ニュースレター

2010年06月15日

 

身近なエコアクションを自分も社会も得する行動につなぐ ~ 地域版エコポイントの取り組み

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JFS ニュースレター No.90 (2010年2月号)

2008年度の日本の二酸化炭素の排出量は12億1600万トン。京都議定書の基準年の1990年に比べて6.3%増加し、過去最大の排出量となった2007年度比では6.7%減少しました。減少の要因は、深刻な景気悪化の影響であると指摘されています。これを部門別に見ると、産業部門が1990年比13%減少したのに対し、運輸、業務、家庭部門ではそれぞれ、8.5%、41.3%、34.7%増加しています。この結果から、事業所や家庭から排出される二酸化炭素の削減をさらに進める必要があることがわかります。

環境政策の手法のひとつに、経済的手法があります。法律や条例といった規則による手法ではなく、市場メカニズムを活用し、経済的インセンティブの付与を介して対象とする主体の費用と便益に影響を与え、その行動を環境保全的なものに導く方法です。排出量取引やデポジット制度などが該当しますが、日本では個人の環境配慮行動に対してポイントを付与する「エコポイント制度」も実施されています。


政府の取り組み

政府が運営主体となり、統一省エネラベル4☆相当以上の「エアコン」「冷蔵庫」「地上デジタル放送対応テレビ」の対象家電製品を購入した際にポイントを付与するエコポイント事業(正式名称:エコポイントの活用によるグリーン家電普及促進事業)が、2009年5月より始まりました。
http://eco-points.jp/index.html

地球温暖化対策の推進や、経済の活性化、地上デジタル放送対応テレビの普及を図ることを目的に、2009年5月15日から2010年3月31日までに購入した商品を対象とした期間限定の事業で、付与されたポイントは、各種商品券やプリペイドカード、地域特産品、省エネや環境配慮製品に交換したり、公募で選ばれた181の環境活動を行っている団体に寄附することができます。12月31日現在、個人向けに発行されたポイントは、累積で約859.3億ポイントに上り、792.7億ポイントが商品等に交換されました。

2010年1月28日に成立した2009年度第2次補正予算により、同事業は2010年12月31日購入時までの延長が決定しました。また、新たに断熱や省エネに配慮した住宅のリフォームや新築にポイントを付与する「住宅版エコポイント制度」も始まります。
http://jutaku.eco-points.jp/

この事業とは別に、環境省では2008年度より、家庭部門全般の二酸化炭素排出量削減を促す「エコ・アクション・ポイント(EAP)」事業に取り組んでいます。
http://www.eco-action-point.go.jp/

環境配慮型商品の購入やサービスの利用時にポイントが貯まり、それを商品等に交換することができるというもので、モデル事業を推進し、2011年度以降は、経済的に自立した民間主導のビジネスモデルの確立を目指そうというものです。2008年3月には、全国型4件、地域型9件の合計13件、2009年には全国型3件、地域型6件の合計9件のモデル事業を採択し、2010年度も公募が行われました。JFS関連記事:環境省エコ・アクション・ポイントのモデル事業がスタート      
http://www.japanfs.org/ja/pages/024884.html

個人の環境配慮行動に対してポイントを付与する「エコポイント」は、政府だけでなく、地方自治体や民間企業が運営主体の地域版や企業版のエコポイント事業も展開中です。東京・丸の内周辺地域と、愛知県に本社を置く企業で取り組まれている、わくわくする2つの事例をご紹介しましょう。


1000年先まで続くまちを目指す大手町・丸の内・有楽町の取り組み

江戸時代に江戸城外郭のまちとして栄え、明治時代以降、日本や世界の経済を牽引してきた東京都千代田区大手町・丸の内・有楽町地区は、住民はわずか34人(2007年調べ)ですが、日中にこの地で働いたり訪れたりする人は24万人以上になる典型的なビジネス街です。

約20年前の1988年、時代が求める都市のあり方を検討するために、「大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会」が発足しました。関係者が議論を重ねる中で描かれた未来像は、環境共生型の都市のトップランナーとして、この地域から持続可能な都市のあり方を世界に示し、「1000年先までいきいきとしたまち」を目指すというものです。

まちの姿は、「気づいて、変わっていくまち」「自分の『体調管理』をきちんとするまち」「コミュニティ全体で世界の課題に取り組むまち」「自然とのつながりを大切にし、緑や生きものでにぎわうまち」など、8つの環境ビジョンで表現されています。このビジョンを実現し、地域内で働く人の意識や行動を変えるためのさまざまな仕組みのひとつとして始まった取り組みが、エコポイント制度です。

2007年10月から2年間は、「大丸有(だいまるゆう)エコポイント」の名称で実証実験が重ねられました。大きな特徴は、この地域で働く人や訪れる人の9割が持つといわれる通勤定期券など、日常の交通手段で使われている「Suica」という電子マネーでポイントを貯めたり決済したりできることです。登録者は、加盟店での支払いをSuicaで決済すると100円につき1ポイントが付与され、また、エリアで開催される環境イベントに参加したり、エリア内を循環するハイブリッド式電気バス「丸の内シャトル」に乗り、車内に設置されたリーダー(端末)にカードをかざすとポイントが追加されます。

2009年10月1日、2年間の実証実験を経た同事業は、「エコ結び」という名前に改称され、本格的な導入が始まりました。ロゴのモチーフは、日本の文化に古くから伝わるおみくじを「結ぶ」姿を表し、ポイントを介して人・街・駅に新しいご縁が生まれる活気あるまちであるように、という願いが込められています。利用できる電子マネーも「Suica」に加え、都内の地下鉄や私鉄各社が発行する「PASMO」が追加されました。

WEB、モバイル上で参加登録した参加者は、環境イベントへの参加や、エリア内の加盟店で買い物や食事を楽しみ、代金の決済をいずれかの電子マネーですることでポイントが付与されます。さらに、決済された代金の1%は、エリア内の緑や花を増やす活動や、環境に貢献するプロジェクトへの投資のための基金に、自動的に積み立てられていきます。

貯まったポイントの使い道は、3つの方法から選択できます。ひとつはポイント数に応じたエコグッズに交換すること。2つめは店舗や企業から提供されたリサイクルグッズと交換し、3Rに取り組んでいくこと。そして3つ目が、間接的に国内外の社会貢献活動に参加することです。

4ヶ月が経過した現在の登録者は約2,000人、端末を設置する加盟店も100店を超えました。同事業を運営する大丸有エコポイント事務局の井上奈香さんは、「今後は買い物をする場合でも、商品を選ぶのではなく、エコ結びポイントに加盟するお店を選ぶことで、自分も社会も得する行動につなげてほしい」といいます。同エリア内では、「MUSUBI TIMES」という情報紙も発行されており、普段の行動が環境に配慮した生活につながる情報発信が随所で行われています。今後は、開催される環境イベントや買い物を通じて、参加者数や加盟店、協力企業が増加していくことが期待されます。
https://www.ecomusubi.com/


「エゴなエコ」を応援するデンソーの取り組み

愛知県刈谷市に本社を置くデンソーは、自動車関連部品を扱うトップメーカーとして知られています。CSR(企業の社会的責任)を経営の中核に据える同社は、社員一人ひとりの社会(地域)参加が重要だという認識のもとで、社員とその家族が行う環境や地域に対するよい取り組みを、ポイントを発行して応援しています。

2006年12月に誕生したデンソーエコポイント制度(通称:DECOポン)の特徴は、個人の環境配慮行動を促すアプローチを、「世のため人のため」から「自分や自分の大切な人のため」へ、発想の起点を転換したことにあります。「世のため人のため」に「頑張る」というアプローチは、どこか他者から統制されているようで長続きはしませんが、「自分や自分たちが暮らすまちのため」に、「家族や友人と一緒」に「できることから少しずつ」「楽しみながら」取り組んでいくことが、結果としてきちんと地域社会のうれしさにつながっていけば、自然に当事者意識が生まれ自発的な活動が広がっていきます。同社ではこれを、「エゴなエコを応援する」というスローガンに掲げています。

ポイントが付与されるメニューは、環境セミナーに参加することや、森林保全などの環境ボランティア活動に参加すること、環境に配慮した商品を購入するなど多岐にわたっています。中には、自宅から勤務地まで2.5km以上の通勤距離を、マイカー以外で通勤すると毎月ポイントがたまっていくというユニークなメニューも用意されています。

貯まったポイントは、個人に還元されるメニューと地域に還元されるメニューから選択できます。個人へは、事務局が選定したフェアトレード商品や有機農産物などのエコ商品と交換することや、家族とともに環境体験イベントに参加することで還元されます。地域に還元されるメニューは、森づくり活動への寄附と、地域で行われている子どもが主役の環境活動への助成です。このうち、地域の環境活動への助成については、社員が還元(寄附)したポイント数に応じて助成額が決定し、助成先は選考委員会の選考と、社員や家族の投票で決定するというシステムになっており、助成対象活動への社員参加も積極的に勧めています。

2009年12月時点での参加者数は8,010人。同社の対象者の約2割に上ります。これまでに371,960ポイントが発行され、153,697ポイントがエコ商品や地域の環境活動への寄附として還元されました。特筆すべき点は、6,660人に還元された153,697ポイントのうち、5,944人の116,697ポイントが地域の環境活動への助成に活用されていることです。

愛知県・三重県内の小・中学校や非営利団体の活動に対する助成は、2008年度は3団体でしたが、2009年度は8団体に倍増しています。社員やその家族の環境配慮行動を応援する仕組みが、同社の地域の環境活動への助成を支え、お金の流れが地域内で循環する仕組みにつながっているのです。

2009年度からは、事務局が担っていた運営に、社内公募で集まった21名の「DECOポンサポーター」が加わりました。DECOポンの想いを伝える伝道者として、企画運営や広報機能が強化されていく中で、今後は、デンソー独自の取り組みが、他の企業にも広がっていくことが期待されます。
http://www.denso.co.jp/ja/csr/social/social/decopon/index.html


関心の高さを行動へ

日本では、個人の行動変容を求めて、環境配慮行動に対してポイントを付与する制度はこれからも導入が進むだろうと考えられます。しかし、どのような行動につなげたいかをきちんと考えて制度設計しないと、望む行動変容はなかなか起こらないこともわかってきました。

たとえば、前述の、家電製品を対象にした政府のエコポイント事業の交換商品の内訳を見ると、約792.7億ポイントの95%以上が商品券・プリペイドカードに交換されており、省エネ・環境配慮製品への交換率は全交換数の 0.03%、環境活動を行っている団体への寄附になると0.0066%にすぎません。つまりこの事業は、エコポイント対象商品の購入にはつながったが、そこからさらなる環境配慮型行動にはなかなかつながっていないことがわかります。

日本では地球温暖化に対して「関心がある」層は9割を超えているといわれています。関心の高さを行動にも反映させるためには、経済的なインセンティブを付与する仕組みづくりをどのように設計するかが重要であることを、日本の事例から学ぶことができます。


(スタッフライター 八木和美)

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