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食と農を通して考える日本と世界

今日は、私の経験を踏まえながら、農業や食べ物というものが、私たちの生活やこれからの日本の社会のあり方、そして世界のあり方にどうつながっているのかをお話ししたいと思う。

●運動体と事業体の両輪で

私が活動するのは、「大地を守る会」という市民団体と、「株式会社大地」という企業の2つだ。両者がクルマの両輪のように連動し、運動と事業を展開していることに特徴がある。

政府や農薬会社、あるいは農家に対して、「農薬を使わないでほしい」「危険な農薬は売るな」などと訴える運動もあるだろうが、そうした他人任せのアプローチだけでは問題は解決しないと思った。たとえ小さくとも、農薬を使わない生産、流通、消費というモデルをつくらないと、この運動は成り立たないと思ったのだ。そこで、農業や環境問題に運動として取り組む大地を守る会と、無農薬・有機農法の農産物を実際に生産して販売するための株式会社大地の2つをつくったわけだ。

30年ぐらい前の設立当初、私たち有機農業運動は圧倒的に少数派だった。成長することが幸せにつながると信じられ、農業分野でも、化学肥料や農薬をたくさん使いながら生産性を上げていくこと、あるいは農薬のおかげで、草むしりのようなつらい労働から解放されることがもてはやされていた時代だ。一方で、一部の消費者は、食べ物の安全性や農薬の恐ろしさについて知り始め、効率化を求める農業の危うさを描いた、有吉佐和子さんの『複合汚染』という小説に影響を受けた人も多かった。私たちもそのことに強く影響を受けて、1975年に「大地を守る会」を立ち上げた。

2年後には株式会社大地を設立し、有機農産物を学校給食に入れようとか、スーパーマーケットや普通の八百屋さんにも取り扱ってもらえるような働きかけを開始した。1980年代前半までは、自分たちの組織をつくると同時に、周囲にも運動を広げようとしていた時期だ。1980年代の後半なると、ようやく先進的な生協などで有機農産物が売られるようになり、90年代に入り次々と「有機農産物」が出回り始めると、農水省は偽物を取り締まるという観点で有機農産物のガイドラインを1992年に発表した。その後、有機農産物に対する理解が深まり、2006年にはついに「有機農業推進法」という法律が施行され、農業の環境問題やその安全性、また持続可能な農業についての法体系が初めて示されたことになる。

●グローバリズムから下りよう!

日本の食料自給率は39%。それなのに、政府も国民も危機感が足りないと思う。金さえあればいつでも食料が手に入るというのは幻想だ。増え続ける世界人口と異常気象によって、近い将来、食糧危機の時代を迎えるかもしれないと真剣に考える必要がある。こういうときに、安いからというだけの理由で食糧調達を海外に依存するという政策は、明らかに間違っているのではないか。食料問題を考えるのであれば、農家や耕地を残しておくことが何よりも大事だ。

今、日本の農村は非常に苦しい。今年はじめに東北の農村をずっと回ってみると、米の値段が1俵1万2,000〜4,000円程度だという。おそらく1万5,000〜6,000円ぐらいないと、コスト割れだろう。こうした状況が続けば、稲作農家は雪崩を打って米づくりをやめるに違いない。日本の農業は、そういう重大な転換期に来てしまった。外国産との価格競争に太刀打ちできないという意味では野菜も同様だ。

近ごろ私は農家の人たちにこう言っている。「もうグローバリズムというものから下りようよ」と。グローバリズムとは世界の農産物と価格で競争することだ。農産物の価格を決めている世界の潮流はたった2つしかない。1つは、アメリカ型の超大型農業。巨大な土地にセスナ機で種をまき、コンバインで収穫するような農業だ。もう1つは、途上国の貧しい農家が、身を削るような思いをすることで成り立っている農業だ。この2つの潮流に、日本の農業が価格で競争しようとすればするほど追い詰められてしまう。

自給率39%を人間の数に置き換えて考えると、消費者の約6割は、どうしても安いほうがいいという理由で外国産の農産物を買ってしまうかもしれない。ちょっと乱暴な言い方をすれば、こうした層にアピールするのはあきらめて、残り4割の人たちが望むような農業に転換したほうがいいと思う。顔の見える関係の中で安全な農産物を買いたいという消費者に向き合うことで、再び自給率を高める農業のあり方が見えてくるだろうという希望を抱いている。

●日本は自給できる

「有機農業なんかやって、ほんとに自給できるんですか」と聞かれることがよくあるが、私はできると思っている。

江戸時代の300年間、日本は鎖国していたにもかかわらず、3,000万人がこの間生き続けた。今の耕作面積は当時の約2倍、生産技術の向上も加味すれば、生産性はおよそ6倍といわれる。つまり、江戸時代と同程度の食生活を送るなら、日本の土地をフル稼働させれば、3,000万人×6=1億8,000万人が食べていけると考えられる。

自給率の低下を食い止める最大のポイントは、第一には政府の食糧政策だ。起こりうる食糧危機への政策をしっかり示すことで、特に消費者側の農業に対する考え方が大きく変わってくるのではないか。将来にわたって食べ物を持続可能に安定的に手に入れる、つまり子どもや孫の時代に飢えることがないようにするためには、多少高くても自国の農産物を買うことで農業を守っていくこと、生産基盤を残していくことがどんなに大事なことかを、消費者がもっと知るべきだと思う。

さらに、国家の自給率もすごく大事だが、足元の自給率も見直してはどうか。自分が属している生協の自給率や、よく行くレストランや居酒屋などに自給率の表示を求めたり、自分の家の自給率を気にかけながら食生活を送るようになれば、国の自給率にも変化が出てくるのではないかと思う。

●食卓から見える世界

日本の農業は、1961年に制定された「農業基本法」以来大きく変わったといわれている。この法の骨子は、米を中心に日本の農業を育て、小麦や大豆、トウモロコシは海外に頼ること、また従来の畜産から近代畜産への転向にあった。

当時の木材市場を見ると、1965年ごろに日本が自由化したことで、タイの東北部の原生林が次々と切り開かれ、日本に向けて輸出された。農業基本法ができる前、その地域の森林率は74%という記録があるが、今の森林率はおよそ14%だ。ほとんどの木を切り倒して丸裸にした後、今度はサトウキビ、キャッサバ、メイズ(飼料用のトウモロコシ)という換金作物用の畑に転換された。

このメイズの輸入先がまた日本だった。ものすごい勢いで近代化された日本の畜産を支えたのが、実はタイ産のメイズだったのである。以前は一軒の畜産農家が、せいぜい5〜10頭のブタ、30羽ぐらいのニワトリを飼っているという程度だった。この飼料用メイズが大量に輸入されたことで一気に畜産が近代化し、一軒の農家でブタ5,000頭、ニワトリ2,000〜3,000羽、大規模な場合は1万羽というスケールに拡大した。

そうやって、タイの農村ではキャッサバとサトウキビと特にトウモロコシが生産されるようになったが、やがてアメリカが自国の農家に補助金を出してタイ産より安いトウモロコシを大量生産することに成功し、日本市場はアメリカに奪われることになる。

原生林を切り開き、換金作物の価格競争に敗れ、もともと貧しかったタイの農村はさらに疲弊して、農家は自分の娘も売らなくてはいけないほどの窮状に陥った。タイの貧困と日本の農業にはこうした密接な関係がある。私たちの食生活と世界の関連性を示すいい例だ。

●フードマイレージで温暖化防止

私たちの食生活と世界のつながりという点でもう一つ、フードマイレージについて考えてみたい。フードマイレージとは、食べものが運ばれてきた距離のことだ。大地を守る会のキャンペーンでは、飛行機や船での輸送の際に出るCO2を、イタリア語で「ちょっとずつ」を示すpoco(ポコ)という単位にし、食べることとCO2排出のつながりをわかりやすく示している。

CO2を100グラム減らす単位を1pocoとしているのだが、たとえば豚肉200グラムを外国産から国産に替えると1.4poco、つまりCO2を140グラム削減できると計算できる。1本30グラムのアスパラガスを3本国産に替えると4.1poco。食パン1斤を国産の小麦でつくると1.5pocoというように、毎日の食生活のほとんどをpocoに置き換えて計算できる。

地球温暖化防止のために、環境省が一生懸命宣伝しているクールビズで、冷房温度を27℃から28℃に1℃上げた場合、節約できるCO2は丸1日で0.5poco。豚肉を国産に買えれば、およそ3日間のクールビズと同じ効果がある。それだけ毎日の食生活が地球温暖化というグローバルな問題にも深く関連していることが分かると思う。


今、これまでのように効率や生産性だけを追い求めるのではなく、緩やかに、エコとかスローを志向する社会に変わりつつあり、農業など第一次産業に夢を見る人たちも少しずつ増えてきているようだ。これが単なる流行ではなくて、しっかりと地に足が着いた流れになれば、日本の社会ももう少しよくなっていくという希望を感じる。運動だけでなく、ちゃんと食べていける事業としても成り立つように、あらゆる分野でビジネスモデルができていけば、こうした動きをさらに加速させられるだろう。そういうことを期待しながら、これからも大地を守る会と株式会社大地の運動と事業を続けていくつもりだ。

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