ニュースレター

2009年05月26日

 

サステナブルな地域づくりに貢献 - 株式会社 創建

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JFS ニュースレター No.77 (2009年1月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第75回
http://www.soken.co.jp/

愛・地球博が行われた愛知県。その中心都市である名古屋市に本社を構える株式会社創建は、サステナブルな地域づくりをコンセプトに業務を展開する、シンクタンク部門を持った建設コンサルタント会社です。

当社では、「柔らかい創建」と呼んでいる、都市・交通・森林・里山・圏域・地域社会のあり方に関する調査・計画・構想づくりに取り組むソフト分野と、「堅い創建」である橋梁・道路・公園・河川をはじめとする土木やランドスケープ分野の計画から設計まで、ソフトとハードの多岐にわたる幅広い業務領域を、約100人の社員がカバーしています。

昨年来の世界的な金融危機のあおりを受け、日本全体にも瞬く間に景気の減速感、人員削減など雇用の不安感が広がり、今もなお日本経済は先行き不透明な状況にあります。こうした中で、サステナブルな地域づくりの実現に向けて知恵を出すことが仕事である創建において、何よりも、まず、なくてはならないのが「自社のサステナビリティ」だと、常務取締役で社会資本デザイン部長の川合史朗さんは言います。

柔軟な発想を生みだす独自の思想とシステム

猛スピードで変化する社会経済の中で存続し続けるために、創建では、社員の健康と仕事のやりがいを保持しつつ、取引先に感激してもらえる品質を常に保つための独自の方法論を、「品質楽創(がくそう)システム」としてまとめ上げて運用しています。

「楽創」という思想は、代表取締役社長・筒井信之氏の発案によるものです。「多様多才な仕事士たちが、あたかも交響楽を奏でるかの如く、それぞれの知恵や技術を協働して発揮し、新たな価値を独自に創り上げるために、熱く燃える様」(会社案内より)を表し、社内では「楽創しよう」と声がかかると、さまざまな分野のエキスパートである社員が、プロジェクト単位で集まって議論を始めるといいます。

「知恵の値打ちが利益の源泉」であるコンサルティング業。「楽創」を通じて社員一人ひとりの柔軟な発想を引き出し、常に新しい価値やアイデアを顧客に提案し続けることができて初めて、社会に貢献することができ、利益となって還ってくる。それこそが企業存続の「源泉」です。

また、CSR活動の一環として開催している「CSRセミナー」は、顧客となる行政をはじめ、さまざまな企業やNPO団体が相互にコミュニケーションできる場にもなっており、その結果を「CSRレポート」として発刊し、広く情報の共有化を図っています。

市民・企業・行政が、一体となって取り組む

思想・方法論(システム)・情報共有。これらが企業風土となり、「環境に負荷をかけない持続可能な地域社会づくりに向けて、建設コンサルティング、シンクタンク」という事業に取り組んでいる創建。今、環境の問題はとても複雑な関係性の中で起きていると、川合さんは言います。

「例えば、かつての公害問題は加害者と被害者が明確で、どのように問題にアプローチしていけばいいのかが見えやすかった。しかし、昨今の環境問題はヒートアイランド現象ひとつとっても、被害を受けている人が、車に乗ったりエアコンを使うなど、原因となる行動を起している加害者でもある。誰が被害者で加害者なのかが明確にできない社会になっています」(川合さん)

こうした環境問題へのアプローチの一つとして研究しているのが、「社会一体型の施策」です。「ヒートアイランド現象が起きて実際に都市の気温が上昇すると、屋外で活動する多くの人が苦痛を感じます。でも今のところ、決定打となる効果的な対策がみつかりません。しかも、誰が何をすれば、どれだけ効果があるのかがわからない。でも、一市民としての感覚としては『暑くなっている、おかしい』という実感がある。その『変だ』という実感を共有し、市民・企業・行政がまず連携して、みんなで環境によいこと、やれることをやりましょうというのが、社会一体型の施策の根本です」(川合さん)

ヒートアイランド現象緩和の側面から「緑」の効果の程度を予測することは易しくはありません。けれど、社会一体型での取り組みとして「緑」を豊かにしていくことは、美しい都市景観を創出し、地球温暖化の原因となる二酸化炭素を吸収し、生物多様性を担保する装置にもなります。持続可能な環境づくりの観点から、取り組む意義が高いものとして認識されつつあります。さらに、里山と都市の緑をつなげていくことも、これからの取り組みとして重要な課題です。

自然は「タダ」ではない

創建のかかわる事業領域のうち、土木や建築の計画・設計分野については、その多くが貴重な自然や環境に何らかの形で負荷をかける仕事です。だからこそ、環境との共生、エコロジカルな社会づくり、低炭素社会の樹立に向けた、環境にやさしいインフラ整備に関する総合的な技術やノウハウを持ち、関連する国の法律や政策などに詳しい人材が建設コンサルタント業界で求められていることも、今の時代、うなずける動向です。

そこで浮上してくるのが、「社会資本」と「自然資本」のバランスです。さまざまなものを継続的に生み出す資本という点では共通ですが、社会資本が代替可能であるのに対し、自然資本は代替不可能であるところが大きく異なります。

「自然そのものや、自然の営みから享受できるさまざまなシステム(エコ循環システム、物質循環システムなど)がタダ同然で利用されているところに問題があります。自然資本では、社会資本整備で議論になる費用対効果のような、改変・破壊に伴う経済効果や経済損失を算出する方法や概念が十分確立されていません。それでも、人間を含めた動植物の命を未来へとつなぐ代替不可能な資本だということを、今こそしっかりととらえ直す必要が、行政にも市民にもあるのです」(川合さん)

街づくりへの市民参加も、かつては行政の施策に対する意見を一般に問う「上意下達」型でしたが、今は地域の発意を集約し施策に反映させていく、あるいは「街の活性化」というようなフレームを行政が提供し、市民のやりたいことを行政が支援するという傾向にあります。市民の声をいかに引き出すか。それもコンサルタントに期待される重要な仕事になっています。

「愛知県犬山市の街づくりには10年以上かかわっています。犬山城下の歴史的街並みを有する犬山市ですが、10数年前は魅力ある歴史的建造物が取り壊され、衰退の一途をたどっていました。その危機感から『犬山市都市景観基本計画』を策定。その後、市民と行政が連携しながら街づくりに取り組み、旧城下町地区の賑わいが取り戻されつつあります。

農業用水が張り巡らされ『日本のデンマーク』と呼ばれている安城市では、エコサイクルシティ計画を市民参加でつくっています。みんなで街を自転車で走った後にワークショップを行い、安全・快適な道かどうかを地図に落とし込み、具体的に道路やサイクリングロードの設計へとつなげていきました」(川合さん)

参考:安城市「エコサイクルシティ計画」車にかわって自転車を
http://www.japanfs.org/ja/pages/028611.html

人の営みのある限り課題は山積み

道路や橋梁、河川の設計など、創建の「堅い」業務領域でも、サステナビリティは追求されています。キーワードは「長寿命化」。すでに存在するものは、定期的な点検や補修・補強によってより長持ちするように、新しくつくるものについては、はじめから100年、200年と持つことを視野に入れて計画・設計されます。

「たとえば橋梁の場合、行政は一つの橋だけでなく、いくつもの橋を管理していますから、それらすべてを資産ととらえ、どの橋から着手すべきか、着手する場合、どのような方法で長持ちさせるかを提案していきます。自然環境への負荷を減らすためにも、何回もつくったり壊したりしなくてもよい、適切な資産管理方法をコンサルティングしています」(川合さん)

サステナブルな地域づくりで近い将来課題となるのが、高度経済成長期に入居した世帯が一挙に高齢化し、その存続のあり方が問われているニュータウンの問題です。創建では、環境負荷最小・アメニティ最大の暮らしが実現できる「コンパクトシティ」をビジョンとして掲げ、その実現に向けた土地利用計画、公園・緑地の再配置計画、住宅供給・住み替え施策、環境的に持続可能な交通体系(EST)の構築に関する計画づくりなどに着手しています。

「人の暮らしのある限り、取り組むべき課題は山積みです。行政予算が縮小する中で、建設コンサルティング業界も淘汰の時代に入っていますが、独自の楽創という思想のもと、持続可能な地域づくり、社会に貢献できる企業としてあり続けます」(川合さん)


(スタッフライター 青豆礼子)

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