ニュースレター

2009年03月24日

 

森への思いをつなぐウェブサイト 「私の森.jp」

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JFS ニュースレター No.75 (2008年11月号)

JFS/Watasinomori.jp
http://watashinomori.jp/: Copyright 私の森.jp


「私」の森? 私は森の近くに住んでいないし、庭には木も生えてないし...。そう思う人も多いかもしれません。あえて「私の森」と名付けられたウェブサイトは、どういうサイトなのでしょう?

「私の森.jp」は、森と暮らしと心をつなぐ、コミュニケーションサイトです。JFSの共同代表でもあり、有限会社イーズ代表の枝廣淳子の「森の季節や現状を伝え、山側の活動の素敵な取り組みを紹介し、私たち生活者の思いを森につなぎ、森の恵みを生活の中に取り戻していく、そんな森林コミュニケーションサイトをつくろう。その活動を通して、森と暮らしと心をつないでいこう。気持ちとお金を少しでも森につなごう」という思いから、2008年3月に生まれました。

森と暮らしの循環を取り戻す

共同でこのサイトを運営している有限会社グラム・デザイン代表の赤池円さんは、サイトの誕生について次のように明かします。「森のサイトをつくりたいと枝廣さんから相談を受けて、森について調べてみると、あまりにもたくさんの問題があることがわかって、初めはとてもネガティブなテーマだという印象を持ちました。でも、『森のことを考えていけば、人の幸せにつながるはず。森に思いを馳せる時間を増やしたい』という枝廣さんの言葉を受け、一人一人が森を思い、自分のアイデンティティと森を近づけるきっかけをつくるサイト、というイメージが浮かびました。そこから『私の森』と名づけたのです。加えて、『日本の』という部分を強調したくて『.jp』をつけました」。
http://www.japanfs.org/ja/join/corporate/index.html?page=6

「私の森」を考えると、次には「彼の森」「彼女の森」「みんなの森」の姿が浮かび上がってきます。あちらこちらに、そんな「森」ができあがれば、日本の森林の状況もきっとよくなっていくのではないか、と考えたのです。

ところで、今の日本の森林の状況はどうでしょう。日本は工業国の反面、森林面積が国土の67%を占める森林国でもあります。そのなかでもスギやヒノキなどの人工林は約40%を占めています。しかし価格の安い外国産材におされて国産材は敬遠され、さらに林業従事者も高齢化し、手入れをされないままに放っておかれる人工林が増えています。間伐などの手入れをされない森はどうなるのでしょうか。スギやヒノキの密生しすぎた人工林では、昼間でも林内が薄暗く、木々の根元を覆い土壌を守る下草が育ちません。豊かな土壌が失われると、森がもつ保水力も落ちてしまいます。また、うっそうとした森では生存する生き物の種類も減ってしまいます。

一方、森林は二酸化炭素の吸収源としても期待されています。京都議定書で、日本は二酸化炭素など温室効果ガスの排出量を1990年レベルより6%削減することを義務付けられています。この6%のうちの3.8%は森林吸収に頼ることになっていますが、森林は成長しながらCO2を吸収してくれるので、弱ってしまった森林はその力を十分に発揮することができません。

本来あったはずの森林と人々の生活のつながりを取り戻し、森を手入れしながら、その資源を上手に活用していくこと、それが、日本の森林を守ることにつながるのです。

想像力を遠くまで伸ばす

サイトのデザインやコンテンツの編集・制作のディレクションを行っている赤池さんは、もともとコミュニケーションツールとしてのインターネットに興味を持っていました。デザイン、インターフェイス、マーケティングなどについて10年以上の経験を重ね、今でもインターネットで情報をつなぎデザインしていくことがおもしろくてたまらないと言います。

「私の森.jp」をつくるにあたって厳しい森の状況を知ったからこそ、あえてサイト全体を貫くテーマの「日本(和)」と「森の臨場感やにおい」が、ポジティブな動きへ向かうように気を配っているそうです。

森の保全や活性化のために活動しているNGOやNPOが、国内にもたくさんあります。しかし厳しい現状を伝え何とかしたいという気負いが先行するためか、どうしても危機感をあおってしまったり硬い表現になってしまったりして、うまく森の魅力を伝えられていないことが多いと赤池さんは指摘します。だからこそ、「思い」を伝える表現にこだわったのです。

そのこだわりは、デザインや文章のほかに、「その先が想像できるような空気感」への配慮で表されます。「森への想像力を1cmでも遠くに飛ばしてもらう」ために、常に意識しているコツがあります。「想像する力は、情報が多いほど乏しくなりがちです。逆に情報が少ないほど、それについて考えようとします。だから"情報の先に少しだけ余白をつくってみる"ことが必要」だと説明します。

事務局を担当するイーズの安西直美さんは、サイトへの問い合わせをはじめ、全国の森にかかわるNPOやNGOをつなぐための、各団体の登録や、各地の企業や団体が製造する優れた木材製品をリサーチし、安全性やトレーサビリティについて、独自の基準にかなったものをサイトで紹介する際の窓口となっています。安西さんは「日常ではかかわれない遠くの人とも、ネットで瞬時につながることができます。人とのつながりができるおもしろさが森にはあります」と、運営の楽しさを語ります。

実際には会っていない人やグループが出会えることは、ネットのおもしろさでもあり、大きな可能性にもなります。「森」をキーワードに、各地の活動が紹介され「つながり感」を持ち、そのことでお互いが励まされ元気づけられていることが、「私の森.jp」の魅力につながっています。

ところで、サイトのなかで、どのページが最も一般ユーザーに興味を持たれているのでしょうか?

それは、森の香りがただよう木製マウスパッドや、桧で作られた無塗装の積み木、山桜でできたスプーンなど、森で生まれた製品の紹介ページだと赤池さんは教えてくれます。

「商品ほど情報がコンパクトにパッケージ化されているものはありません。お金で評価される情報が多いということは、目をそむけられない現実です。ただ、商品を通していろんな情報を伝えることができます。森の情報が一番届きにくい人、森から遠く住まう人に届きやすいのは商品情報なのです」。

森のことが意識されなくても木製商品が売られることで、お金は森へ還元されます。また、手にした人も、最初は意識していなかったとしても森の製品を使うことで、少しずつ意識が森へ向かうことは充分にありえることです。そして、この製品はどこから来たのだろうか、と考えをたどるきっかけを「私の森.jp」は提供しています。

ますます拡大する思い

このサイトの立ち上げには、東京電力がファウンディング・スポンサーとなってかかわっています。オープンから半年たったこの9月にはリニューアルをし、新たに「森のエネルギーを使う~憧れのペレットストーブ」「森であそぶ~森遊びノート」「私の森.jp写真部~みんなで使える森の写真素材集をつくろう」「吉野川上村の山守の娘・民ちゃんの山守修業日誌」などのコーナーが登場しました。しかし、実はまだすべてのメニューがオープンになっているわけではありません。サイトから飛び出して、実際に森を訪れるツアーなどのアクティビティや製品の企画提案など、かかわることで具体的な楽しみが返ってくる仕組みづくりも、「やってみたいことリスト」に加えられています。

今後の展望について赤池さんは「昔の人たちは、自然との付き合い方の知恵を持っていたけれど、それと同じような距離感や時間感覚では、今はつきあえません。だからこそ、今の人たちが森とつきあう新しい関係をデザインしていく必要があります」と語ります。安西さんも「森について何かを感じてもらえる、場の力のあるサイトだと思います。これをもっと多くの人に伝えたい」ととても前向きです。

枝廣が森の危機を感じ「私は一般の人々に伝えたりつなげたりすることを大きな活動の柱にしているのだから、森林と私たちの暮らしや思いをつなぐお手伝いができないか」と考え立ち上げた「私の森.jp」。かつてのように、森と密接につながっていた生活を再び送ることは難しいかもしれませんが、人々の暮らしや思いがふたたび「森」につながっていくことで、日本の森も活力を取り戻すことができるでしょう。

ところで、「今日、森のことを考えましたか?」

(スタッフライター 岸上祐子)

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