウモロコシや大豆などの食料とも競合しない次世代のエネルギーとして期待されます。ただ、現在エタノールにするには生産コストは1リットルにつき200円かかります。一方、それを販売しようと思うと、価格は現状では100円以下に設定する必要があり、この差をどこかで負担しなければならないという問題があります。

同社では、タオルやガーゼの生産地として知られる愛媛県の今治にある工場で、このリサイクルを行っています。作られたエタノールは隣の染色工場のボイラー燃料として使われたり、重油と混ぜてエタノール重油として販売されたりしています。


ボランティアの手で衣料回収実験

日本環境設計は、2009年に経済産業省と中小企業基盤整備機構の支援を受けて、「FUKU-FUKUプロジェクト」として、小売店舗での衣料回収実験を行いました。そして、2010年に事業化を開始。現在、良品計画、イオン、丸井など8社が回収を始め、反響は上々です。吉村さんは、「タンスに眠っている服がエネルギーになるなら出したいと考える人が多いことが分かり、ニーズがあるならば、次は一般市民を通した衣料回収ができれば」と考えるようになりました。

そんな折に、「シブヤ大学で一緒に授業を」という話がもちかけられました。シブヤ大学は、東京都渋谷区を中心に「誰でも先生、どこでもキャンパス」というコンセプトで生涯学習を行っているNPO法人です。授業コーディネーターの佐藤隆俊さんが、「20、30代の受講生が多いシブヤ大学で、不用になった衣料品のことについて考えてもらうきっかけができれば」と、企画を進めたものです。

2010年1月に授業が行われました。タイトルは「渋谷油田ヲ発掘セヨ!」~眠れるリサイクル資源発掘作戦会議~というユニークなもの。ここでいう油田とは、家庭のタンスの中に埋蔵されている衣料品のことで、それを発掘し、資源として生かしていこうというアイデアでした。授業では、吉村さんが講師となって、「日本の衣料リサイクルの現状と課題」について話をし、その後は各自が持参した衣料品から、バイオエタノールにした場合の量を量り、リサイクルに向けて今後どのようなことができるかというワークショップを行いました。

今まで着ていた服が、エネルギーとして再利用されるということに驚きを感じた生徒は多く、次につながるさまざまなアイデアが出されました。そして結果としては、今後もシブヤ大学の授業や部活動として、自分たちの手で衣料品を回収しようということが決定。「FUKU-FUKUプロジェクトに続いて、今度はみなさんの自発的な形で回収実験ができるとは、とてもうれしいことでした」と、吉村さんは振り返ります。

同年9月には、授業の参加者がボランティアスタッフとなり、渋谷区神宮前のコミュニティーセンターで、地域住民を対象とした衣料回収をスタートしました。まだ着られるものはリユース業者に渡し、着られなくなったものは愛媛の工場に送ってエタノールにするということを告知しながら、会場ではアンケートも実施。結果としては255kgの衣料品が集まりました。

その後のシブヤ大学の授業で、メンバーは増え、新たに「衣料循環ゼミ」という名前でスタート。初回と同じ地区で、11月、12月、1月に回収実験を行いました。次第に地域での認知度も高まり、回収量は徐々に増えて、1月には1トンを超える衣料品が集まりました。さらに、衣料回収に加えて、まだ着られる服を自由に持っていってもらったり、もらったりできるエクスチェンジコーナー、古着を利用したぬいぐるみ作りのコーナーも設け、新たなコミュニケーションも生まれました。


衣料循環ゼミ
http://www.shibuya-univ.net/professor/detail.php?id=561


みんなの声で仕組み作りを

4回の回収時に行ったアンケートの結果によると、衣料品などをバイオエタノールに変える技術があるということを知ったのは、「今回のイベントで知った」という人が多く、「それは良いことだと思うが、もっと情報発信をすべき」という意見が多く出されました。

また、衣料品にもリサイクル費用がかかるとしたら、「喜んで払う」が7%と、「払ってもよい」58%を合わせると65%。「義務なら払う」25%も加えると、90%となり、「払いたくない」という10%の回答を大きく上回りました。また、具体的なリサイクル費用については、「1着につき、いくらまでなら払ってもよいか?」という質問に対しては、コートは100円以上という回答が多く、シャツ類では50円までという回答が多く見られました。

吉村さんは「リサイクルシステムを作っていくのは、こうした市民のみなさんの声がとても大切だと思います。バイオエタノールにする生産コストをもっと下げられるように技術開発をさらに進めることと、草の根的な活動を今後も続けていくことが大切ですね」と言います。

佐藤さんは「同じ地域で続けて衣料回収を行ったことで、そこがコミュニティの場となったのでは。エクスチェンジやぬいぐるみ作りも好評でしたし、これからも隣人祭り(※)と一緒に行うなど、なんらかの形で続けていきたい」と、話しています。※隣人祭り:フランスから始まった地域住民の交流の場で、日本でも2008年から 各地で開催されるようになった

衣類が大変な貴重品だった江戸時代、古着が衣類の主流で、さらに古着を解いた布もボロになって使いようがなくなるまで、徹底的に使ったといいます。60年ほど前、戦後の一般家庭でも、衣類のほころびを繕い、縫い直し、古くなれば、おむつや雑巾にするなど、「もったいない」精神が生かされていました。

ところが、今は衣類の生産量と、消費者の購入量、収納量が膨大になり、繕う以前にゴミと化してしまうことが多いようです。それでいて「もったいない」精神は、人々の心のどこかにくすぶり続けているのでしょう。でも、それがゴミではなく、エネルギーに変わって地球温暖化問題解消にも役立つと分かれば、タンスのスッキリと同時に心もスッキリとすることでしょう。

衣料循環の課題はまだまだ多いものの、私たち一人ひとりが意識を持ち、声をあげていくことによって、今後スムーズな仕組みができあがっていくことを大いに期待したいと思います。

参考:

日本環境設計株式会社
http://www.eecot.com/

シブヤ大学 
http://www.shibuya-univ.net/


(スタッフライター 大野多恵子)

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