ニュースレター

2009年03月16日

 

JFSからAFSをめざして ~ 中国の環境問題への取り組み Part.1

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JFS ニュースレター No.75 (2008年11月号)

JFSは日本の環境への取り組みを世界に発信することで、日本と世界を持続可能な方向に推進したいと活動を続けてきました。立ち上げて6年がたち、共同代表としての私の夢は、JFS(Japan for Sustainability)がAFS(Asia forSustainability)、そしてゆくゆくはWFS(World for Sustainability)へと進化していくことです。

まずはJFSのプラットフォームを通じて、アジアの環境への取り組みや、さまざまな考え方を少しずつ発信していきたいと考えています。今回はその第1回となります。

2008年10月26日、中華人民共和国国務院発展研究センター主催の「中日省エネ環境保護政策ハイレベルフォーラム」が開催されました。この会議で私は、「日本における市民活動・NGOの環境への取り組み」というプレゼンテーションをし、会合や昼食会、夕食会などで、発展研究センターの方々と意見交換を行い、中国の環境への取り組みを日本や世界に広く知ってもらうことは重要であるという認識を共有しました。

翌日、国務院発展研究センターの社会発展研究部副部長の林家彬(LIN JIABIN)氏に1時間半の面談時間をいただき、中国の温暖化を中心とする環境政策について話をお聞きしました。以下は林先生のお話をまとめたものです。中国の取り組みや考えを、ぜひお読みください。

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《枝廣》
これまでの中国の環境への取り組みについて教えてください。

《林先生》
中国の環境への取り組みは新しいものではなく、1972年に中国の代表団がストックホルムの国連人間環境会議に出席し、翌年に第一回全国環境保護会議が開催されました。中国は、94年には世界で初めて、アジェンダ21を策定しました。これを機に、中国の中でも持続可能な開発が国策の地位を得たといえるでしょう。

当初は、建設部の中に環境保護局がありましたが、1988年の機構改革で独立した環境保護局となり、最近の組織改編で、環境保護部として権限を強化されています。

環境に関しては、水質汚染防止や大気汚染防止など、十数の法律が制定されています。今年の夏には、「循環経済促進法」が制定されました。

このように、法律などの策定は早い段階で積極的に進めていますが、中国の抱えている問題は、その実施、施行にあると思います。制度や中央政府と地方政府の関係などの問題により、策定したことがそのまま施行されないことも多いのです。

第16回党大会で、「新しい工業化の道」が打ち出されました。これまでの成長のやり方は、資源価格を低く据え置くという産業重視の方法だったのですが、市場経済の中では、これは無駄遣いを引き起こし、汚染物質の増大をもたらします。そこで「新しい工業化の道」では、資源消費量を減らし、汚染物質を減らすことを大きな目的としました。そして情報化を進めることによって、このような新しい工業化を進めようと打ち出したのです。

《枝廣》
温暖化に対する取り組みはいつ始まり、どのように進められているのですか?

《林先生》
温暖化に関しては、第16回大会のあと、4、5年前からでしょうか、国際的な世論が強くなり、中国への圧力も増す中で、取り組みを積極的に進めるようになりました。2年ほど前に、中央政府の中に「省エネ排出削減指導グループ、温暖化対策指導グループ」が設置され、温家宝総理をトップに、各省庁の代表者をメンバーとして、統合的な対策を進めています。

このグループは、目標設定をしたり呼びかけたりする活動をしており、目標設定としては、「2010年までに原単位のエネルギー消費量を20%削減する」「主要汚染物質(COD、SO2)を10%削減する」を掲げています。

《枝廣》
最近中国では地方政府の役人に対して「一票否決」という効果的なしくみをつくったと聞いていますが。

《林先生》
はい、「一票否決」という仕組みをつくりました。これは、中央政府が地方政府の評価をする際に、単にGDPの伸びだけではなく、エネルギー効率の改善をどれぐらい図ったか、汚染物質の削減をどれぐらい図ったかを入れるというもので、ほかの項目の成績がよくても、環境関連の項目の成績が悪ければ不合格となるというものです。

中央政府が地方政府に影響を与えられる手段には2つあります。1つは人事、もう1つは財政移転です。人事といっても、よほどのことがない限り、大きく変えることは難しく、また財政の移転も、主に貧しい地方が対象ですから、それほど直接的に影響を与えられるわけではありません。

中国の政府は、中央から末端の郷鎮まで、5つの階層になっています。それぞれの地方政府の長は上級政府から任命されます。日本のように、直接選挙制ではありません。ですから、下の政府は上の意向を重視し、従うことに気を遣うという性格があります。したがって、上からの評価の指標を変えることで、下の政府の考え方や取り組みを変えることができます。これが一票否決という、評価の仕組みを変えた背景です。

こうして、これまではGDPの成長率のみを評価軸としていたのを、それ以外にも環境改善や民生の問題解決を指標に取り入れることになったのです。この制度改革以降、「生態省」になろう「生態都市」になろうという実験的な取り組みが増えています。

このような取り組みの背景になったのは、現実に対する認識の進化といえるでしょう。つまり、「法律があるのに実質的に進んでいない。それはなぜか?」というメカニズムの問題が理解できるようになると、解決へ向けての取り組みができるということです。

《枝廣》
昨日の会議で「科学的発展観」という言葉をおっしゃっていました。詳しく教えていただけるでしょうか?

《林先生》
中国では、前回の第17回党大会で、「科学的発展観」という考え方が打ち出されました。これは開発経済学の大きな流れの一環といえるでしょう。つまり経済成長のみを推し進めてきた結果、民衆の福祉という意味では、「発展なき成長」になってしまっている。単にGDPが伸びているだけで、民衆の福祉は進んでいない、という認識です。「発展なき成長」という認識から、「成長から発展」へという考え方が出てきました。つまり「GDPがすべてではない。人々の幸福を考えると何が必要なのだろうか?」と、人間の全面的発展を重視するという考え方です。

中国語で"成長"は「増長」と書きます。これは単に大きくなるという意味で、GDPの増長という言い方をします。それに対して発展は「発展」です。かつての意識では、「増長=発展」だったのですが、そうではないという意味で、「科学的な発展」という考え方が出てきました。ここでは民生を重視します。人々の福祉や幸福につながる社会保障の整備、住宅、医療、年金など、人々の日常生活にかかわるものや、文化的生活の充実を重視する考え方です。経済発展の指標にはGDPがありますが、この人間の全面的発展を測る指標は、現在いろいろと試みられているところです。

今年は、中国は改革・開放30周年を記念する行事をやります。改革とは市場化改革ということですが、行き過ぎの面が多々あったと言わざるを得ません。つまり、市場化の流れの中で、政府が担うべき役割を放棄し、そのために問題が生じているという認識です。

たとえば医療、住宅、教育などの分野でそれが見られます。教育を例に取ると、大学が企業を持つという動きが広がっており、大学の先生も、教育をなおざりにして金もうけに走る傾向すら見られます。表面的にそれは大学の活性化と見えるのでしょうが、実質的な教育という点ではどうでしょう。

2、3年前から、中国ではこのような反省が出てきており、政府の役割と市場の役割を見直すべきだという動きになっています。そこから医療保障、社会保障、住宅保障を重視するという最近の政策につながっているのです。

(枝廣淳子)

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