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第3回講義録 「持続可能なエネルギーを目指して
―世界の最新動向と日本での可能性」

持続可能なエネルギーの概念は、特に欧米の優れた研究者の間で、あるいはアジアでも中国などでは、「大体こういうものだ」という共通理解があるが、日本にはまだそれがなく、さまざまな混乱した情報が流れている。世界で大きな波が動いている中で、国際的で普遍的な概念を日本でもきちんと政策として根付かせ、実現に向けて動いていくためは、どのような取り組みが必要だろうか。

●持続可能な自然エネルギーとは?

「自然エネルギー」には、太陽エネルギー起源、マグマの熱つまり地熱エネルギー、風力エネルギー、波力・潮力エネルギーなどがある。「再生可能エネルギー」といわれるものの中でも、持続可能な自然エネルギーとはいえないものもある。例えば、中国の山峡ダムに代表されるような開発のためのダムや、日本でも多目的ダムと呼ばれる大型で発電機能を持ったダムは、二酸化炭素は出さないものの、あまりに河川など自然環境への影響と、生活環境や社会環境への悪影響が大きいものは自然エネルギーとはいえない。

あるいは伝統的バイオマスもそうだ。これは途上国や日本でもまだ田舎で見かけるように、木や草、インドなら牛糞など、大気汚染を起こしながら燃やすような旧来型のバイオマス利用のことをいう。非常に効率が悪くそれによって健康被害が生じることが問題とされている。こうしたものを除いたものを持続可能な自然エネルギー(英語ではNew Renewable)と呼んでいる。

持続可能なエネルギーとは、一次エネルギー源を、いかに100%自然エネルギーに変えていくか、そして利用側のエネルギー効率を向上して、一次エネルギー源の消費量を削減するかという2点が重要になる。エクセルギーが高いもの、例えば電気を生み出すときは必ず廃熱が出る。電気として利用できるのはせいぜい40%で、残り60%は廃熱となる。廃熱はエクセルギーが落ちているが、暖房や給湯には十分利用できる。太陽光や風力、水力などのように直接電気に変える技術を除いて、直接燃焼による発電の場合は、熱をきちんと暖房などに使える設備を備えていないと多くのムダが生じる。かつてロッキー・マウンテン研究所のエイモリー・ロビンス氏が、「電気で暖房するのは、電気ノコギリでバターを切るようなものだ」と言っていた。要は適材適所でエネルギーを使い分けなさいということである。究極的な持続可能な社会というのは、再生可能なエネルギー源を、再生可能なペースで使うことでしか実現しない。

●自然エネルギーは解決策になるか?

自然エネルギーは今、国際的に最も注目されている温暖化対策の1つである。そればかりか、産業政策でもあり、雇用政策でもあり、地域政策でもあり、こんなにメリットがあることはないはずなのに、国際的な気運が高まるのに逆行して、日本はなぜか非常に低調な空気だ。

供給量は大丈夫なのかという懸念を聞く。私たちが今使っている石油や原子力は、地球全体に降り注ぐ太陽エネルギーの大体1%に過ぎない。もちろん太陽エネルギーの7割はまず直接反射で出ていっているので、それがすべて使えるわけではないが、太陽エネルギーだけを見ても、量的にはまず全く問題がない。あとは技術的・経済的・社会的・時間的に導入できるかが課題だ。

過去100年のGDPとエネルギー成長を見ると、両者が共に成長しているが、もちろんエネルギーが成長するから経済が成長するのではなくて、その逆である。これまでのグローバル経済ではどこの国でも、経済が成長するのに引きずられてエネルギーが成長してきた。この先は、経済は成長してもエネルギーは増やさず、むしろ減らしていくという「デカップリング(切り離し)」が必要だ。

先進国は経済成長とエネルギー消費増を分離し、量の成長から質の発展に変えなければいけない。途上国は、世界65億人のうち20億以上の人が、必要最小限のエネルギーにすらアクセスできていない現状では、まずシビルミニマムが必要だ。ただそれは、先進国が石油をがぶ飲みしながら成長したような形ではなくて、先進国が到達しているような最新の省エネ技術を導入して、石油浪費時代を飛び越さないといけないということである。

●鍵となる適切な政策の導入

そういう中で、日本はこれから自然エネルギーをわずかに1.35%増大させるという、虫眼鏡がないと見えないような目標を掲げているが、世界を見渡せば、今後2010〜2020年の枠で20%水準の意欲的な目標値を掲げている国もある。特に成功しているのは、やはりドイツやスウェーデンなど北欧諸国だ。

ドイツの風力発電は、1990年までほとんどゼロだったが、昨年末で世界の4割の風力発電を占めるまでになった。しかも電力の10%を自然エネルギーでまかなうまでになり、二酸化炭素を8,000万トン削減している。8,000万トンというと、日本が削減すべき6%に相当する。風力発電で4,000億円、自然エネルギー全体だと1兆円市場になっていて、今、17万人の雇用が生み出されている。

もう1つ、スウェーデンのバイオマスエネルギーもいい例である。バイオマスとは、木くずとか動物・植物の廃棄物などをエネルギー資源に使うものだが、スウェーデンの場合、特に木くずが多い。現在、木くずで一次エネルギーのおよそ2割を占めており、石油に次ぐエネルギー源になっている。最大の効果は、1990〜91年にかけて環境税を導入している点だ。化石燃料にはかかる環境税がバイオマスにはかからない制度を導入したのである。

要は、まず政治的に高い目標値を掲げて、適切な政策を導入すれば、着実に増えるのが自然エネルギーだというのが、国際的なコモンセンスになっている。ただ問題は、その適切な政策が導入できるかどうか。実は今、日本はそれができなくて非常に悩んでいる。どうすればいいのだろうか。スウェーデンのバイオマスエネルギーにしても、環境税を入れたから普及したという単純な話ではない。やはり社会的なインフラ、物理的なインフラと政治的なインフラがあったからだ。

スウェーデンの場合は、全国288の自治体があるが、そのうちの110ヶ所ぐらいで、バイオマスエネルギーを利用した地域暖房の装置がある。南部にあるベクショーという町は1980年から段階的に、地域の森林業が中心になってバイオマスエネルギーを導入していき、1996年からは化石燃料ゼロを宣言して、バイオマス100%に転換していった。単にエネルギー問題の解決を目指すのではなく、地域ぐるみで「アジェンダ21」という環境計画を地域でつくり上げる中で出来上がったのである。「どこかのエネルギー会社が勝手にやっていますね」という話ではない。装置だけではなくて、地域エネルギー会社として、地域のエネルギーを自己決定できる仕組みがある。そこが国際的にも常に注目されている点だ。

デンマークのコペンハーゲンでは、環境エネルギー事務所という組織が、行政と事業者とNPOのパートナーシップの場をつくって自然エネルギーに取り組んでいる。今コペンハーゲンには、洋上風力発電用に沖合に風車が20基並んでいるが、このうちの半分10基は18億円をコペンハーゲン市民が1口5万円で出資している。これは非常に利回りがよくて、年利が10%も戻ってくるため、5年ぐらいで元が取れて、後はもうかるという非常にいい風車である。これをコーディネートしたのが環境エネルギー事務所だ。

同じくデンマークのサムソ島という島では自然エネルギー100%を宣言している。ここにも環境エネルギー事務所を新たに設けて、ソーレン・ハーマセンという人が中心となり、風車をつくっている。ワラを使った地域暖房をするという形で、電力に関しては自然エネルギー100%を1997年から始めて、2003年に到達。熱に関しては現在、およそ60%を自然エネルギーに転換している。

サムソ島のすばらしいところは、地域内に閉じたタコツボ的な取り組みではなくて、EUにおける自然エネルギーの地域事務所の要になっている点だ。今、EU全体には、地域の環境エネルギー事務所が300以上あり、エネルギー政策とエネルギー事業の、いわば分権化・分散化が進んでいるといえる。

●日本で生まれる新しい取り組み

では日本には希望がないのかと言うと、非常に面白いのは東京都だ。かつて大気汚染が非常に激しかったころに、東京都がかなり厳しい大気汚染の条例をつくり、東京電力などとも手を組み、それがまたたく間に全国の自治体に広がった。結局国も大気汚染防止法を厳しくせざるを得なかったという経緯がある。最近の例では、ディーゼル排ガス規制や、二酸化炭素を事業者が算定して公表する取り組みも、東京都から全国に広がった動きである。

その東京都が今年、日本の1.35%ではなくて、2020年までに自然エネルギーを20%使えるようにしようということを発表した。これは実は私も委員に入って、一緒に東京都環境局でつくっている。そういうような地方自治体の新しい取り組みがある。

これは日本だけではなくて、実はヨーロッパでも見られることだが、小さな国、もしくは一地方自治体が非常に飛び出た環境政策、いわば政策のイノベーションを起こすと、すぐ横に伝わって、それが切磋琢磨してどんどん高度化して広がっていき、国の政策を根こそぎ変えるという動きが起こる。

ビジネスの分野でも、私たち自身が日本に紹介し、実際に生み出すところまで担ったグリーン電力証書という仕組みがある。坂本龍一さんなど、日本でコンサートをするときは、グリーン電力を使ったホールでしかやらないことにしているアーティストも生まれている。去年、今年と、7月につま恋で開かれた「ap bank fes」という野外コンサートもすべてグリーン電力で行った。こういった新しい仕組みもずいぶんと出てきている。

単に事業者がつくるだけではなくて、自分たちがお金を出し合って風車を回して、その風車の収益も自分たちが持っていく、コペンハーゲンと同じような市民風車の取り組みが、日本ではようやく2001年に始まった。私たちも参加しており、今、日本全国で9基稼動中だ。

長野県飯田市では、市民出資で集めた2億円を元に「お日さま進歩エネルギー」という事業会社を立ち上げ、太陽光と省エネルギーで事業を行っている。岡山県備前市では、市民出資で4.9億円集めて、バイオマスを使った、地産地消のエネルギー事業を起こしている。

●持続可能な社会に向けた仕組みづくり

こうした個々の取り組みを、いかに社会全体に広げていけばいいだろうか。それをつなぐ努力が必要だ。スウェーデンに暮らしたとき、いわゆるクオリティ・オブ・ライフの高さに驚いた経験がある。自然エネルギーが進んでいるだけでなく、どんな小さな町にも、劇場や映画館があり、レストランではサービスが行き届き、オフィスなどワークスペースでは快適に働けるよう配慮され、毎日非常に気持ちよく生活できる。1人ひとりがよりよい時間を過ごすことや、幸せを追求することに積極的で、社会もそれを支えようとしているようだった。

エネルギー問題を含め、30〜50年先の持続可能な社会のビジョンには、バックキャススティングが大事だといわれる。それと同時に、国や政界・ビジネス界の意思決定者にゆだねず、不確実性の中でも自己組織的に具体的な実践を積み上げていく必要があると思っている。

日本はひとたび現実が変わり始めたら非常に動きが早い。概念的思考より、まずは実体のあるものをつくってしまうのが社会変革におけるひとつのテクニックだ。現実にはトライ&エラーでひとつずつ政策を変えていくのが、一見遠回りなようでも、日本の社会をサステナブルな社会に変えていく王道ではないかなと思う。

その意味で、グリーン電力や、市民風車をまずつくり、そこに社会をどれだけ動員できるかが鍵となる。私たちのISEPでも、仕組みづくりと事業、政策、ビジネスモデル、お金の流れ、地域の合意形成、そこにすべて携わりながら、ときに絶望してしまうような議論に参加し悪戦苦闘しつつも、しかし確かな手応えはあるかなと感じている。

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