ニュースレター

2010年08月24日

 

自然の恵みを用いた持続可能な事業活動を展開 ~ アサヒビール株式会社

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JFS ニュースレター No.92 (2010年4月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第90回
http://www.asahibeer.co.jp/


国内ビール売上No.1の座を12年連続で達成しているアサヒビール。1987年に発売開始された日本初の辛口生ビール「アサヒスーパードライ」が、ビール業界に革命を起こすヒット商品となり、以来、主力ブランドとして人気を保っています。2009年には創業120周年を迎え、現在は多様化したニーズに対応すべく、さまざまな種類のビール、その他の酒類を扱い、さらにアサヒビールグループ全体としては、酒類以外の飲料、食品、薬品にも事業分野が広がっています。

水や穀物など、自然の恵みを利用する事業活動は、持続可能な地球環境があってこそ成り立つものです。同社では、これまで地球温暖化の防止、水資源の保全、廃棄物の削減、容器・包装における環境配慮など、あらゆる面から環境問題に取り組んできましたが、さらなる最新の取り組みについて、社会環境推進部長の竹田義信さんにお話を伺いました。


世界初の新技術「PIE煮沸法」でCO2を30%削減

「ビールの製造工程では、これまで省エネ技術の導入や天然ガスへの燃料転換など徹底したCO2削減を行ってきて、やり尽くしたという感じでした。そこをさらに一つひとつの工程を見直して、2008年に新技術を開発しました」と竹田さんが話すのは、世界初の「PIE(Pre Isomeriser & Evaporator)煮沸法」という画期的な技術。ビールの製造工程で最もエネルギーを使用するのが煮沸です。

従来は麦汁にホップを加えて同じ釜で煮沸していました。ところが「PIE煮沸法」では、ホップだけを別の小型釜で煮沸し、不要な成分を蒸散させた後、麦汁の釜に加えます。それによってトータルの煮沸時間が短縮され、煮沸工程で発生するCO2排出量を、従来よりも約30%削減することに成功したのです。しかもビールの泡持ちが良くなるなど、品質向上という副次効果も得られました。さらに、煮沸の効率化でホップの使用量も約5%削減でき、コスト削減をも可能にしたのです。

「PIE煮沸法」は、2008年9月には大阪・吹田工場の「アサヒスーパードライ」製造に導入されたのを皮切りに、現在は全国9カ所のビール工場のうち5カ所で導入済み。残り4カ所でも順次導入される予定です。


時代ごとに役割を果たしてきた「アサヒの森」

広島県庄原市と三次市には2,165haに及ぶ社有林「アサヒの森」が広がっています。1941年、アサヒビールの前身である大日本麦酒が、当時、ビールの王冠に使用していたコルクの輸入が、戦争によって途絶えることを危ぶみ、森に自生していたアベマキ(西日本を中心に植生するブナ科の落葉広葉樹。別名コルククヌギ)の樹皮を代用品として確保するために山林を購入したのです。

結局、王冠にアベマキを使うことはありませんでしたが、その後も森は半世紀以上にわたって守り育てられてきました。ビールづくりには自然の恵みが欠かせないため、「森を守ることは、本業を守ること」という認識を継承しているのです。戦後は、森林経営を継続していくための方策として、一部にアベマキを残して、スギ、ヒノキを植林し、後に森林法に基づく「水源かん養保安林」の指定を受けました。

2001年には、森林経営のレベルアップを図り、社内外で環境保全意識を向上させるため、世界的な森林認証機関であるFSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)森林認証を取得しています。FSCは、経済的な持続性や生態系への配慮など、適正に管理されている森林を認証するもので、「アサヒの森」は日本で3番目の認証となりました。

現在は、間伐材から割り箸やパズルなどを作り、一部を工場の売店で販売し、木クズは防音、防火用の建材やバイオマス発電として、またペレットストーブに使うなど、余さず有効利用し、森は時代に応じて役割を果たしてきました。「希少種であるタカの一種ハチクマも確認されるなど、森は貴重な動植物の宝庫です。こうした生態系を守り育てること、それから5haほどの一区画の木は、文化財となっている古い寺の修理に使うため、200年は切らずに残すことにしています」と竹田さんは、持続可能な森づくりの重要性について強調しています。


ビール1本で1円寄付「うまい!を明日へ!」プロジェクト

2009年の春から、「アサヒスーパードライ」を1本購入するごとに、地域の環境保護、保全活動に1円寄付されるという、「うまい!を明日へ!」プロジェクトが始まりました。

JFS関連記事:アサヒビール スーパードライ1本で環境保護などに1円寄付
http://www.japanfs.org/ja/pages/029453.html

プロジェクトの先行地区は、四国工場操業10周年記念の企画として好事例を発信した四国4県でした。寄付金は愛媛県の「森林保全活動」、香川県の「フォレストマッチング事業」、徳島県の「森林保全活動」、そして高知県の「仁淀川水系の水質保全活動」にそれぞれ活用され、現地のアサヒビール社員もボランティアとして参加しました。

全国規模で行うようになって、2009年の3月下旬から4月下旬に製造した「アサヒスーパードライ」による寄付金は約2億2000万円。秋には第2弾を行い、寄付金額は約4億6000万円となり、第3弾としては、2010年の3月上旬から4月下旬製造分についてプロジェクトを実施しています。

寄付金は、各地区での販売数量に応じて47都道府県それぞれに配分されます。北海道では、「ラムサール条約登録湿地の保全活動」、新潟県では「トキの野生復帰のための活動」、愛知県では「COP10支援実行委員会」など生物多様性の保全や、地域の特性を生かして活用されます。

また、東京都では公立小学校に太陽光発電設備を設置しています。子どもたちに太陽光発電に関心を持ってもらうために出前授業を行い、竹田さんも講師として出向きました。「子どもたちに温暖化と森の働きについて話をしましたが、今の小学生は、環境問題のことをよく知っていて、とても興味を持ってくれました」。この取り組みは、文部科学省が2009年にまとめた、学校エコ改修などを行う「スクール・ニューディール」構想のさきがけともなったそうです。


2020年までに2008年比でCO2を30%削減

同社では2010年1月に「環境ビジョン2020」を策定し、アサヒビールグループ全35社、450拠点(2010年1月現在)で、製造部門や物流部門の効率化を図るなど、CO2の排出を2020年までに2008年比で30%削減しようという目標を設定しています。その対策としては、前述した「PIE煮沸法」など製造工程の見直し、環境負荷の少ない商品の開発、ヒートポンプ式による省エネ型自動販売機の導入などを挙げています。

また、自然エネルギーの積極的な活用も欠かせません。2007年には、国内ビールメーカーでは最大規模となる太陽光発電設備を博多工場に導入し、2009年には、日本自然エネルギー株式会社と、年間4000万kWhの風力発電とバイオマス発電によるグリーン電力の契約を交わしています。これは食品業界では最大のグリーン電力契約となり、「アサヒスーパードライ」缶350mlの製造などに活用し、本社ビル全ての電力もまかなっています。こうした活動が評価され、2009年末には、経済産業省主催の第14回「新エネ大賞(資源エネルギー庁長官賞)」を受賞しました。

グリーン電力で製造された商品には、国の定めた「グリーン・エネルギー・マーク」をつけることができます。「『スーパードライ』の350ml缶ビールにこのマークを表示するようになって、『これは何?』という質問をよく受けます。みなさんに環境のことを意識してもらえるきっかけにもなっています」と、竹田さんは話し、今後もさらに自然エネルギーの利用を進めていくとしています。

JFS関連記事:アサヒビール 食品業界で初めてグリーン電力でビールを製造
http://www.japanfs.org/ja/pages/029199.html

消費者としては、このようにごく身近にある商品を通して環境問題を考える機会が、今後益々増えていくことでしょう。持続可能な地球環境のためには、企業も生活者もより密接につながっていく時代。2020年に向けたアサヒビールグループの取り組みを、私たちも一緒になって考え、見据えていきたいものです。

(スタッフライター 大野多恵子)

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