ニュースレター

2008年01月01日

 

路面電車の復活 - LRTへの期待

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JFS ニュースレター No.64 (2007年12月号)

路面電車の歴史は古く、世界初の路面電車が走ったのは1881年のことでした。以来、簡単に設置でき、安全に走行できると、路面電車は世界各地の都市で走り始めたのでした。日本では、明治28(1895)年に京都で日本初の路面電車が走り始めます。その後、各地で導入が進み、最盛期には65都市で82事業者が営業し、路線延長は1,479kmに及びました。全国で毎年約26億人を輸送するほど、都市の公共交通を担っていたのです。

しかしその後、世界各地で、自動車の登場によって路面電車は衰退し始めます。路面電車よりも安価で融通性の利くバスや地下鉄が登場したうえ、道路渋滞によって、路面電車の運行が阻害され、運行効率が低下してしまったのです。こうして、ほとんどの都市から路面電車が姿を消してしまいました。

一方、自動車の増大は、世界の都市にさまざまな問題をもたらしました。道路渋滞による都市機能の低下、貧しい人々や高齢者などが移動しにくいこと、大気汚染等の環境問題、交通事故の増大、スプロール現象による中心市街地の空洞化などです。

このような自動車依存型の都市づくりから生じる問題に対し、再評価されたのが路面電車です。新しい都市交通システムとしてのライトレール・トランジット(Light Rail Transit:LRT)が1978年にカナダのエドモントンに登場しました。以後、LRTは総合的な都市交通システムとして各地に広がり、現在では20カ国以上の50を超える都市で走っています。

路面電車をずっとカッコよく、ずっと効率的に、ずっと使いやすくしたイメージのLRTは、欧米のさまざまな都市で、道路交通渋滞を緩和し、環境問題を解消するために導入が進められている新しい交通システムなのです。次世代型路面電車LRTは、世界でも「一度衰退したが、その後きら星のごとく復活した」交通手段です。総合的な交通システムであるLRTは、単なる移動手段というよりも、都市づくりにおける政策的な位置づけがあります。

路面電車のように自動車道と併用する軌道を走るものも多いですが、路面だけではなく、地下も高架も走行できます。バスより多くの人々を運ぶことができ、地下鉄に比べて建設・導入コストが安いことが特徴です。多くの場合、超低床車両が使われ、路面からすぐ乗れるため、お年寄りや車いすの人々にもやさしい交通システムです。

日本でも、世界の他都市と同じく、昭和40年代の急速なモータリゼーションの進展やバス・地下鉄への転換に伴って路面電車の廃止が続き、平成18年4月末現在、日本全国で営業しているのは17都市19事業者で、路線延長は約205kmと最盛期の7分の1以下に落ち込んでいます。

そんな日本でも、平成18年4月29日、富山市で全国初の本格的なLRTが運行を開始しました。先進的でありながらほっとするような温かいデザインの電車(愛称:ポートラム)です。停留所もマストをモチーフにしたスマートなデザインです。
http://www.t-lr.co.jp/index.html
http://www.t-lr.co.jp/about/portram.html

富山市を走るLRTは、高齢化の時代を迎え、一方で環境問題の深刻化に対して、富山市がこれまでの自動車中心の拡散型の都市から公共交通を中心とした「コンパクトシティ」を目指す都市政策の具体的な一歩として導入したものです。

富山ライトレール富山港線は、旧JR富山港線を再生したLRTです。路線距離は全長7.6キロ、13の駅があります。経営主体である富山ライトレール株式会社は、富山市を中心とする第三セクターです。旧JR時代の富山港線は、昼間は1時間に1本ほどしか走っておらず、あまり便利ではなかったのですが、今では平日の朝ラッシュ時は10分間隔、昼間から夜20時台までは15分間隔、深夜は30分間隔と、利便性が格段にアップしました。

運賃は一律で大人が200円、子ども(小学生)が100円です。定期券およびプリペイド券(回数券)には、「passca(パスカ)」という愛称のICカードを利用しています。

車に依存しないまちづくりに重要といわれつつ、日本の路面電車には、利用者の減少に苦しんでいるところがたくさんありますが、富山ライトレールはどうなのでしょうか? 開業前には、JR時代の実績に基づき、1日当たりの利用者の目標を3400人としていましたが、達成は難しいのではないかと心配されていました。

しかし、ふたを開けてみれば、開業初年度は1日当たり4,901人の利用と、当初の目標を上回った大変好調な滑り出しとなりました。平成18年4月29日の開業以来、19年5月31日までに延べ約195万人が乗車するという素晴らしい実績です。平成18年4月1日から19年3月31日までの第3期は、268万円もの当期純利益を上げ、赤字経営を心配していた多くの予想を覆す順調な経営状況です。

同社経営企画部の大場氏は、その成功要因を「LRT化に際して高頻度な運行や終電時間の延長、車両・電停等のバリアフリー化、新駅設置による駅勢圏の拡大、期間限定半額運賃導入による新たな客層の開拓など、大幅な利便性の向上を図ったこと」「整備の財源となる基金への市民の皆さんからの寄付をはじめ、168基のベンチの寄付や各電停に設けた個性化壁への協賛、新電停の命名権など、沿線はもとより市民の方々や地元企業によるさまざまな支援を受け、マイレール意識の向上が図られたこと」「路線全体をトータルにデザインし、乗車すること自体が楽しくなるような取り組み」と説明してくれました。

日本でのLRTの導入事例は、いまのところこの富山の例しかありません。欧米を中心に世界でLRTの復活・導入が進んでいるのですが、日本では、関係主体間の合意形成、コスト負担(初期投資+維持管理)、導入空間の制約などの問題から、なかなか新規路線の整備が進んでいないのが現状です。

このような状況を打開するため、国土交通省でも地域の合意形成に基づくLRT整備計画に対して、関係部局が連携して、LRT総合整備事業による補助の同時採択と総合的支援をおこなうなど、後押しをしようとしています。京都市をはじめ、環境対策として、また地域作りや地域の活性化の手段として、LRT導入に向けての検討や準備を進めている地域もあります。

富山のLRTをひとつのモデルとして、人にも地域にも優しく、そして地球温暖化の一つの切り札としても貢献するLRTが、日本中で展開していくことを願っています。


(枝廣淳子)

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