ニュースレター

2009年01月19日

 

ヒートアイランド現象と日本の取り組み

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JFS ニュースレター No.73 (2008年9月号)

ヒートアイランド現象とは、都市部の気温が周りに比べ、際立って高くなる現象を言います。都市とその周辺地域に等温線を描くと、都市部が島のように浮かび上がることから、熱の島(ヒートアイランド)と呼ばれています。

ヒートアイランド現象は、都市部の平均気温を高め、熱帯夜を増やし、住民の生活や健康にも影響を与えたり、自然環境にも影響を及ぼします。それだけではなく、局地的な集中豪雨をもたらすなどの問題を引き起こします。最近、東京など都市部では「ゲリラ豪雨」と呼ばれる予測困難な集中豪雨が増えており、下水工事中の作業員が流されて死亡するなどの事故も起こっています。

このようなヒートアイランド現象は、対策をとらない限り、人口が集中している場所で起こります。今後、途上国を含む世界各地の大都市で問題になってくることが懸念されます。これから都市化が進む場所では、ヒートアイランド現象が起きにくい都市作りを、すでに開発が進みヒートアイランド現象が顕在化しつつある場所では、その緩和に向けての対策を進める必要があります。日本での取り組みを見てみましょう。

東京では、この100年間に気温が約3℃、大阪では2℃ほど上がっています。温暖化による日本の平均気温上昇は約1℃と考えられているため、東京では約2℃、大阪では約1℃がヒートアイランドによる気温上昇であると考えられています。

ヒートアイランド現象に伴い、近年、熱中症などによる緊急搬送人数が増加しています。東京都内では、1996年には200人ほどだったのが、2007年には約1,300人の人々が熱中症により救急車で運ばれています。熱中症による死亡と、真夏日、熱帯夜の熱に相関関係があるという研究も報告されています。

ヒートアイランド現象を起こしている原因は何でしょうか? 簡単に言えば、都市化が進むことで、都市内部に人工的につくり出される熱が増加している一方、そういった熱を冷やす役割を果たしてきた「水・風・緑」が減ってきていることです。

市街化が進むことにより、地表面被覆が変化します。緑地・水面・農地などの減少に伴って、蒸散効果が減ってしまうのです。また、道路の舗装のアスファルトや建築物のコンクリート面などが増えているため、熱の吸収・蓄熱が増え、反射率が低下していることも原因です。

高層ビルが林立するなど、都市形態が変わることで風が弱まっていることや、大規模な緑地や水面といった都市を冷やすスポットが減っているなどもヒートアイランド現象を引き起こしています。加えて、住宅等建物の排熱、工場等事業活動による排熱、自動車からの排熱も増えています。このような人工排熱の増加も大きな原因の1つなのです。

ヒートアイランド現象は、温暖化と悪循環の関係にあります。ヒートアイランド現象によって気温が高くなると、エアコンの使用が増えます。すると、部屋の外に排熱が出されるため、ますます気温が高くなります。加えて、エアコンの使用が増えれば、それだけ電力を使うため、排出される二酸化炭素が増え、温暖化が進む結果、さらに気温が上昇していきます。

今後、温暖化によって気温が上がっていく中、ヒートアイランド現象で都市部の高熱化がさらに進み、しかも暑さをしのぐための緑や水辺がないとしたら、熱中症をはじめ、人々の健康や命にも大きく影響してしまうでしょう。

日本では、このようなヒートアイランド現象に対して、2002年にヒートアイランド対策関係府省庁連絡会議が立ち上げられ、2004年にはヒートアイランド対策大綱が策定されました。大綱では「毎年、対策の進捗状況の点検を実施すること」となっており、毎年開催されるヒートアイランド対策関係府省庁連絡会議で進捗確認が行われています。
http://www.env.go.jp/air/life/heat_island/
index.html

ヒートアイランド対策は、都市部での熱の発生を抑える人工排熱対策のほか、できるだけ熱がこもらないようにし、熱を冷やすための(1)風の道、(2)緑化、(3)舗装表面への対策などがあります。

風の道は、山から都市への森林帯をつくることで、都市部に涼しい空気が流れ込むようにしたシュトゥットガルトの事例がよく知られています。東京のど真ん中でも、再開発によって風の道を確保しようというプロジェクトが進んでいます。都内には、高層商業ビルが障害となって東京湾からの海風が流れ込みにくくなり、エアコンや自動車の排熱などがたまりやすい構造になっている場所があります。

東京駅周辺の再整備が進む中、超高層ツインタワー(両タワー間は約246メートル、歩行者用通路でつながるほかは吹き抜けのようになる)の完成後に、現在海からの風に壁のように立ちはだかっている12階建ての建物を取り壊すことになっています。風の道をつくることで、東京駅周辺はこれまでより涼しくなると期待されています。

緑化も、ヒートアイランド対策として有力なものです。東京都の調査によると、真夏のコンクリート表面の温度が約55℃だったとき、緑化部分は約30℃と大幅に低いものでした。国や自治体では、補助金の支給、固定資産税の軽減、容積率の割増などで、緑化を推進しています。名古屋市は、敷地面積300平方メートル以上の新築建築物に、10~20%の緑化を義務づける条例を策定しました。

路面電車の軌道敷に芝生を敷き詰める緑化軌道も登場しています。また、屋上緑化や壁面緑化も進められており、一般の住宅でも、アサガオやヘチマ、ゴーヤなどツル性の植物を窓の外に育てる「緑のカーテン」の取り組みが広がっています。

舗装表面への対策としては、保水性舗装や遮熱性舗装が広がりつつあります。東京都では、都内の道路の総延長約4キロを保水性舗装にして実験した結果、路面温度を10℃程度下げる効果があることがわかりました。また、屋根に太陽光線を反射して遮熱する高反射塗料を塗布することも効果があります。屋上緑化や高反射塗料を用いてヒートアイランド対策・温暖化対策を進めるクールルーフ推進協議会も立ち上がっています。

自治体での総合的なヒートアイランド対策の例として、東京都の取り組みを紹介しましょう。

東京都では2015年までに熱帯夜の発生を年に20日程度に減少させるという目標を掲げています。ヒートアイランド観測網を独自に120箇所整備し、熱環境マップ(地域ごとの気候、人口廃熱の状況、地表面の状況などを図に集約するもの)を作成し、地域の実態に応じたきめ細かな対策を推進しようとしています。
http://www.japanfs.org/ja/pages/023830.html

樹幹の大きい街路樹で木陰を創出するほか、保水性舗装の導入、遮熱性舗装の実験、下水再生水の実用化の検討など、涼しい舗装を目指した取り組みも進めています。街を冷やす緑を増やそうと、大規模公園の整備や公園内の再整備のほか、庁舎や都立高校などの屋上等の緑化を推進し、都内の公立小中学校、都立学校等の校庭を芝生化し、約300ヘクタールの緑を生み出すことを目指しています。

東京都では、2001年に全国に先駆けて、新築建造物への屋上緑化を条例で義務づけました。敷地面積が1,000平方メートル以上(公共建造物では250平方メートル以上)の建造物を新築する場合、利用可能な面積の20%以上を緑化しなくてはなりません。また、建物用途別に実施可能な対策メニューを、ビジュアルにわかりやすく示した「ヒートアイランド対策ガイドライン」をつくり、民間の建築物での対策の推進を図っています。

最後に、ユニークな市民活動を紹介しましょう。日時を決め、残り湯などの二次利用水を使って、みんなでいっせいに打ち水をして、その気化熱を利用して気温を下げようという「打ち水大作戦」です。
http://www.uchimizu.jp/
http://www.japanfs.org/ja/join/newsletter/pages/027309.html

日本では、昔から、涼やかな音を出す風鈴を窓辺につったり、「よしず」で西日を防ぐとともに、自宅前の道や庭に打ち水をして暑さをしのぐという知恵がありました。この知恵を現代に復活させようという取り組みで、今年はスペインなど、外国でも打ち水大作戦が行われたそうです。

これからも、さまざまな技術開発が進み、ヒートアイランド対策に採り入れられていくでしょう。しかし、そもそも「どのような街にしたいのか」「本当の快適さとは何なのか」「道路を車のためにすべて舗装で固める必要があるのか」「何を優先すべきか」――意思を持った街づくりがあってはじめて、人々が真に暮らしやすい住環境がつくり出されることでしょう。

(枝廣淳子)

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