コラム〜日本発!環境人コーナー
光を用いて環境浄化 〜光触媒研究の先駆者・藤嶋 昭〜
『物華天宝、人傑地霊』
『物華天宝、人傑地霊』とは,中国では誰でも知っている言葉で、「豊かな産物
は天の恵みであり、優れた人間はその土地の霊気が育むもの」というような意味
である。旧暦の「春節」という節目に門に貼るめでたい句だそうだ。しかし、藤
嶋昭さんは独自の解釈をしている。
「物華天宝の物華は科学技術の成果。これが天に隠されている宝だと全体を解釈
しています。科学者はこれを探し出して、世界、人類に役立てる。そして、そう
いった成果を導き出せる人間を養うのは、雰囲気じゃないだろうか、と。その人
を取り巻く環境、研究室や会社の雰囲気、そういうものが実は一番重要なんじゃ
ないだろうかと考えているわけです。それが人傑地霊の解釈です。中国の方から
もらったこの言葉の書かれた掛け軸を自宅に飾っています。私の考え方の原点と
言えますね。」
藤嶋昭さんは、環境に貢献できる技術として現在注目されている「光触媒」研究
の第一人者で、光触媒の大元となる現象(ホンダ・フジシマ効果と言われている)
の発見者だ。大学院生であった1967年にこの現象を偶然発見して以来今日まで、
基礎研究から応用研究まで幅広く手がけてきたが、その過程の中からこの「物華
天宝」の解釈は生まれてきた。
「ゴッホやルノワールなどの印象派として偉大な画家の名画の多くが1870年代に
描かれているのですが、どうしてこの時代に沢山のオリジナリティが集中して生
まれたのだろうと考えたことがあります。日本でも江戸時代の末期に、長州藩や
薩摩藩、あるいは「松下村塾」などもそうかもしれませんが、そういう限られた
場所から多くの優れた人材が輩出されています。やっぱり、人の力はその人ひと
りだけによらず、やはりその時その場所での雰囲気によって大きく飛躍するのだ
ろうと思うのです。」
実際にホンダ・フジシマ効果を発見した後の応用について、藤嶋さんが一緒になっ
て研究を行ったグループには燃えるような情熱を持った研究者たちが集まり、独
特の雰囲気が充満していたという。決して一人だけでは成し遂げられないような
成果、それを集団がなぜか可能にする。光触媒はまさにそれを示す好例で、「表
面の汚れの分解」「空気清浄」「農業廃水の浄化」「ヒートアイランド対策」な
ど多様な用途へとにわかにその可能性を広げている。
「研究にはセンスが重要です。そして研究費、お金も重要です。しかし、順番か
ら考えれば、一番は雰囲気だと実感しているのです。まず雰囲気が一番、次にセ
ンス、そして研究費なのです。」
現在は、川崎市の教育委員会委員も務め、小・中学生の理科離れの対策にも力を
注いでいる藤嶋さん。理科が好きな子どもの割合が、小学校、中学校と年齢が上
がるごとに低下しているという。子どもたちがもっと理科、ひいては科学や技術
に対する興味を育んでゆけるようにするために、藤嶋さんは小中学校への出張講
義や身の回りの不思議をわかりやすく解説するシリーズ本を作るなどしている。
自らの経験を元に、こんどは教育という立場から少しずつ次の時代の「天宝」を
引き出す「地霊」を根付かせるべく奮闘を続けている。
藤嶋 昭(ふじしま あきら)氏
神奈川科学技術アカデミー理事長
東京大学名誉教授
1966年3月 横浜国立大学工学部卒業
1971年3月 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了
解説
※1 ホンダ・フジシマ効果
光に応答する酸化物半導体の研究をしていた藤嶋さんは偶然手に入れた酸化チタンを電極として白金の電極とつなぎ、実験を行った。すると光を当てた電極からはプクプクと小さな泡が発生していた。驚いて調べてみると、その気体は酸素であることが分かった。この反応によって酸化チタンに変化はなく、そして酸素は水が分解されて出来たものと確認した。反対側の白金電極からは水素が発生していた。この光によって水が分解する効果は藤嶋さんの先生であった本多さんの名前とあわせ、後に「ホンダ・フジシマ効果」と言われるようになる。この効果が光触媒へと発展する最初の一歩だった。
※2 表面の汚れの分解
たとえば、ビルの外壁・ガラス窓に光触媒である酸化チタンをコーティングすると、清掃の手間を大幅に省くことができる。汚れは分解され、雨できれいに流される。光が光触媒に当たることで、光触媒の表面は強い酸化還元力を獲得して、これによって付着した有機物などが分解される。この酸化還元力が基本的な原理である。
※3 空気清浄
光触媒は既に多くの家庭用の空気清浄機に応用されている。このほか、中国をはじめとして流行したいわゆる新型肺炎、SARS(重症急性呼吸器症候群)のウィルスも分解可能なために最近は東アジアでも注目され始めている。
※4 農業廃水の浄化
水質の浄化にも応用しようという取り組みがなされている。農業廃水の浄化などに用いられることが考えられ、現在試験段階にある。
※5 ヒートアイランド対策
酸化チタンでコーティングされたビルの外壁に水を流してやることで「打ち水効果」が発揮でき、室内温度が下がって、冷房需要を抑えることができ、ヒートアイランド対策にもなる。これは薄く広く水をならす性質(超親水性という)を利用するもので、少量の水でまんべんなく覆うことが出来るのだ。コーティングされてない壁に水を流したのでは水はお互いに集まってすぐ筋になって流れてしまって、うまくいかない。
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