JFS ニュースレター No.47 (2006年7月号)
シリーズ:持続可能な社会を目指して - 日本企業の挑戦 第47回
http://www.takenaka.co.jp/enviro/index.html
従業員がエレベーターではなく階段を使うオフィス
東京メトロ東陽町駅を出て1分のところに、「サステナブル・ワークスの実験場」と竹中工務店が位置づける、同社の東京本店(2004年9月竣工、地上7階、延床面積約3万m2)が佇んでいます。正面から建物に入ると、ロビーに吹き抜けの天井からやわらかい陽光が降り注いでいます。ミーティングスペースの壁にはスクリーンが設置され、建物のエネルギー消費量とCO2排出量の変化を刻々と映し出しています。それはあたかも、建物が生き物であると伝えているかのようです。
このビルには、自然の光や熱、風の利用はもちろん、廃材や再生材を活用した外装材の使用、屋上緑化、ITを駆使したエネルギー使用管理システムなど、最新の環境建築技術がふんだんに採用されています。その結果、建設時の混合廃棄物の排出をゼロに抑える、運用時のCO2排出量を一般ビル平均の約3/4以下に抑えるなどの環境パフォーマンスを実現。2005年9月、外部認証機関によるCASBB評価(建築物総合環境評価性能システム)を受けたところ、当建物は最高ランクの「S」評価、「環境性能(BEE)=4.9」の認証を取得しました。いまや環境配慮建築の先進例として国内外から注目され、竣工以来1万人を超える見学者が訪れています。
この建物の特徴は「階段を人が歩いている」ことです。2階以降のオフィス空間のレイアウトは開放的で、その階はもちろん、上下階の様子まで、人々がどのように働いているのか視界広く見渡すことができます。その中心の吹抜けには明るい階段があり、実に人々が気持ちよさそうにフロアや階段を行き来し、階段から見える風景やすれ違いの会話を楽しんでいます。「エレベーターはもちろんありますが、3、4階の移動はもちろん、7階分の移動でも階段を使う人が多いです。これだけでエネルギーの消費はずいぶん変わります。」と語るのは同社地球環境室の佐々木室長です。同社はサステナブル・ワークスを、「お客様とともに環境と調和する空間創造を行うことをめざした建築への取組み」と定義しています。
竹中工務店と他社の違い
竹中工務店は、今から約400年前、1621年に神社仏閣の造営を業として誕生しました。その後長年にわたり伝統的建築の技術を磨き続け、いまや日本における大手建設5社の一つに成長し、2005年度には年間売上高1兆2,679億円(連結)をあげています。代表的な作品としては、東京タワーや東京ドーム、国立劇場などがよく知られています。
竹中工務店の特徴の一つは、「建築」に特化していることです。一般に建設会社は「建築」と「土木」の両方を手がけています。「建築」は、主に都市におけるビルや大型施設など建築物の設計と施工を指し、それに対して「土木」は、橋やダムなど主に公共インフラの工事請負などを指します。竹中の場合は、売上のほとんどが「建築」です。これは、2006年4月現在、全社員7,666名のうち約1/3の2,707名を一級建築士が占めている(恐らく日本では最大数の一級建築士を抱えている)ことにも表れています。
同社のもう一つの特徴は、「設計」と「施工」の両方を一貫して手がける案件が多い、ということです。欧米では設計と施工は同じ会社が行えない国がありますが、日本ではそれが可能で、建設会社は、1.設計のみ、2.設計施工一貫、3.施工のみ、の3パターンのどれかで仕事を請けることが一般的です。環境配慮などのコンセプトを適用しようとしても、施工だけ、設計だけの場合はやれることが限られる場合も多いのですが、「竹中では設計施工一貫の割合が50%と高く、一貫してサステナブル・ワークスという設計思想を適用できるという強みがあります。」と佐々木室長は言います。
グリーン建築からサステナブル・ワークスへ
竹中工務店が環境に本格的に取り組み始めたのは1971年のこと。当時まだ企業が環境に取り組むことは稀でしたが、「設計に緑を」の標語を作り、環境配慮建築を掲げました。その後省エネや廃棄物削減、自然エネルギーの導入など「環境配慮建築」を追求。2004年には、それまで実践してきた技術と経験をベースに、豊かな環境を含めた持続可能な社会を未来へ手渡すための「サステナブル・ワークス」を打ち出します。
お客さまは、「緑がほしい」「省エネがしたい」と、環境配慮について漠然とした要望をもっています。建築士はそうした要望をうまく引き出しながら、確かな技術に裏づけされた提案をつくりこまなければなりません。そのときに活躍するのが、二つの軸によるマトリックスで表される、サステナブル・ワークスのフレームです。
建物のライフサイクルでは「設計」、「施工」、「運用」のステージがありますが、これを「時間」の軸とします。それに対して、「環境の質・性能をどれだけ高めたか」と「環境の負荷をどれだけ下げたか」という評価の基準があり、これを「評価」の軸とします。
更に詳しく見ると、質・性能の向上の基準としては、「どれだけ人にやさしい居住環境をつくるか」、「どれだけ建物を永くつかうか」、「どれだけ豊かな景観をつくり、まもり、育てるか」、という3つの基準があります。負荷低減の基準は、「エネルギーをどれだけ上手につかうか」、「どれだけものを捨てずに大切につかうか」、「どれだけ地球を汚さないか」の3つがあります。この2軸(3×6)をマトリックスとして組み合わせます。
お客さまの要望を一つ一つマトリクスにあてはめながら、ライフサイクルの各段階で、どこを重要視するのか、他の要素とどうバランスを取るのかを計画していく、というわけです。
サステナブル・ワークス
http://www.takenaka.co.jp/enviro/sustainable/index.html
そして設計ができた段階で、CASBEEという環境配慮設計のための自己評価の仕組み(同時に資産評価に利用可能な日本独自の環境ラベリングツールでもあり、主として米国で使われるLEEDに相当する)を使って実際の評価を行います。評価は、環境品質・性能を環境負荷で割った効率によってなされ、Sランク、Aランク、B+ランク、B-、Cと5段階になります。竹中工務店では2005年度 Aランク以上を21件手がけることに成功。ショッピングモールのイオン千種店はその一つです。2006年には17件以上を目指しています。
CASBEE(建築物総合環境評価性能システム)
http://www.ibec.or.jp/CASBEE/index.htm
建物を永く使う-「魅力再生*」建築の提案
サステナブル・ワークスにおける「環境の質」の評価項目に、建物をどれだけ永く使えるかということがあります。「建物の長寿命化」という欧州では昔から行われていたこのことが日本で一般的でなかった理由の一つは、頻発する地震の問題でした。耐震基準は、技術の進歩とともに年々高まるため、過去の基準ではよかった建物が新しい基準では不適格になります。そのために建替えを進めるケースが少なくなかったのです。しかし、建築技術の進歩、環境意識の高まりなどにより、建物を壊さずに耐震補強や魅力の付加が可能になってきました。
竹中工務店では、既存の建物をうまく活かした新しい形の提案をお客さまから求められることが多くなり、建物評価・診断、運用・活用などに関する自らの保有技術やノウハウを再整備。建物の価値、事業性を予測・判断する技術、不足する要素技術の整備や適用条件などを追求した結果、「サステナブル・ワークス」の一貫として、建築ストック市場において「魅力再生」建築を打ち出しました。
その一例が海城学園という学校の増築工事です。このケースでは、「上空増築新構造システム」という技術を用いることで、生徒がこれまで通り建物を使いながら、4階建ての建物の屋上に3層分の教室を増築。既存建物が約6,000トンで、増築する3層分の重量は約3,000トンなので、1.5倍に重要が増えるため、柱や基礎を補強する必要が生じます。しかし免震装置と組み合わせることで、補強は建物外周部のみに留めて増築工事を実施。これまでのスクラップ&ビルドであれば既存部分の約6,000トンを廃棄し新たに9,000トンの資材を使いますが、この方式では3,000トンの資材を使うだけで増築ができたことになります。
竹中eレポート2006 「魅力再生建築 Case03 海城学園」
http://www.takenaka.co.jp/enviro/e_report/2006/index.html
*「魅力再生」は竹中工務店の登録商標です。
運用の達人を目指して
同社の東京本店社屋は、2004年9月の竣工から約1年が経過しました。「建物のCO2排出量をライフサイクルで見ると通常約6-7割が運用段階から出る。まず我々自身が運用の達人となり、最適な運用のノウハウをクライアントに提供していきたい。」と佐々木室長は語ります。
過去1年間の運転で建物の実際の運用データを得た結果、計画どおりの運転が運用上できていない部分がみつかったのと同時に、運用条件と設備システムのマッチングによって更なる省エネが期待できることも明らかになりました。
同社は今後、施設管理と設計、施工の関係者が協力して運用実態と運転データを分析し、実態に即した運転と設備システムを活かすための運用のあり方を検討し、更なる一次エネルギー消費削減につなげたいと考えています。竹中工務店の「サステナブル・ワークス」の実践はまだ始まったばかりです。今後このフレームワークに沿って、多くのサステナブル建築が生まれてくることを期待しています。
(スタッフライター 小林一紀)
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