ニュースレター

2004年09月01日

 

JFS----日本と世界の若者が持続可能な社会について議論を深める場にも

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JFS ニュースレター No.24 (2004年8月号)

JFSは日本の環境の取り組みを世界に広く発信する一方、「持続可能な日本とは?」というビジョンをつくることを目標に、指標プロジェクトその他の活動も進めています。このたび、日本と米国の大学生が「持続可能な社会とは?」について自分たちや地域、自国の活動を紹介して議論を深める機会を設けました。参加した日本側の大学生からの報告です。

2004年6月8日、JFSとカンザス大学の主催で「日米学生環境会議2004」が開催されました。これは、JFSのニュースレター読者である米国・カンザス大学の教授から、「2004年6月にカンザス大学の学生9名を引率して来日する機会があるので、JFSのメンバーと意見交換をしたい」という内容のメールが届いたことから動きはじめた企画です。

米国からは、アジアスカラーズ・プログラム(日本の文化や歴史、また現代の生活様式を学ぶ)に選ばれた学生が来日しました。彼らを迎えた日本の学生は14名。そのほとんどが異なる専門分野を専攻していますが、「持続可能な社会」という言葉に惹かれ、米国の学生と意見交換をしたいとの熱い思いを持った若者たちです。

学生の視点から持続可能な社会について意見交換を行い、持続可能な社会に向けた動きを共有するなかで、ビジョンづくりに繋げたい、と準備を進めました。当日の会議では、日米の学生が自国の持続可能な社会に向けた取り組みを国・地域・学校の各分野で発表し、それを受けて3つの分科会を同時に設けました。

カンザス大学学生の発表から学んだこと

カンザス大学の学生は、多様な切り口から各分野の取り組みを紹介しました。まず印象的だったのは、「スマートグロース」(賢い成長)という考え方でした。都市を無秩序に拡大するのではなく、公共交通機関の充実や地域資源を有効に活用して、賢く開発を行う、ということ。日本にはあまり馴染みのない言葉ですが、カンザス大学の学生は持続可能な社会にスマートグロースが必要であると考えていました。

その例として、カンザス大学の所在地域であるローレンスにある、自然光を取り入れやすく設計された小学校や、建物の素材として小麦の不要部分を活用している事例などが紹介されました。

また、持続可能性に関する意識・行動調査(カンザス大学の学生200名を対象に実施)の結果も発表されました。公共交通機関をよく利用して通学する学生が17%であるのに対して、車をよく利用する学生は70%を越えており、日本に比べ、車の占める割合が大きいことを実感しました。また、80%の学生が地球温暖化を問題と考えていること、さらに約70%の学生が米国も京都議定書に批准すべきだと考えていることが分かりました。


日本学生の発表内容

日本の学生の発表は、日本の歴史、地理、文化などのイントロダクションからはじまりました。その中で注目を浴びたのは、劇を交えながら説明した「もったいない」という言葉です。「もったい」とは、その物の本質的な状態、価値、使命などを意味しており、「ない」はその直前の語の否定や無視を意味します。つまり、「もったいない」とは、物の本質的な状態や価値を無視していること。これは限られた資源を最大限に活用していた時代に生まれた言葉ですが、ものが溢れかえる現代においてこそ、この意味を大切にすべきだと発表しました。

各分野の発表では、日本の持続可能な社会への取り組みの特徴として、行政・NGO・企業・市民がパートナーシップを組んで、持続可能な社会に向けて行動を起こしている事例を紹介しました。また大学においては、1990年には10団体ほどであった環境サークルが近年急増して200団体以上になっていること、それらの団体がネットワークを組んで効果的な活動を展開していることや社会的影響力を強めていることを伝えました。また地域社会の取り組みとしては、地域の資源を活かした自然エネルギーの導入で地域を活性化している事例などを紹介しました。

発表後の分科会では「50年後の持続可能な社会のビジョン」「持続可能な社会に向けた地域社会での取り組み」「持続可能な社会に向けての学校での取り組み」という3つのテーマに分かれて議論を行いました。

「50年後の持続可能な社会のビジョン」のテーマでは、人と自然の関係、大量生産・大量消費、さらに世界の経済システムや南北問題など幅広い議論が行われました。世界の経済システムについては、途上国の資源を搾取している問題について話しあい、経済と環境が両立する社会システムを模索しました。

その中で、日米の学生の間で途上国に対する認識の違いが明らかになりました。カンザス大学の学生の多くは、「途上国は何らかの問題を抱えているために経済状態が良くないので、その問題を正して経済を改善しなければならない」と考えていました。一方、日本の学生の多くは「途上国が単純に劣っているわけではないので、必ずしも経済重視で改善を急ぐ必要はない」と考えていました。

この分科会に参加した日本の学生は、「相手を知るためには、まず自国を良く知らなくてはいけないと強く感じました。分科会では意識の違いに気が付かされましたが、日米の学生ともに現在の世界のあり方に共通の疑問をもっていることがわかってよかったです」と感想を述べています。

「持続可能な社会に向けた地域社会での取り組み」のテーマでは、とても身近な言葉が地域社会の取り組みのキーワードとしてあがりました。その言葉は、"Nice to meet you"。日米の学生に共通した意見として、「直接会って話をする機会が地域社会での活動には欠かせない」との意見がありました。そして、地元住民の交流場所となる地元の商店街が衰退していることは問題であり、地域性を守るためにも、地元商店街の衰退を食い止める必要があると意見が出されました。

"Nice to meet you"という言葉が大切だと話したカンザス大学の学生は、「私たちは、無関心な市民と同じ想いを共有できるように努め、また行政が誤った判断をした場合には抗議する必要があります。その行動の中で、まず私たちがするべきことは直接会って話をすることだと思います。"Nice to meet you"と手を握って挨拶をすることからはじめましょう。」と話してくれました。

「持続可能な社会に向けての学校での取り組み」のテーマでも多様な議論が行われました。特に行動を起す際の呼びかけ方について話しあったところ、面白い相違点が出てきました。米国では、「あなたがやると変わるのだ」という形で呼びかけると、やろうと思う。一方日本では、「みな一緒にやってみよう」という呼びかけをすると動き始める。これらのことから米国は個人から、また日本は集団で行動を起こしはじめる傾向が見られる、ということがわかったのです。

この分科会に参加したカンザス大学の学生は、「日本の学生は、まじめで几帳面な側面を持っており、その特質は確実に変化を生む手助けとなるだろうと思いました。会議全体を通して、私たちは未来に向けて、国内的にも、国際的にも大規模な協調行動をとる必要があると感じました」と述べていました。

両国の発表や分科会を通して、世界レベルで持続可能な社会を考える時には、まず自国の文化や歴史、特性をしっかり理解する必要があると気づいた学生が多かったようです。それは、世界の国々には多種多様な文化や社会的背景が存在することを理解するためにも必要なことです。

次世代を担っていく若者が、自国のことを伝えようとまとめてみて、さらに相手を理解しようと努めるなかで様々な発見ができたこと、国境を超えて持続可能な社会についてともに考え、意見交換できたことは今後に繋がる大きな成果です。今回の会議に参加した両国の学生たちの今後の活動と連携が期待されます。


(スタッフライター 小松洋一)

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