ニュースレター

2010年09月21日

 

「花王環境宣言」で、消費者や社会と「いっしょにeco」を提案する ~ 花王株式会社

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.93 (2010年5月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第91回
http://www.kao.com/jp/


石けん、洗剤、シャンプーなど、私たちの毎日の生活に欠かせない製品を作り出している花王。創業は1887年で、高級化粧石けんの製造に始まり、「よきモノづくり」を企業理念として歩み続けてきました。洗剤・日用品のトップメーカーとしてよく知られ、現在では、ビューティケア事業から油脂アルコールや界面活性剤などのケミカル事業にまで事業分野を拡大しています。

JFS記事:消費者起点の"よきモノづくり" - 花王
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/
pages/027325.html

2009年6月には、「エコロジーを経営の根幹に据え、清潔・美・健康の分野で世界の人々の豊かな生活文化の実現に貢献する企業をめざす」という、新たな使命、事業像のもとに「花王環境宣言」を発信しました。同年10月には、社名ロゴをそれまでの漢字表記「花王」からアルファベット表記の「Kao」に変更し、グローバルな信頼のブランドへと高めていくことを目指しています。

「これまで花王の事業活動の原点は、『よきモノづくり』という理念に集約されていましたが、さらに社会との関係を考える上で、CSRの重点的な取り組みとして『エコ』『グローバル』『人づくり』ということを大切なキーワードとしています。特に環境宣言はとても大きな変革です」と話すサステナビリティ推進部兼社会貢献部部長の嶋田実名子さん。今回は、その新しい取り組みについて見ていきたいと思います。


「いっしょにeco」で環境負荷低減

同社では、1995年に環境と安全の基本理念を掲げ、性能向上と環境負荷低減の両立を目指して継続的に取り組んできました。2008年度からは、新たな指標「環境負荷改善率」を採用しています。ライフサイクル全体でのCO2排出量を「A:基準製品」と「B:開発製品」で比較・評価し、「A÷B」の数値が1より大きいと、「基準製品より環境負荷が低い新製品となる」という計算に基づき、衣料用洗剤や紙おむつなど、改善率が上回った新製品が28品目に上りました。

「花王環境宣言」は、このような活動を土台として、さらにあらゆる場面での環境負荷低減を実現しようというものです。そこでは「いっしょにeco」を提案し、1)製品を使う側の生活者と「いっしょにeco」、2)原材料調達、生産、物流、販売などのビジネスパートナーと「いっしょにeco」、3)広く社会全体の環境活動と連携した「いっしょにeco」という3つを挙げています。

花王の製品ライフサイクル全体を通じて排出されるCO2量は、国内2007年度調べで総量692万トン。そのうち原材料調達から190万トン、開発・製造で53万トン、物流から9万トン、家庭での使用時に330万トン、廃棄時に110万トンで、使用時の数値が突出して高くなっています。

京都議定書において、日本は2008年から2012年までの5年間で温室効果ガス排出量を1990年比で6%削減することが求められていますが、家庭部門でのCO2排出量は逆に増えているのが現状です。洗剤やシャンプーなど、家庭で毎日のように使う製品は、水やお湯を大量に使うことが多く、生活者の環境負荷がとても大きな課題となっています。


世界一コンパクトな洗剤で、生活者と「いっしょにeco」

その課題をクリアすべく、2009年には世界最小サイズの衣料用液体洗剤「アタックNeo」が発売されました。

商品開発に際して目指したコンセプトは、「すすぎの回数が2回から1回へ、洗剤の容量は半分に」というもの。そのためには、水になじみやすく、泡切れのよい界面活性剤が必要で、数千種類の実験データを調査していく中で、画期的な界面活性剤を発見したのです。それは、これまで衣料用洗剤の用途としてはあまり注目されていない界面活性剤でしたが、改良を加えることによって、洗浄力が高く、水にもなじみやすいという性質に変えて、商品開発は成功しました。

すすぎが1回になったことで、ドラム式洗濯機の場合、1カ月の水の使用量を約3割も減らすことができるようになりました。また、商品の配合組成中の水分を極限まで絞っても、固まらず安定した品質を保つ濃縮化に成功し、従来の液体洗剤の2.5倍に濃度を高めることができました。コンパクトサイズのボトル1本(400g)で、これまでの液体洗剤1kgと同じ回数使えるというわけです。

結果として、水道代の節約や、洗濯時間の短縮による電気代の節約など、消費者にとって多くの利点が生まれました。また、コンパクトサイズであれば、輸送や廃棄段階でも環境負荷を減らせます。

嶋田さんは、「このような利点が、消費者のみなさんに十分に伝わっているかどうかという点で、さらにPR方法を工夫したいと思っています。たとえば、すすぎが1回なら、時間の短縮にもなって、出勤前に洗濯するときには、朝の貴重な時間が節約できますね。それから、小さいサイズなら買い物のときもラクだし置き場所に困らないなど、エコだけを前面に出すのではなく、ライフスタイル全体を見て、楽しみながら省エネにもつながるという伝え方が、これからは欠かせません」と、「いっしょにeco」を進めていく上での今後の課題について、述べています。


CDPの取り組みで、ビジネスパートナーと「いっしょにeco」

ビジネスパートナーと「いっしょにeco」として注目すべきは、カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP)を通した情報開示です。これは、気候変動リスクへの取り組みや温室効果ガスの排出量の公表を企業に求めるプロジェクトです。CDPを運営しているのは、2000年に発足した同名のNPOで、ロンドンに事務所を構えています。CDPは2002年から世界中の大企業に質問状を送り、気候変動に対する戦略や温室効果ガス排出量に関する情報の開示を求めています。消費者の購買行動や企業間の取引において、CO2排出量が重要な選択基準のひとつになりつつある現在。花王では、2003年からCDPの情報開示に積極的にかかわっています。

Carbon Disclosure Project:
https://www.cdproject.net/ (English)

また、2009年からは、世界の一流企業45社の中で、日本では3社のうちの1社として、CDPサプライチェーンの法人メンバーとしても参画しています。自社だけでなく、全ての取引先に対しても情報公開を求め、サプライチェーン全体で気候変動対策に取り組もうとしているのです。嶋田さんは「こうした取り組みは、消費者からは見えにくいかもしれませんが、『いっしょにeco』という観点からも、とても大切なことだと思います」と強調しています。


「エコイノベーションの加速」を目指して

2020年の中期目標としては、国内の消費者向け製品からのCO2排出を35%削減、製品使用時の水を30%削減(いずれも2005年比)という数値を掲げています。嶋田さんは、「目標達成のためには、どういう道筋で達成していくかというプランニングを各部門に課して、少しずつ積み重ねていかなくてはなりません。さらに『アタックNeo』のような省エネ商品を、もっと増やしていきます」と、今後の展開について語っています。

中期目標に向けた取り組みの一つとして、和歌山県の事業所内では現在、「エコテクノロジーリサーチセンター」が建設されています。次世代環境分野の総合研究開発拠点として、エコロジー経営のビジョンを実際のモノづくりで具現化していこうという施設です。これまで事業分野ごとに分散していた環境関連の研究に、組織を横断して取り組むことによって「エコイノベーションの加速」を目指します。具体的には、植物油脂などの再生可能原料を高度に利用するための技術開発や、水、食糧、グリーンケミカルス(環境負荷低減をめざす化学技術)の分野で、将来の事業の核に育つような次世代環境技術開発への取り組みなどが挙げられます。

全研究施設の完成予定は2012年2月。今後、そこから発信される最先端の取り組みや、「花王環境宣言」のさらなるステップに、これからも注目していきたいと思います。

(スタッフライター 大野多恵子)

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