2007年10月01日
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JFS ニュースレター No.61 (2007年9月号)
地球温暖化の原因となっているガスには、さまざまなものがありますが、中でも二酸化炭素は、最も温暖化への影響度が大きいガスです。二酸化炭素のほとんどは、化石燃料を燃焼させることから発生しており、地球温暖化の防止のためには、エネルギー起源の二酸化炭素排出量を抑制する必要があります。そのためには、同じレベルの生活や経済活動に必要なエネルギーを少なくする「省エネルギー」が大切です。2007年版エネルギー白書をもとに、世界の中でも省エネの進んだ国であると自負している日本の取り組みを、国の施策を中心にご紹介しましょう。
国内総生産(GDP)当たりや国民一人当たりの温室効果ガス排出量水準を見ると、北米や豪州は高く、日本は最も低い水準の国の一つです。日本の特徴は、エネルギー起源二酸化炭素の排出量が、京都議定書の対象となっている温室効果ガス排出量全体の約9割弱を占めていることです。部門別にみると、排出量全体の約40%が産業部門、次いで運輸部門(約22%)、業務その他部門(約17%)、そして家庭部門(約14%)です。
日本の2003年度のエネルギー起源二酸化炭素総排出量は、11億8800万トンであり、1990年の当該総排出量に比べ、13.3%上回っています。部門別に1990年度比でみると、産業部門が+0.3%、家庭部門が+31.4%、業務その他部門が+36.1%、運輸部門が+19.8%となっています。これは、産業部門および運輸(貨物自動車及び公共交通機関など)部門では産業構造の高度化やエネルギーの利用効率化努力などによって排出量がほぼ横ばいに止まっている一方、オフィスビルや商業施設などの床面積の増大、世帯数の増加や家庭における家電製品の使用の増加、自家用自動車の保有台数の増加などにより、業務その他・家庭・運輸部門(自家用乗用車)における増加が著しいことが原因と考えられます。
日本では、「省エネルギー対策は、エネルギー安定供給確保と地球温暖化防止の両面に資するものであり、加えて、省エネルギーに資する機器の開発や関連の投資、新規産業の創出の喚起を通じた経済活性化の効果ももたらす」として、30年以上まえから政府が力を入れ、特に産業部門での取り組みが進んでいます。
日本の省エネルギー政策がスタートしたのは、日本の経済に大きな影響を与えた1970年代の2度の石油ショックが契機でした。第二次石油ショック直後の1979年に「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)」が制定・施行されました。省エネ法は、その後の国内外のエネルギーをめぐる経済的・社会的環境の変化に対応して何度か改正され、省エネ対策を強化しています。
省エネ法によって、自動車の燃費基準や電気機器などの省エネルギー基準へのトップランナー基準の導入、大規模エネルギー消費工場・大規模オフィスビルなどへの中長期の省エネルギー計画の作成・提出の義務付け、工場・事業場における熱と電気の一体管理の推進、大規模な輸送事業者および荷主に対する定期報告および計画の作成・提出の義務付けなどが進められています。
省エネルギー関連技術の開発については、1978年に「ムーンライト計画」がスタートし、エネルギー転換効率の向上、未利用エネルギーの回収・利用、エネルギー利用効率の向上などエネルギーの有効利用を図る技術の研究開発を目的として、大型省エネルギー技術および先導的・基盤的省エネルギー技術開発、民間における省エネルギー技術の研究開発への助成などが推進されました。また、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などの関係機関・団体を通じた技術開発も行われています。
このような省エネルギー政策の成果もあり、産業部門を中心として大幅な省エネルギーが進められ、製造業のエネルギー消費効率は大きく改善しています
産業部門のエネルギー消費は、石油ショック以降の省エネルギー設備や技術の積極的導入と産業構造の変革によって、現時点においても石油ショック当時の水準に留まっています。しかし、依然として全体の5割近くを占めていることから、今後も一層の省エネルギー努力が必要です。
大規模・中規模工場に対しては、省エネ法に基づき、エネルギー管理者の選定、将来的な省エネルギー計画(中長期計画)の作成・提出、エネルギーの使用状況の定期報告が義務付けられています。
日本の産業・エネルギー転換部門における省エネ対策の中心的役割を果たしているのが、経団連自主行動計画です。これは日本の産業界の取り組みの大きな特徴といえるでしょう。日本経済団体連合会は、1997年6月に、2010年の二酸化炭素排出量を対象事業全体として1990年度比±0%以下に抑制することを目標とするとともに、業種別の目標も定めた「日本経団連環境自主行動計画」を公表し、業界ごとに自主的な取組を進めています。
民生部門のエネルギー消費は、石油ショック以降、一貫して増加しています。家庭部門では、機器の効率化が進む一方で、世帯数の増加や、新たな機器の普及、より快適な生活を求める国民のニーズを背景に、機器保有台数の増加や使用時間、使用条件の変化がエネルギー需要の増加要因となっています。このため、新たに普及がすすんでいる機器に着目した対策や、機器のエネルギー需要を適切に管理する必要があります。
電気機器などの省エネを推進しているのが「トップランナー制度」です。これは、現在販売されている機器の内、省エネ性能が最も優れているものを指定し、その効率またはそれ以上のレベルをトップランナー基準として定め、機器ごとに定められた目標年度以降、製造事業者および輸入事業者に対して基準を遵守することを義務づける制度です。
この制度によって、たとえば、エアコンの場合、1997年から2004年度までの間に、エネルギー効率は約40%改善しています。政府では、随時、対象機器を追加し、目標年度を迎えた機器の基準の見直しを検討するなどして、個々の機器の省エネ対策の強化を図っています。
消費者に対して、省エネルギー性能に関する分かりやすい情報提供を行い、商品選択の際の指標となるよう、統一的な表示制度として省エネルギーラベリング制度が2000年8月から導入されています。また、省エネルギー型製品を普及促進するために、製造事業者などと消費者との接点である販売事業者による省エネルギーに関する積極的な取組を評価しようと、2003年度に「省エネルギー型製品販売事業者評価制度」が創設されました。2006年度では、大規模家電販売店114店舗、中小規模家電販売店36店舗(計150店舗)が省エネ型製品普及推進優良店となっています。
運輸部門のエネルギー消費も、石油ショック以降、一貫して増加しています。特に自家用自動車の伸びが著しく、1990年代の運輸部門におけるエネルギー需要増加要因の約9割を占めています。このため、運輸部門における省エネルギー対策については、自家用自動車に重点を置いた対策が講じられています。
1998年に改正された省エネ法において、自動車の燃費基準にトップランナー基準を導入し、燃費の向上を図っているほか、高い省エネ性能を有するハイブリッド自動車を推進するために、税制上の優遇措置や補助制度、政府系金融機関を通じた低利融資制度による支援があります。また、エコドライブを推進し、アイドリングストップの普及を図るため、自動的にアイドリングストップを行う機能を有する自動車に対する購入費の補助もあります。
公的部門における省エネルギー機器・設備の率先的な導入は、その初期需要創出や市場拡大に寄与するとともに、地域における普及啓発に資する意義があるとして、国および独立行政法人などは、2001年4月に施行された「国等による環境物品などの調達に関する法律(グリーン購入法)」を踏まえ、庁舎や公的施設において、省エネ性能の優れたOA機器の導入等、物品等を調達する際には、率先的に省エネルギー機器・設備を導入しています。
このような国の施策もあって、個別の機器の省エネ化は大きく進んでいます。しかし、各機器のエネルギー効率がいかに改善しても、使われる機器の総数や総時間が増え続ける限り、エネルギー消費量そのものも二酸化炭素排出量も増えてしまいます。日本の省エネ施策は、「efficiency(効率)」だけではなく、「sufficiency(足るを知る)」にも取り組むという、次の段階への移行が必要であると思うのです。
(枝廣淳子)