ニュースレター

2005年09月01日

 

大地の恵みをあなたのキッチンへ - 大地を守る会

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JFS ニュースレター No.36 (2005年8月号)
シリーズ:ユニークな日本のNGO 第9回
http://www.daichi.or.jp/

今朝食べたパンは、どこでとれた小麦を使って、誰がどんなふうに作ったパンか分かりますか? 私たちの食べているものは、効率を重視して生産した安価で見栄えのよいものではあっても、様々な加工業者や卸売業者をへて、身元が分からなくなっているものがほとんどではないでしょうか。

日本の家庭の食卓にのぼる食品の多くは、輸入した作物から作られており、日本の食料自給率はカロリーベースで40%ほど、OECD諸国でも最低レベルです。日本の農地は年々減少し2002年には国土の12.8%まで減り、日本における第一次産業である農林水産業の労働人口も全労働人口の4.7%にまで落ち込んでいます。

そうしたなかで、有機農業に取り組む生産者、伝統的な製法を守っている加工業者、それを支える消費者の三者が、顔の見える関係でつながることで、地域の食文化と第一次産業を守り育てている大小さまざまなグループができています。今では多くのグループがありますが、30年前から活動し、現在では2500件の生産者と首都圏を中心とする72000世帯の消費者を結びつけているのが「大地を守る会」です。

成り立ち

1950年代後半、日本にも生産性向上を目的とする近代化農業の波が押し寄せ、篤農家たちはいち早く農薬や化学肥料を取り入れていきました。その15-20年後、彼らは農薬の怖さに気づきます。土壌に生物がいなくなり、収穫量が思うように上がらなくなりました。農薬のために気分が悪くなったり、病気になったりという健康被害も現れ、「こんな薬を使って作った食べ物が体に良いはずが無い」と農薬の使用を止める農家が現れ始めました。

1975年、そうした農家との出会いによって「大地を守る会」が生まれました。「農薬の危険を100万回叫ぶよりも、1本の無農薬の大根を作り、運び、食べることから始めよう」。この合言葉をともに、農薬を使わないで野菜やお米を作るとはどういうことか、それを都市の消費者に届けるとはどういうことか、生産者と一緒にやってみようという市民運動としてスタートしたのです。

2年後には、生産者、消費者の輪が広がり、経済的に自立した活動を続けるために、流通部門を受け持つ株式会社大地を設立。週1回、有機野菜や無農薬野菜を消費者に届けるサービスを本格的に稼動しました。

当初は、消費者が3人以上のグループ単位で注文する「共同購入」形式でしたが、働く主婦などの増加により、各家庭の玄関先まで届ける「個人宅配」を始めた結果、飛躍的に利用者が増えました。取り扱い品目も徐々に増え、現在は、畜産品、水産品、加工食品などを含む約3500品目を扱っています。2005年3月期の売上高は127億円、170名の従業員が働いています。

大地では、野菜、肉・卵、魚、加工品、雑貨の5つのカテゴリーごとに厳しい安全基準を定めて、基準をクリアした商品しか取り扱いません。たとえば、野菜には、「有機質肥料を使った土作りが基本」「土壌消毒はしない」「除草剤は使わない」「農薬は極力使わない」の4つの基準があり、基準を遵守していることを大地および第三者が確認しています。

持続可能な活動の秘訣

環境問題や食の安全に対する市民の意識が高まりつつある今日では、スーパーにも有機農産物が置かれるようになっています。しかし、30年前は農薬全盛の時代で、世間一般には有機農業は全く理解されませんでした。大地を守る会はどのように活動を発展させていったのでしょう。

発足当時、少数の強い信念をもった生産者が取り組みを進めましたが、安全な野菜作りや自らの農法へのこだわりもあって、生産者同士の衝突や仲間への批判が多かったそうです。大地を守る会は、有機農業を広げていくために「人の悪口をいわない」ことを基本姿勢に掲げ、生産者が外に目を向けられるよう心がけました。

消費者の理解を得るのにも苦労しました。形が揃った見た目のよい野菜がいつでも手に入ることが当たり前と思っている消費者からは、虫食いの野菜や欠品に対してすぐに苦情が来ました。そういう時こそチャンスと捉え、農薬を使わないとはどういうことか、特定の生産者から買うとはどういうことか、一つずつ正直に事実を説明したそうです。そうして、消費者も納得するようになりました。

生産者と消費者の交流を促進することも、大地を守る会の重要な役割です。800人以上が集うとうもろこしの収穫祭から少人数のサークル活動まで、さまざまな規模のイベントが年間100件ほど行なわれ、そのコーディネーターとして4人の社員が活躍しています。消費者が産地を訪れ、生産者が消費者の声を聞き、互いのつながりを実感することによって、作った人への感謝、食べ物への愛着を学び、また次の消費につながっていきます。

「有機農産物を買うということは、考える素材を買うということです。」--大地を守る会会長の藤田和芳さんは言います。「"福島県の佐藤圓治さんが作ったキュウリ"を買うということは、単にキュウリというものを買うのではありません。佐藤さんの経験や土地の地力、地域の文化、さらには佐藤さんの息子さんが大学に合格したよ、という情報も含めて買っているのです。そういったつながりから生み出されたものが大地の農産物なのです。」

持続可能な第一次産業を目指して-新たな取り組み

大地を守る会が目指すものは、「持続可能な第一次産業を育てていく」ことです。近い将来に予測されている食糧危機に備えるべく、日本の食糧自給率を高めていくこと。そのことが、世界の食糧危機の回避にもつながると考えています。

そのために、消費者の意識を変えていくことが重要だと考え、2005年4月から「フードマイレージ・キャンペーン」を展開しています。
http://www.food-mileage.com/

フードマイレージとは、食品の輸送量に輸送距離を掛けた数値で、食品が消費者に届くまでの輸送エネルギーを示す指標です。2001年の農林水産省の試算では、日本全体のフードマイレージは約9千億t・Kmで、フランスの8.6倍、アメリカの3倍、韓国の2.8倍にもなっています。遠くから食品を運ぶために、多くのエネルギーが使われ、大量のCO2を排出しています。

国産の食品の価値を消費者に伝えようとするとき、新鮮さや健康感などに魅力はあるものの、外国産に比べ割高なことがネックになっていました。そこで、大地を守る会では、京都議定書締結以降の温暖化防止への関心の高まりに着目し、国産品に「CO2排出量削減」という新しい魅力を加えました。「フードマイレージ」という言葉によって、環境と食べ物がつながっていることを分かりやすく訴えることができ、高校生・大学生からも多くの反響を得ているそうです。

フードマイレージに、輸送手段によるCO2排出量係数を掛けると、輸送時のCO2排出量を算出できます。大地を守る会は、さなざまな食品について、産地から食卓までのCO2排出量を独自に算出し、国産と外国産とで比較しました( 国産は大地で扱う主要産地から東京まで、外国産は主要輸入国から東京までの輸送距離で計算)。たとえば、北海道産のアスパラガスを買えば、オーストラリア産のアスパラガスと比べて、たった1本で、4pocoのCO2を減らすことができます。"poco"とは、消費者がCO2排出量を実感しやすいようにと大地を守る会が作った新しい単位で、CO2・100gが1pocoです。ちなみに、日本の家庭では1人1日あたり66pocoのCO2を排出しており、京都議定書達成のためには15pocoの削減が必要だとしています。

こうした情報を広く、広報誌やウェブサイトなどで公開し、「できるだけ国産の食品を選んで、CO2の排出量を削減しよう」と呼びかけています。食生活を見直し全て国産の食品でまかなうと、年間1人あたり90kgのCO2を削減できると試算しており、1年間のキャンペーン期間中に、消費者会員7万世帯の協力で約2万トンのCO2削減を目指しています。

日本から世界へ

藤田さんは、「生産者、消費者、加工業者が連帯し、市民運動と結びついて、地域の食文化と第一次産業を持続させている大地を守る会のようなモデルは、多くの国で実現できます」と語ります。大地を守る会では、15年前からタイ、ラオス、ベトナムなどアジア地域の農村と、有機農業の技術や人的交流を進めています。またアジアの農民を元気にしていこうと、各国からの研修生を招待し、日本の稲作やきのこ栽培を学んでもらうなど、ネットワークづくりを積極的に行っています。

国産にこだわり、自然環境に配慮し、安全で質の高い食品を提供し続ける大地を守る会の取り組みは、私たちが持続可能な心豊かな暮らしを実現していく上で、これからますます重要な役割を果たしていくことでしょう。


(スタッフライター 西条江利子)

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