ニュースレター

2008年04月01日

 

日本中に広がるレジ袋禁止・マイバッグ持参のうねり

Keywords:  ニュースレター 

 

JFS ニュースレター No.67 (2008年3月号)

かつて、日本の人々は自分の買い物カゴを下げて買い物にいっていました。野菜は古新聞で作った三角袋に、魚は新聞紙で、お肉は竹の皮に包んで、買い物カゴに入れてくれました。お豆腐などを買うときには、自分の家の台所からボールを持って買いに出ました。

レジ袋が誕生したのは1965年頃といわれていますが、1972年に四国の会社が現在のような手提げのついたレジ袋の特許をとりました。今では世界中で使われているレジ袋は、日本で作り出されたのです。70年代には「丈夫で水漏れもせず、軽くて使いやすいうえ、コストも安い」レジ袋は大量に使われるようになりました。

こうして、「棚から買いたいモノを取り出し、まとめてレジで支払い、レジ袋に入れてもらう」という買い物スタイルが定着しました。80年代以降コンビニの広がりもあって、「ガム1コ買っても、レジ袋に入れてもらうのが当然」という状況になったのです。

現在、「レジ袋」として使われているもののほとんどは、ポリエチレン製です。日本ではいったい何枚ぐらいのレジ袋が使われているのでしょうか? 日本ポリオレフィンフィルム工業組合の情報をもとに、試算してみました。

2006年のレジ袋の国内生産量は約13.9万トンでした。輸入されるポリエチレン袋のうち、約半量がレジ袋とすると、約24万トンが輸入レジ袋になり、合計して約38万トンです。レジ袋の重量は7-9グラムといわれていますが、コンビニなどで小さなレジ袋が大量に使われていることから、1枚7.5グラムとして計算すると、日本では1年間に約500億枚のレジ袋を使っている計算になります。国民一人当たり、約420枚(1日1枚以上!)です。

さらに、(社)プラスチック処理促進協会の資料をもとに、1枚7.5グラムのレジ袋の全製造エネルギー(原料、樹脂製造、成形加工)を原油に換算すると、約14ミリリットルになります。レジ袋1枚には、おちょこ1杯ぐらいの石油が使われているのです。レジ袋は資源の問題でもあります。

自宅へ持って帰ったレジ袋の多くは、ゴミ袋として使われています。しかし、路上に散乱しているレジ袋もかなりあります。海に漂うレジ袋を魚やカメが飲み込んで死んでしまうなどの問題も起きています。また、京都市の調査によると、家庭ごみ全体に占めるレジ袋の割合は約6%で、埋立場の逼迫もあって各地で大きな問題となっているゴミ問題にも、レジ袋は無縁ではありません。

レジ袋は、かつては主にゴミ問題として考えられていましたが、昨今の温暖化問題への関心の高まりから、今では温暖化対策の一つとしても注目されています。今の日本では、世界の注目に値するほど大きなうねりが起こり、社会のあらゆるプレーヤーがレジ袋削減へ向かいつつあるのです。

そしてこれは、単なるゴミや資源問題への取り組みにとどまらず、行政と産業界と市民が協働して問題状況を変えようと取り組む新しい動きでもあります。また、市民一人ひとりにとっても「本当に必要なのは何だろうか?」という問い直しや、「もったいない」という思いを行動に変える大きなきっかけでもあります。

これまでを振り返ってみましょう。2001年11月、埼玉県狭山市が全国初の「ノーレジ袋デー」を実施しました。市内の店舗に協力を依頼し、ポスター、店内放送、チラシ等で買い物袋持参を呼びかけ、持参しなかった買い物客には「狭山市からのお願い」リーフレットを手渡してもらったのです。

2002年3月には、東京都杉並区がレジ袋税の導入を決め、全国的なニュースとなりました。レジ袋の使用量が減れば施行は見送るというもので、区では事業者と連携して、買い物客がレジ袋を断るとシールを1枚渡し、シール25枚で100円分の金券として使える「すぎなみエコシール事業」を2002年11月に開始しました。http://www2.city.suginami.tokyo.jp/library/file/sg1623.pdf(9ページ目)

事業者側からも動きが出てきます。2002年10月には品川区商店街連合会が、レジ袋を1回断るごとにコインが1枚もらえ、集めたコインを区内共通商品券と交換できるしくみを作って、「ノーレジ袋運動」を開始しました。

事業者側からのレジ袋削減への取り組みを大別すると、(1)「レジ袋は要りますか?」と声を掛ける、(2)レジ袋を辞退すると、集めれば割引券となるシールやスタンプを渡す、(3)マイバッグを配付する、(4)レジ袋を有料化する、などがあります。

事業者にとって、レジ袋の削減はコスト削減につながりますが、自社だけでレジ袋の削減に取り組むと買い物客が減るのではないかという恐れから、最も効果的な有料化にはなかなか踏み切ることができず、声掛けやシール・スタンプ制度、マイバッグの配付などの取り組みが中心でした。

当初は、スーパーなどの事業者が単独で取り組みを進める例が多かったのですが、事業者と行政が協力して進める事例も増えてきました。その先駆けとなったのは、2000年にシール制度を始めた愛知県豊田市です。市と民間事業者団体などが組織する豊田市買物袋持参運動(エコライフ)推進協議会が、買い物時にレジ袋を断るともらえる市内共通の「エコシール」を発行し、シール20枚で100円分の金券として使えるしくみを作りました。

このような個別事業者や特定地域での取り組みだった状況が、大きく変わるきっかけとなったのが2006年6月の改正容器包装リサイクル法の成立・公布です。この改正では、レジ袋有料化の義務化についても議論されました。スーパーの団体である日本チェーンストア協会は賛成したものの、コンビニの業界団体である日本フランチャイズチェーン協会や日本百貨店協会などの反対もあり、有料化の義務化は見送られました。

しかし、レジ袋対策として、「事業者における排出抑制促進のため、レジ袋等の容器包装を多く用いる小売業者に対し、国が定める判断の基準に基づき、容器包装の使用合理化のための目標の設定、容器包装の有償化、マイバッグの配布等の排出の抑制の促進等の取組を求める」とし、「容器包装を年間50トン以上用いる多量利用事業者には、毎年取組状況等について国に報告を行う」ことが義務付けられました。

環境省では、2006年から3R推進全国大会の開催を始め、内閣府、経済産業省などと実施する「環境にやさしい買い物キャンペーン」も2003年から続けています。また、「容器包装廃棄物3R推進モデル事業」を創設し、初年度は杉並区レジ袋削減推進協議会による「レジ袋の有料化等による使用削減推進モデル事業」などを選定・推進しました。杉並区ではその結果、マイバッグ持参率が43%から85%に上昇し、レジ袋使用枚数は8割削減できました。

このような流れを背景に、2006年6月、日本フランチャイズチェーン協会が加盟コンビニ12社で、2010年度に2000年度比35%削減を目標に声かけなどを徹底する取り組みを開始しました。また、ハンバーガーチェーンのモスフードサービスとコンビニチェーンのローソンは2006年9月、環境省と「国と事業者による自主協定」を結びました。モスフードは2006年7月から、全店舗約1,500店で持ち帰り用ポリ袋を廃止し、紙バッグに転換。ローソンは、2008年度までにレジ袋を35%削減する方針です。

2007年に入ると、イオン、イズミヤ、東急ストア、イトーヨーカ堂など、スーパーが一部店舗でのレジ袋有料化に踏み切る動きが相次ぎました。レジ袋辞退者へのポイント制度、マイバッグの配付などの取り組みも全国各地のスーパーに広がりました。2007年11月には、京都大学生協がレジ袋を原則廃止し、2008年1月には、ローソンが京都大学内の店舗で同じくレジ袋を原則廃止しています。

現在10ほどの自治体が、自治体・市民団体・住民・事業者間の自主協定によってレジ袋を有料化しており、今年前半に同様に有料化する予定の自治体が8つほどあります。また、人口約68,000人を抱える佐渡島にある佐渡市では、自治体主導で、全国で初めて地域全体(全島)で有料化しています。

この3月には、東京都町田市で、日本で初めてのレジ袋廃止への取り組みが始まりました。市民団体のゼロ・ウェイスト宣言の会からの要請を受け、スーパーチェーンを展開する株式会社三和がレジ袋廃止実験に取り組むことになり、町田市を含めた三者間で「レジ袋廃止実験に関する協定」を締結したのです。約半年間、買物客への「レジ袋の提供サービス」を無料・有料を問わず廃止し、買物客の評価、意見、協力度、満足度等について調査し、拡大の方策などを検討することになります。
http://www.geocities.jp/machida_zerowaste/home/home.html

このように、「サービスなのだから、あげて当然、もらって当然」だったレジ袋をめぐる状況が、全国各地で変わりつつあります。2007年3月に実施された事業者へのアンケート調査によると、「レジ袋有料化の売上への影響は?」という設問に対し、64.8%が「影響なし」と答え、「売上が増えた」という回答も7.7%ありました。

削減に取り組んでいる店舗や地域では、実績が上がってきています。2010年度に市内全域で有料化を実施し、現在市内で使われているレジ袋10億枚(7,000トン)の60%にあたる6億枚(4,200トン)の削減に取り組む考えの名古屋市は、モデル地区として有料化を開始した緑区では2007年10月からの4ヵ月で計863万枚のレジ袋を削減し、345トンのCO2を削減した計算になると報告しています。

市民がレジ袋の削減や有料化について理解し、自治体が事業者の足並みをそろえるコーディネータ役を果たすことで、地域全体での取り組みが進んでいくことでしょう。この動きが、国や自治体、企業、市民の協働型の取り組みのよい例となり、同時に、毎日の買い物のたびに、自分の暮らしが地球に与えている影響と、自分にもそれを変える力があることを、一人ひとりに実感させる機会を増やしてくれることを願いつつ、今後の日本におけるレジ袋への取り組みを見守っていきたいと思います。


(枝廣淳子)

English  

 


 

このページの先頭へ