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貧困を生まない貿易〜フェアトレードを広めるために

2003年から約2年半、国際フェアトレード認証機構(FLO)の日本支部であるフェアトレード・ラベル・ジャパンのスタッフを務め、今はフェアトレード・リソースセンターという、フェアトレードに関する国内外のニュースや情報を広く提供する非営利機関を運営する立場から、フェアトレードの現状や役割についてディスカッションしたいと思う。

●格差を拡大する貿易のしくみ

一口にフェアトレードといっても、大きく分けて2つの概念が混在して語られることが多い。「貿易問題」と「開発問題」だ。「開発」の視点で見たフェアトレードの例としては、たとえば途上国でつくられた手工芸品や織物など、もともとは先進国と取引のなかった「貿易からはじき出された人」が対象となる。つまり、主に雇用創出の話である。一方で「貿易」の視点で見ると、1980年代からの自由主義経済の広がりを受け、先進国が途上国に圧力をかけることで農産物の国際相場が下落し、農家の生活が困窮するという背景を受けて、「貿易の中で搾取される人」が対象となる。

この2つの問題は、きれいに分けられるわけではないが、今日は主に貿易の視点に立ったフェアトレードの話をしてみたい。そこで、講義の前に「貿易ゲーム」を通して、実際の貿易でどんなことが起こり得るのか体感してもらおうと思う。

ミニワークショップ

「各テーブルに配られた、紙、はさみ、コンパスなどの道具を使い、ホワイトボードにあるような、丸、四角といった形の「製品」をつくって、市場に売りに来てください。できるだけ多く利益を上げたグループが勝ちです。ただし、国際規格に照らして、きれいに仕上がっていない製品は引き取れません」

この後、1グループ4〜5名のグループごとに「製品」づくりに取りかかるが、道具は平等に配られているわけではなく、少ない道具で工夫したり、グループ間で交渉して道具の貸し借りといった試行錯誤が見られた。結果、最も売り上げの大きかったグループと最も少なかったグループとでは、売り上げに大きな差が生まれ、あらかじめ不平等な条件があることで、経済格差が拡大していく仕組みを模擬体験した。

貿易ゲームを経験してみて、「貿易は何のためにするのか?」を改めて考えてみてほしい。貿易によって、自国も他国も発展できるかもしれない。いわゆるwin-winの関係だ。今のゲームではwin-winになっていただろうか。大きな儲けが出たチームとそうでなかったチームがあった。今日はゲームだからいいいとして、これが現実に起こっている問題だ。ではどうして、win-winになれないのだろうか。

ひとつには、それぞれの国や地域が持っている資源がそもそも違うためだ。今のゲームでいえば、紙がさしずめ天然資源に相当し、はさみやコンパスは、技術、情報に相当するかもしれない。このようにもともとの資源に差がある上に、自ずと競争原理が働き、持てる国・地域はますます多くのものを手にし、貧しい国はますます貧しくなるというのが現実ではないか。

たとえばコーヒーの価格について考えてみよう。フェアトレードでコーヒーが取り上げられるのは、途上国から先進国への貿易額が石油に次いで多いためである。コーヒー豆、1ポンド(約435グラム)では、およそ50杯分のコーヒーになるが、1杯300円とすると1万5000円の売り上げになる。ところが、1ポンドの豆を育てた途上国の生産者の手に渡るのは、このうちせいぜい80円程度。モカを産出するエチオピアは、外貨獲得の約半分をコーヒーに依存しているが、人々の平均年収は160ドル程度に過ぎない。2003〜2004年ごろのコーヒー危機では、さらにその半分ほどに落ち込んだ。

こうした状況の解決策の1つがフェアトレードだ。途上国と言われる国や地域の人たちがつくったモノを、長期的に適正な価格で買うことで、彼らの生活と生産を持続可能にすることができる。仲介業者が多大な利益を上げて生産者を搾取しているような場合に、生産者と市場を直接つないだり、原料を加工して付加価値の高い商品をつくれるような技術支援をするなど、フェアトレードにはさまざまな手法がある。

●地域全体を支える役割も

フェアトレードが本当に生産者のためになっているのか、FLOにも認証されている、メキシコのFIECH(フィエッチ)というコーヒー生産者組合の例を見てみよう。コーヒー農園は通常、森を一面切り開いて一帯を畑にすることが多いが、ここでは森と共存するアグロフォレストリーという考え方で有機栽培を行っている。森を残しながら、元の生態系を破壊せず、バナナなどほかの作物とも共存している。生物多様性を保つことで土地がやせるのを防ぎ、過度に化学肥料に頼らないで済むようにしている。組合では有機栽培のトレーニングをしたり、出荷時の袋に生産者のグループ名をつけて、トレーサビリティをしっかり確保するなどの指導をすることで、農家をサポートしている。

もう一つ、フェアトレードラベル発祥の地であるUCIRI(ウシリ)という組合では、単一産品に頼るリスクを回避するため、コーヒーだけでなく、パッションフルーツのジャムを生産するなど、経営の多角化を図っている。交通機関のない山奥に位置しているが、組合でバスを買い取って交通サービスを行ったり、歯の治療を無料で受けられるなど、福利厚生にも力を入れ、組合が自治体のような働きをしながら、地域全体を支えている。

ウシリで生産されたコーヒー豆は、ほとんどがフェアトレードとして出荷されているが、メキシコでもそのほかの組合では、フェアトレード用に出荷されるのは2〜3割で、残りは一般市場向けに出さざるを得ず、生産者に還元される利益は少なくなる。エチオピアではさらに厳しく、全体の7%程度しかフェアトレード商品として扱われないという。フェアトレード市場をもっと拡大する必要があるのだ。

●さらなる普及に向けて

ではフェアトレード市場について見てみよう。例えばドイツは、FLOなど国際的なフェアトレード組織の本部があり、フェアトレード先進国のひとつだ。フェアトレードラベル商品を扱っている組織・団体は約100社あり、約2万4000のごくふつうのスーパーマーケットでも販売され、ドイツ国内でのフェアトレード市場は、約7085万ユーロ(約99億1000万円)といわれている。こうした背景には、2003年に政府がフェアトレード支援を正式に表明したことが大きいのだろう。

イギリスでは、大手NGOのOXFAMなどがフェアトレード運動を牽引してきた。市民の間での関心も高く、売上高は約2億8000万ユーロ(約392億円)と、アメリカに次ぎ世界第2位の市場規模だ。認証ラベルを付けた商品を販売している組織・団体の数は178社あり、流通しているフェアトレード商品の種類は約1500種にも上る。「フェアトレード・タウン」を宣言する自治体もあり、ビジネスと行政の両面から市民生活に浸透しているといえる。

一方、日本でも少しずつ広がってはいるのだが、まだまだ一般的になっていない。市場規模も4億7000万円(FLO認証製品のみ)と欧米からは遠く隔たっている。欧米でフェアトレードが盛んな国は、たとえば動物愛護の観点から毛皮コートの着用や化粧品の動物実験に反対するなど、倫理的消費者運動という背景がある。日本の運動は、消費者の権利を主張するという面が強く、消費者の義務や倫理的な意識があまり広まってこなかったのではないだろうか。

今後は、多くの一般の人に知ってもらうために、開発教育や国際理解教育といった分野にフェアトレードをもっと取り入れたり、映画やテレビ番組などを通じて、少しずつでも広げたいと思う。フェアトレード商品は高いというイメージがあると思うが、市場が広がればコストを抑えられ、さらに普及を加速させられるだろう。イギリスでは、フェアトレードのインスタントコーヒーの価格を大手メーカーのインスタントコーヒーより安く設定しているそうだ。

ある商品を買うという行為は、その商品がつくられた背景を支持することにほかならない。幼い子供の労働に支えられた製品を買うということは、児童労働のある世界を選んでいるということだ。こうした意味で、フェアトレードは私たち誰もがかかわっている問題だということを知ってほしい。

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