ダイワJFS・青少年サステナビリティ・カレッジ
第6回講義録 「廃棄物最前線―不法投棄から資源ごみ輸出へ」
県の職員として不法投棄の現場にかかわってきた立場から、こうした講演をする機会がよくあるが、近ごろは名古屋方面からの依頼が増えてきた。中京圏は今、非常に経済が成長しているが、それにともなう廃棄物の処理が追いついていないことの表れだろう。東京近郊はだいぶ落ち着いてきているが、ひと頃は首都圏のあちこちの産業廃棄物が千葉県に運び込まれ、途方もない量が不法投棄されていた。中には、非常に強い毒性のある廃棄物を詰めたドラム缶が何十本も崖からほうり投げられていた例もあり、ガスマスクをしないと入れない現場もあった。そうした数々の現場を歩いた経験から、複雑に絡み合った廃棄物をめぐる現状をお伝えしたいと思う。
●不法投棄の諸相
一口に不法投棄といっても、法律、環境、経済、社会と、多様な見方ができ、さまざまな解釈ができる。
まず法律の観点で見れば、不法投棄とは廃棄物処理法16条に対する法令違反である。他人の土地に勝手にごみを捨てれば民法にも触れ、海に捨てれば海洋汚染防止法の違反ともなる。不法投棄は環境汚染だという見方もあるが、自明のようでいて必ずしもそうではない。例えば、道路わきにコンクリート破片が捨てられても、それが直接環境汚染を引き起こすわけではない。いずれにせよ、犯罪として見るか汚染源として見るかでその対策も違ってくる。犯罪なら犯人検挙と防犯に務めることが必要だろう。環境の視点で見れば、汚染の除去予防が必要となる。
また、マテリアルバランスの不均衡によって起こっている問題という見方もある。さらに、廃棄物の処理には相応のコストがかかるため、マイナス資産であるがゆえの問題と見ることもできる。コストをかけたくないために不法投棄という手段を選んでいるのである。それならば、廃棄物をプラス資産にすればいい。再生資源としてリサイクルしたり、環境に配慮した企業であることをPRするために行う積極的な行為なのだとすれば、廃棄物の処理費をコストではなく投資だと見ることができるだろう。
さらに、都市部のごみを農村部で捨て、先進国のごみを途上国に運んでいるという意味で、地域格差の問題もはらんでいる。廃棄物処理法では、産業廃棄物(産廃)は広域処理、一般廃棄物(家庭ごみ)は市町村内で処理することになっている。産廃は日本中どこに運んでもいいことになっているのだ。これに対して、千葉県をはじめ地方自治体の中には、「東京のごみはお断り」だとして、流入廃棄物の規制をしているところも多い。環境省は法律違反だというが、各自治体は自分たちの権利だとして、条例を施行しているという状況だ。
●不法投棄を取り巻く複雑な構造
不法投棄を取り巻く構造は、目に見えるものから見えない構造へと深まっていく。まず目に見えやすい表層的なところから見てみよう。不法投棄の現場には、「穴屋」「一発屋」「まとめ屋」と呼ばれる人がいる。穴屋とは投棄現場で廃棄物を埋めるための穴を掘る人、一発屋はダンプカーで廃棄物を捨てに来る人、まとめ屋とは両者をつなぐコーディネーターで、ダンプを集めてきて穴屋に紹介するのが仕事だ。背後には暴力団が組織的に関与している。さらにその背後には、廃棄物処理の許可を受けた処理施設が介在する経済犯罪という側面もある。ここまでが、見つかった場合には逮捕される犯罪レベルである。
さらにこの奥に、廃棄物処理を丸投げした産業界の怠慢があるといえる。最近では製造業者が最後まで責任を取るというサプライチェーンマネジメント、ライフサイクルアセスメント、製造物責任などの考え方が根付きつつあり、ずいぶんよくなってきている。また、規制ばかり強化して、需要と供給のギャップを放置してきた行政にも問題がある。ギャップがあれば必要悪として不法投棄が出るのは自明のことである。廃棄物処理法は専門家の間でザル法といわれている。合法的な抜け道がたくさんあるのだ。不法投棄がこうした多層な構造の上に成り立っていることを押さえてほしい。
こうした多層構造をさらに複雑にしているのが、法律の枠組み内で行われる廃棄物処理の流れである「上部構造」と、アウトローの世界である「地下構造」がきれいに分けられないという点だ。排出事業者から無許可施設に委託され、一発屋、まとめ屋、穴屋などを介して、不法投棄の現場へ運ばれるという構造があるのだ。不法投棄現場を掘り返して、廃棄物のルートを上流へたどっていくと、許可業者にいったん入ったものが不法投棄されているケースが多い。大規模な現場ほど許可施設を経由している傾向がある。というのも、無許可の業者では10万トンとか50万トンという大量の廃棄物を集めることなどできないからだ。
●廃棄物ビジネスの変遷
冒頭で、廃棄物をプラス資産にすればいいと言ったが、実は今、廃棄物ビジネスのチャンスは非常に拡大している。その背景には、いわゆるBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の急激な経済成長というグローバルな環境変化がある。日本の廃棄物輸出量を財務省の統計(2005年)で見ると、廃プラや銅くずは香港・台湾経由も含めてほとんどが中国行き、古紙も8割以上が中国行きだ。中国に資源が集まっているのは、日本からだけでなく、EUからもアメリカからも大量の廃棄物が中国に輸出されている。こうしたビジネスの隆盛は10年前には考えられなかったことだ。
ここにいたる廃棄物ビジネスの変遷をふり返ってみよう。まず2000年までは、処理施設が不足しリサイクルコストも非常に高かったために「不法投棄全盛時代」が続いていた。2001年ごろになると、先進国ではリサイクルに関連する法整備が進み、日本でも一連のリサイクル法ができた。その後2003年にかけて、リサイクルとその輸出ブームが始まり、2003年の10月、ちょうど9.11テロの翌月には、国際資源価格が反転した。この後、廃棄物がただのゴミではなく資源となる時代が到来した。
2001年6月に戦後最安値を記録した国内の鉄スクラップが、2004年には5倍に急騰し1トン3万円近くになった。廃プラスチックの価格は約2倍に跳ね上がった。このため、「廃棄物輸出ビジネスのインフレーション」が起こり、ペットボトルの国内リサイクル工場の稼働率は5割に落ち込むなど、国内リサイクルシステムの空洞化を招くことになる。これは日本だけでなくEU、ドイツなども同様だ。
その後2006年にかけて、今度は非鉄スクラップが2倍以上に値上がりしたため、「窃盗時代」に突入した。たとえば、グレーチング(道路側溝の格子状のふた)や、霊園からは花立てや線香立てが盗まれている。こうした盗品を集める人は「買い子」と呼ばれる。また、解体業者が無断解体を行いブローカーに流すこともある。廃家電はもちろん廃店舗の設備も対象だ。パチンコ屋が閉店した際、パチンコ玉、コイン、各種ケーブル類を含め、内装をごっそり盗まれたという話を聞いた。ブローカーからスクラップ業者を経て、ロシア、北朝鮮、韓国、中国・香港、台湾、インド、UAE、イラン、ナイジェリアなどの国に輸出されるというしくみで、金属盗品のシンジケートが出来上がっている。
●不法投棄はなくせるか?
廃棄物が隆盛を極める中、不法投棄をなくすにはどうしたらいいのだろうか。取り締りという法的対策と、業界再編という経済的対策の2つの方法が考えられる。法的対策とは、罰則強化、規制強化を徹底し、たとえば投棄現場で見つかった廃棄物が大企業のものだったら、その企業に規制を適用されるようにする。そうすれば悪質な業者は減少するが、そうした業者を含めて需給バランスが取れていたので、業者が減るだけでは別のアウトローが入り込む余地が増えるだけでかえって悪循環となりかねない。
つまり一面的な規制だけでなく、優良業者を伸ばす一方で、悪質業者を締め出し、需給のバランスを見ながら業界全体をよくしていくというバランス感覚が必要だ。経済の構造的な需給ギャップが不法投棄を招いているのだから、そのギャップを別の方法で埋めればいいのだ。
とはいえ、需給ギャップの背景にはさまざまな二重構造があり、なかなか難しい問題である。たとえば、マイノリティの差別といった社会の二重構造、抜け道の多い規制や産廃と一般廃棄物の地域差といった法律の二重構造、また所得・資産の格差や闇市場の存在といった経済の二重構造などがある。いったん構造化された差別や格差を個人の力で解決するのは難しく、これがやがて価格差の搾取、超過利潤や既得権を特権化するという価格差搾取構造に発展していく。こういう構造の中に、不法投棄の問題がある。
●いつまで続く?産廃ビジネスの隆盛
廃棄物ビジネスの隆盛が、大量の廃棄物が出る社会を前提としているのなら、たいへん危険な状態であるともいえる。今は中国が大量の廃棄物を資源として買い付け、その影響で価格が高騰したために、市場経済の中で廃棄物リサイクル・輸出産業が採算ベースに乗って拡大しており、一見するとかつては絵空事と思われた循環型社会が実現しているように見える。しかしその一方で、中国の急拡大の経済成長によって、トータルで見れば大量の資源を使っていることに変わりはない。地球規模で資源がどう循環しているかに目をやらず、日本だけを見ると見誤ってしまう。中国にしても、国内の廃棄物をどう処理すればいいか、やがて苦慮する段階に入るのは目に見えている。いつまでも廃棄物を輸入してもらえると思ったら間違いだ。
少し前まではただのゴミだったものが資源になるなど、これまでも廃棄物の定義はどんどん変わってきている。処理費用をコストと見るから不法投棄も起こるが、適正なコストを負担するのは投資と見るべきだ。環境に配慮した投資をしている企業には、金融機関が低利でお金を貸すとか、SRIファンドなど、社会的に支えていこうという動きもある。
●新しい言葉をつむぎ、新しい時代を
人が集落や都市をつくればごみが出る。1万年以上も前から脈々と続いてきた営みだが、いよいよ克服しないといけない時代になった。人間の本性を本質的に変え、新しい時代を開く鍵は何だろうか。新しい言葉を見つけることだろうと私は思う。時代を変える人物はみんな新しい言葉を発見してきた。「サステナビリティ」「循環型社会」「ゼロエミッション」「エコロジカルフットプリント」といった言葉は、すべて10年以上前につくられたものだ。そうした言葉だけで説明している限り、従来の価値観から抜け出せないのではないか。
急激に廃棄物の世界が変わってきているこの5年間を説明するのに、10年前の言葉では通用しない。古い言葉を使っている限り、現在進行中の新しい現象を説明することなど決してできないだろう。従来の言葉が持つ価値観に学びつつも、新しい言葉を獲得することだ。そしてそれは人に教わるものではない。皆さん自身で見つけてほしい。見つけられた人が時代を変えていくに違いないのだから。
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